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高森郁哉の「ArtとTechの明日が見たい」

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『ブラッディ・バレンタイン 3D』世界初のデジタル3Dホラー映画と、低価格4Kカメラ『RED ONE』

2009年2月11日

BB3D.jpg
©2009 Lions Gate Films Inc. All Rights Reserved.

原題:My Bloody Valentine 3D
監督:パトリック・ルシエ
出演:ジェンセン・アクレス、ジェイミー・キング、カー・スミスほか
配給・宣伝:ザナドゥー
2009年2月14日(土)より、池袋シネマサンシャイン、新宿バルト9、TOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国バレンタイン≪3D≫ロードショー
公式サイト

[あらすじ]
 ある年のバレンタインデー、悲劇が小さな街ハーモニーを変えた。新米の炭鉱作業員であるトム・ハニガー(ジェンセン・アクレス)は、トンネルの中で事故を起こし、5人の死者を出してしまう。唯一の生存者であるハリー・ウォーデンは、昏睡状態に陥った。そして、事件からちょうど1年後のバレンタインデーに、ハリーは目を覚ます…。そして彼は、“つるはし”を武器に残忍な方法で22人を殺害して、今は閉ざされた炭坑に重傷を負いながら逃げ込んでいった。
 それから10年後のバレンタインデー、トムはハーモニーに戻ってくる。彼は、いまだ事故の罪悪感に取り付かれていた。過去を償うために葛藤するトムは、かつての恋人であり、親友で保安官のアクセル(カー・スミス)と結婚したサラ(ジェイミー・キング)への想いにも、けじめをつけようとしていた。
 しかし、ある夜、何年も続いた平穏を脅かすように、ハーモニーに暗い過去が蘇る。鉱夫のマスクを付け“つるはし”を持った殺人鬼が、動き出したのだ。
(パンフレットより)

デジタル3Dで上映されるホラー映画としては世界初の作品で、今年1月16日に米国で公開が始まった。3D上映技術は米RealD社の『RealD』を採用しているが、この技術を使った映画としては米国で初のR指定(17歳以下は保護者の同伴が必要)でもある。なお、日本では15歳未満入場禁止のR-15指定。吹き替え版のみの公開で字幕版は上映されないが、3D映画で字幕を見ると肝心の映像が十分に楽しめないこともあるし、公開規模から考えても現実的な判断だろう。

主演のジェンセン・アクレス(上の写真)が米ドラマ『スーパーナチュラル』出演で日本でも多くの女性ファンを獲得していることもあり、女性層やカップルを意識してか“3Dラブホラー・アトラクション”と銘打っているが、一応スプラッターもので、グロ、切株もそこそこあり。B級ホラーを見慣れている人にとってはそれほど過激な表現でもないが、このジャンルに耐性がない人にはちょっときついかもしれない。

とはいえ、怖がらせる描写の多くは3D効果を活用しているので、興味のある人はやはり映画館で観るべき。そして、いつもなら事前知識をなるべく仕込まないで観ることを推奨しているけれど、今作に限っては上で引用した冒頭のあらすじと、主要キャスト3人の顔ぐらいは公式サイトの情報で覚えておいた方がよさそう。というのも、11年前の事故と10年前の事件が最初の15分ほどで駆け足で語られ、特に事故については数点の新聞記事のカットだけでほぼ説明されるため、3D映像に気を取られているとストーリーの細部を見落としかねないから(僕自身、鑑賞後にパンフを読んで、気づいていなかった部分があったことに気づいた)。

パトリック・ルシエ監督は主に編集でキャリアを築いてきた人で、劇場公開映画の監督作品は『ドラキュリア』『White Noise 2: The Light』に続いて今作が3本目。タランティーノ監督に絶賛されるなどカルト的な人気があった1981年の『血のバレンタイン』のリメイクということもあり、ストーリー展開にさほど目新しさはなく、残酷描写も既視感のあるものが多い。もっとも、作り手側もトラウマになるくらい徹底的に怖がらせるというよりは、テーマパークのアトラクションかお化け屋敷のような感覚で楽しんでもらう意図があったはずで、実際にホラーシーンでも結構笑えるところがあった。登場人物の行動にはあまり説得力がなく、「この事実を知ったら、普通はこう行動する」とか「これを見たら、普通はこう反応する」といった常識的な感覚からずれている言動がいくつもあり、決してほめられた脚本ではないが、ホラー映画の登場人物がみな理性的、合理的に行動したら映画が90分もたないのも事実。不合理な行動のせいで自らピンチを招く登場人物たちに、笑いながら突っ込みを入れるのもまたB級ホラーの楽しさだ。

さて、3D映画を観るのは『センター・オブ・ジ・アース』以来半年ぶりだが、これと比較すると、手前の人物から奥の空間まで自然な立体感と遠近感が向上しているように感じられた。特に印象的だったのは鏡を写したショットで、手前の人物から鏡へ、さらに鏡に映った鏡像まで、しっかりと奥行きが表現されているのには感心した。

撮影には、従来品より大幅に低価格化を実現した4Kデジタルシネマカメラ、米Red Digital Cinema Camera社の『RED ONE』(本体価格1万7500ドル)と、米Silicon Imaging社の2Kカメラ『SI-2K』が使用されている。RED ONEは従来機より小型化・軽量化も果たしており、ロケ地のペンシルベニア州の廃坑で、狭く足場の悪い坑道での撮影に機動力を発揮したことが映像からもうかがえる。

2007年発売のRED ONEで撮影された映画は、昨年の『ジャンパー』、ソダーバーグ監督の『チェ』二部作あたりに始まり、今年以降も数多く公開される模様だ。また、開発段階では米Apple社と協力関係を結び、『Final Cut Studio』とRED ONEを組み合わせることにより、比較的低予算で高品位な映像制作が可能になったという。なお、このApple社のサイトで紹介されているピーター・ジャクソン監督の短編『Crossing the Line』については、2分半の予告編がYouTubeにアップされている。

この予告編でも、映像のきめ細かさと美しさを実感してもらえるだろう。日本でもRED ONEの販売やレンタルが始まっているようで、このカメラでデジタル撮影された邦画が劇場で上映されるのもそう遠くないはずだ。3D映画に対しては日本の監督と制作会社はまだ様子見のようだが、『ブラッディ・バレンタイン 3D』の予算は約2000万ドル(約18億円)というから、邦画でも決して無理な額ではない。Jホラーは海外にも輸出されていることだし、ここらでぜひ日本人監督にも3D映画に挑戦してもらいたいものだ。

最後に、男性のホラーファンに残念な情報をひとつ。米国での上映時間101分に対し、日本版は95分と短縮されているが、英語版Wikipediaの項(プロットに結末まで書かれているので注意)を見ると、どうやら保安官アクセルの元ガールフレンドを演じるベッツィー・ルーのヌードシーンが削られたようだ。おそらくレーティング対策なのだろうが、B級ホラーにつきもののお色気サービスを楽しみにしている男性の観客にとっては大変な損失だ(笑)。3D映像のヌードを映画館で観るのはもう少し先、香港映画『3D Sex And Zen』が公開される2009年12月以降まで待たないといけないのかもしれない。

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プロフィール

フリーランスのライター、翻訳者としての活動を経て、2010年3月、ウェブ・メディア・地域事業を手がける(株)コメディアの代表取締役に。多摩地域情報サイト「たまプレ!」編集長。ウェブ媒体などへの寄稿も映画評を中心に継続している。

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