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高森郁哉の「ArtとTechの明日が見たい」

アートと技術、オーディオビジュアル、メディアをめぐる話題をピックアップ

WV的/私的2009年上半期映画ベスト10

2009年6月29日

昨年末に年間ベスト映画のエントリを書いたが、今年に入ってから映画のレビューが増えていることもあり、半期に一度のランキングに変更しようと思う。

WIRED VISION的ベスト10

ワイアードの記事が扱う分野に関連がありそうな、ストーリーにおける技術(軍事、宇宙開発、コンピューター、ロボット)や科学(物理学)の要素、あるいは映像表現における新技術(CGなどの特殊効果、3D)を基準に評価した。リンク先は当ブログのエントリ。

  1. スター・トレック (ストーリーの面白さとテンポ良い展開、視覚効果の派手さと完成度、旧シリーズの資産を活かしつつ新しい物語を創造した監督の手腕、すべてがこの時期公開されたアクション/SF系の娯楽大作の中で頭一つ抜けていた。)
  2. ウォッチメン (CGを駆使したスタイリッシュで重厚な映像美と世界観で『ダークナイト』と並ぶ傑作になったが、米国ほど日本で受けないのも同様で、好き嫌いが分かれそうな映画。)
  3. ベンジャミン・バトン 数奇な人生 (フィッツジェラルドの原作は淡々とした語りとほのかなペーソスが味わい深い短編小説なのに、映画ではいかにもハリウッド調の饒舌な感動物語になってしまったのが惜しまれる。映画オリジナルのうち、逆回転する時計のエピソードは良かったが、老後のヒロインが回想する構成は冗長な気がした。とはいえ、顔面を別の俳優に貼りつけるCG技術の自然さには驚かされた。)
  4. ターミネーター4
  5. 007/慰めの報酬
  6. トランスフォーマー/リベンジ
  7. 天使と悪魔
  8. U23D
  9. 消されたヘッドライン
    (社会派サスペンスの佳作。米Raytheon社を思わせる軍事請負会社の暴走ぶりがリアルで恐ろしい。)
  10. ブラッディ・バレンタイン 3D


私的ベスト10

上記の10本を除き、個人的に好きな映画。

  1. スラムドッグ$ミリオネア
  2. チェンジリング (取り替え子をめぐる感動的な話かと思いきや、次第にダークさを増してホラー風味になり、終盤でどーんと重い衝撃が待ち受けていて、なおかつカタルシスももたらされるという、イーストウッド監督の持ち味全開の傑作。)
  3. グラン・トリノ (もう1本のイーストウッド監督作では、9.11とイラク侵攻後の米国に対する大いなる失望から、かつてダーティー・ハリー役で体現した「力には力を」式の正義が時代遅れになったことと、「古き良きアメリカ」の継承は非白人の移民に期待するしかない21世紀の現実が語られる。)
  4. 路上のソリスト
  5. ミルク (ゲイの権利のために戦った政治家の実話もの。それにしても、「自由の国」アメリカで平等や平和を唱えたケネディ兄弟やキング牧師、ジョン・レノン、そしてハーヴェイ・ミルクが次々に殺されていったのはなんという悲劇的な皮肉だろう。)
  6. ザ・レスラー (作る側も観る側も、みんなが落ち目の中年レスラーとミッキー・ロークの人生を重ねて感動した。ダーレン・アロノフスキー監督作品では『レクイエム・フォー・ドリーム』の方が好みだけど。)
  7. レボリューショナリー・ロード 燃え尽きるまで (『タイタニック』のレオナルド・ディカプリオとケイト・ウィンスレットが再共演。あの純愛・悲恋のカップルというイメージを逆手にとったかのようなストーリー展開が憎い。皮肉の効いたラストもたまらない。)
  8. 扉をたたく人 (原題は『The Visitor』、うまい邦題です。不法移民、他者との関わり、人生の意味という答えの出ない問題に、静かな怒りと祈りをぶつけるかのように、老教授役のリチャード・ジェンキンスがアフリカの打楽器ジャンベを叩くシーンがとてもいい。)
  9. マン・オン・ワイヤー (世界貿易センターで綱渡りをした男、フランス人フィリップ・プティを描くドキュメンタリー。引きの映像ではまるで空を歩いているかのよう。奇蹟を見ている気がして泣きそうになった。)
  10. レッドクリフ Part II/未来への最終決戦 (ジョン・ウー監督が赤壁の戦いを壮大なスケールで描く。よく『ロード・オブ・ザ・リング』の合戦シーンと比較されていたけど、いちおう史実に基づくということもあってか、LOTRほどの爽快さはなかった。)

おまけ:お薦めの映画原作本5選

  • 『ぼくと1ルピーの神様』ヴィカス・スワラップ著、子安亜弥訳、ランダムハウス講談社(『スラムドッグ$ミリオネア』原作。映画より主人公がちょっぴりダーク。)
  • 『天使と悪魔』ダン・ブラウン著、越前敏弥訳、角川書店(『ダ・ヴィンチ・コード』と同様、ミステリーの楽しさは映画より原作の方が上。第3弾『ザ・ロスト・シンボル』では小説を超えられるか?)
  • 『朗読者』ベルンハルト・シュリンク著、松永美穂訳、新潮社(『愛を読むひと』原作。2000年に邦訳が出て相当な話題に。久しぶりに再読したが、これもやはり原作のほうがいい。)
  • 『荒野へ』ジョン・クラカワー著、佐宗鈴夫訳、集英社(これは昨年公開の『イントゥ・ザ・ワイルド』の原作。アラスカの荒野を目指す若者の系譜や、クリスの最期をめぐる謎解きなど、映画では割愛された要素がなかなか読み応えあり。)
  • 『ラブリー・ボーン』アリス・シーボルド著、片山奈緒美訳、アーティストハウス(ピーター・ジャクソン監督の次回作の原作。とても変わった味わいの小説で、なるべく予備知識なしで読むことをおすすめしたい。映画は12月米国公開、主演は『つぐない』でアカデミー助演女優賞にノミネートされたシアーシャ・ローナン。以下は音楽担当のブライアン・イーノの楽曲『The Big Ship』に映画のスチルを合わせた動画)

[関連エントリ]
2009年期待の映画:予告編10選
WV的/私的2008年映画ベスト10

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プロフィール

フリーランスのライター、翻訳者としての活動を経て、2010年3月、ウェブ・メディア・地域事業を手がける(株)コメディアの代表取締役に。多摩地域情報サイト「たまプレ!」編集長。ウェブ媒体などへの寄稿も映画評を中心に継続している。

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