『ターミネーター4』:「救済」の意味、課題と評価
2009年6月 4日
機械が人間を支配するディストピア的未来から、人類の救世主の血筋を絶やすべくタイムマシンで現代に殺人ヒューマノイドが送られてくる、という設定で人気を博したSF映画『ターミネーター』シリーズ。その最新作、『ターミネーター4』(原題:Terminator Salvation)が日本で6月13日から全国公開される(5日~7日の週末に先行上映あり)。
今作は新三部作の序章という位置づけになることが明かされている。また、過去3作との最大の違いは、物語がほぼ全編にわたり2018年の未来世界で展開することだ(第3作までは、未来はカットバックで挿入されるだけで、ドラマの時間軸は映画公開時に近い現代で進行した)。
同シリーズにとって日本は北米に次ぎ2番目の興収を上げるマーケットということもあり、大がかりなパブリシティーが展開されている。テレビCMや劇場、ネットなどですでに予告編を見ている人も多いかもしれないが、ある人物に関する重要な設定が明かされてしまっているのは残念。もしアクション映画が好きで、運よくまだT4の予告編を見てない方がいるなら、迷わず事前情報をシャットアウトして劇場に行ったほうがいい。時間に余裕があるなら、過去の3作を見直して細部を思い出しておくと一層楽しめるだろう。
今回のエントリでは、前半はネタバレを避け、真ん中あたり(以降ネタバレ含む)と示した部分から下で、ストーリーの核心に触れることを書く。たぶん観に行くという方なら、鑑賞後に読んでいただくほうがいいかもしれない。
冒頭30分ほどの見どころ
死刑囚のマーカス・ライト(サム・ワーシントン)は2003年、サイバーダイン社の科学者セレーナ(ヘレナ・ボナム・カーター)から依頼された献体に同意し、じきに死刑が執行される。
時は流れ2018年。サイバーダイン社の高性能コンピューター「スカイネット」が意志を持ち人類を滅亡させるため地球の全域で核ミサイルを発射した“審判の日”から14年が経った。荒廃した世界で生き残り抵抗軍を組織する人間たちに対し、スカイネットが率いる機械軍は総攻撃を仕掛けようとする。
「人類の救世主になる」と預言された男ジョン・コナー(クリスチャン・ベイル)は、抵抗軍の部隊を率い、また各地にちらばった生存者たちにラジオでメッセージを送っている。機械軍の暗殺リストに自分自身と、将来タイムマシンで過去に行きジョンの父親となる人物カイル・リースの名があることを知り、カイルが殺される前に見つけ出そうと考える。
その頃、ロサンゼルス郊外でマーカスが目を覚ました。自分がなぜ生きているのかも、“審判の日”が起きたことも知らず、廃虚の街を呆然と歩いていると、初期バージョンのターミネーター「T-600」遭遇し、攻撃を受ける。窮地のマーカスの前に現れ、「死にたくなければ、俺について来い!」と叫ぶ男こそ、若きカイル(アントン・イェルチン)だった――。
予算2億ドルの超大作だけあって、機械軍vs.抵抗軍のバトルはとにかく派手。CGの視覚効果ももちろん多用されているがクオリティーは非常に高いし、実写の背景や大道具小道具とのブレンドも巧みで、爆薬も大量に使用されリアルな迫力が伝わってくる。機械軍のロボットも造形が見事で、旧作で出てきたヒューマノイド型や航空機型のほか、バイク型、水ヘビ型、人間を捕獲する高さ25メートルの「ハーヴェスター」といった新顔にも興奮させられる(ハーヴェスターは人間を収容するケージと地鳴りのような機械音が『宇宙戦争』のトライポッドを思わせる)。
過去作の「アイル・ビー・バック」や先の「死にたくなければ…」といった名台詞、破壊されたターミネーターが上半身だけで迫ってくるシーンなどもしっかり再現され、シリーズのファンを喜ばせる。最近のアクション映画らしい、スピーディーな展開のおかげで1時間54分の上映時間があっという間だ。戦闘場面の轟音はまず一般家庭では再現できないので、アクション大作はたいてい劇場で鑑賞するという方ならT4も観ておいて損はないだろう。
第4作の課題点(以降ネタバレ含む)
大予算のアクション映画だと、監督、脚本家、製作、映画会社それぞれの思惑が交錯し、「細部の整合性」より「派手な絵」が優先されてしまうことがよくあって、この映画もその問題を抱えている。たとえば抵抗軍はジェット機やヘリコプターを飛ばし、潜水艦も持っていて、銃も派手に撃ちまくるが、兵站はどうなってるのと気になってしまう。世界が核で荒廃し生存者は分断されているのだから、軍需産業があるわけもないし、燃料や武器、弾薬はどうやって調達しているのか。カーステレオの音を聞きつけて速攻でハンターキラー(飛行型殺傷ロボット)が攻撃してくるシーンがあるが、抵抗軍の拠点から脱走したマーカスに銃弾の雨を降らせても機械軍が反応しないのはご都合主義ではないか。
先に「ある人物に関する重要な設定」というのはマーカスのことで、彼は脳と心臓が人間で残りは機械というハイブリッド型に改造されているのだが、手術を施したセレーナがマーカスに密かに託した意図というのが回りくどく、どんでん返しの狙いすぎだと思う。真相が明かされたときは「おお、そう来たか!」と驚くけれど、冷静に考えると狙い通りに事が運ぶまでにたくさんの偶然に頼っている。それだけの技術力があるならもっと確実な方法がほかにあったはず。
マーカスの設定に関しては、作品自体よりパブリシティの問題なのだが、観客の立場なら事前に知らないまま鑑賞し、マーカスに感情移入して、改造の事実が明らかになったとき「あ、自分は人間じゃなかったのか」と一緒に驚愕できるほうが絶対に面白いと思う。それがさっき予告編も見ないほうがいいと言った理由。
評価
とまあ少々問題もあるけれど、ただでさえ責任が重い人気シリーズの続編で、しかもストーリー上の制約が多いタイムトラベル・歴史改変ものを任されたマックG監督は――ジェイムズ・キャメロン監督の『T1』『T2』に並ぶ大傑作とは言えないまでも――十分な水準の作品に仕上げたと評価したい。特に、タイムマシンがまだ開発されていない2018年という時代設定で、「未来から来る殺人ロボットとそれを阻止するヒーロー」の代わりに「過去から来た謎の男」を登場させたのは素晴らしいアイディアだ。人類に敵対する悪の機械の部分と、人類を守る善の人間の部分を併せ持つマーカスのキャラクターは、このシリーズに新たな深みを与えている。
スカイネットも殺人ロボット兵器も、元はと言えば人間が開発したものだ。それらを制御できると過信したことで機械側の反乱を招き、“審判の日”に至った。つまり機械軍という悪の勢力は人間が生み出したものであり、傲慢という罪の象徴である機械を埋め込まれたマーカスがいかに贖罪し、救済(salvation)を得るかが大きなテーマになっている。こうした含意が込められる背景には、9.11後の「悪の枢軸」発言に象徴されるような反米勢力に対するヒステリックな敵視から、たとえば『チャーリー・ウィルソンズ・ウォー』で描かれたように、アフガニスタンやアルカイダなどの反米勢力の種は冷戦時代の米国の非公式な支援によってまかれたことを認めることへの変化があると思う。単純な善悪二元論では解決できない複雑な世界を、マーカスは体現している。
『ターミネーター4』
監督:マックG
主演:クリスチャン・ベイル、サム・ワーシントン
6月13日(土) ピカデリー1他全国ロードショー
6月5日(金)、6日(土)、7日(日)先行上映(一部劇場を除く)
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
PC公式サイトURL:http://www.terminator4.jp
[参考]
ヤフーの『ターミネーター4』特集サイト。「最新ロボット工学を検証」の2ページは、WIRED VISIONの多数の記事にリンクして構成されている。
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