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高森郁哉の「ArtとTechの明日が見たい」

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新生『スター・トレック』:“一見さん大歓迎”のスペース・アクション娯楽映画

2009年5月 1日

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(C)2008 Paramount Pictures. Star Trek and Related Marks and Logos are Trademarks of CBS Studio Inc. All Rights Reserved.


惑星連邦軍戦艦「USSケルヴィン」が異形の大型艦に襲われたとき、キャプテン代行の男が自らを犠牲にして身重の妻と800人のクルーを救った。緊急脱出艇の中で生まれた男児はジェームズ・T・カークと名付けられ、やがてたくましい青年になった。カーク(クリス・パイン)は父親譲りの勇敢さと行動力を持つが、決められたルールに従わず、無鉄砲なところもあり、しばしば問題を起こしている。

一方、バルカン人の父と人間の母の間に生まれたスポック(ザッカリー・クイント)は、混血ゆえに幼い頃から疎外感を覚えながらも、天才的な頭脳を持ち、冷静沈着で論理的な問題解決を得意とする若者に育った。

この正反対のカークとスポックが、惑星連邦艦隊の幹部候補生となり、新型艦「USSエンタープライズ」のクルーとして時に衝突しながらも互いに相手から学び、敵との戦いを通じてキャプテンとサブリーダーにふさわしい人物へと成長する――。

「スター・トレック」は言わずと知れた超メジャーなSFタイトルで、オリジナルのテレビドラマは1960年代から放映され、劇場映画も10本が製作された。ただし今回の映画は、過去のシリーズから独立した全く新しい作品で、旧作の世界観を尊重しつつも、主要キャラの来歴を新たに創造し、USS・エンタープライズの処女航海の波乱に満ちたミッションを通じて一人前のクルーになるまでを描いている。

監督兼製作のJ・J・エイブラムスは、長編映画監督デビュー作のスパイ・アクション『M:i:III』(トム・クルーズ主演、2006年)で見せたスリリングでスピード感あふれる演出を、今作でも大いに発揮している。旧シリーズでは時折哲学的な問答が交わされたり、船外の宇宙空間とそれを無言で眺めるキャラの表情を切り返しで延々と見せるなど、比較的ゆったりした演出が多かったが、テンポアップは現代の観客にとって歓迎すべき改変と言える。

各キャラクターの外見や性格、連邦艦隊や異星などに関するさまざまな設定は、旧シリーズを尊重し長年のファンに配慮している(元祖スポック役のレナード・ニモイが特別出演しているのもファンにとっては大感激だろう)。だが、それだけでなく、メジャーなSF映画シリーズの要素――『スター・ウォーズ』の父と息子の物語や接近戦(チャンバラ)のアクション、『ターミネーター』のタイムパラドックスなど――も「いいとこ取り」して盛り込み、さらにロマンスと笑いの要素も加味しながら、すっきりと2時間6分に整理してまとめた脚本(『トランスフォーマー』シリーズのロベルト・オーチー&アレックス・カーツマンのコンビが担当)も実によくできていると思う。

出演陣では、『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』主演のサイモン・ペッグが、『M:i:III』の役に近い、陽気でちょっと抜けたエンジニアのスコットを演じ、映画のムードを明るくしている。また、アントン・イェルチン(『チャーリー・バートレットの男子トイレ相談室』主演)が演じたロシア人のチェコフもユーモラスなキャラで、ロシア語訛りのため音声コードが認識されないというギャグが笑えた。ウィノナ・ライダーはスポックの母親役で、老けメイクのうえ登場シーンも少なく、ファンにはやや物足りないかも。今作の敵役であるネロが最初に出てきたとき、付け鼻っぽい特殊メイクと顔面タトゥーで一瞬判別できなかったが、演じているのは『ミュンヘン』(スティーブン・スピルバーグ監督)のモサド暗殺者役で主演したエリック・バナ。成功した二枚目俳優なのに、よくまあこんなメイクの役を受けたものだと感心した。

視覚効果スーパーバイザーはILMのロジャー・ガイエット(『スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐』、『パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールドエンド』)が担当。ワープ飛行やビーム(テレポーテーション)といった「スター・トレック」の有名なSF技術も、最新のVFXで生まれ変わっている。宇宙空間に浮かぶ土星などの惑星の描写にCGっぽさが漂っていたのが少々残念だったが、USSエンタープライズの美しく壮大な船体や激しい宇宙戦は文句なく楽しめるし、ダイナミックレンジの大きな効果音の迫力もあわせて、劇場の大きなスクリーンでの鑑賞を強くおすすめしたい映画だ。

過去のドラマシリーズと映画化シリーズの膨大な映像コンテンツにより蓄積された世界観や独特の用語は、「トレッキー」と呼ばれる熱狂的なマニアを生み出す一方、他の映画ファンには近寄りがたい壁にもなっていた。だが、今回の『スター・トレック』ではその点がよく考慮され、過去の作品を一度も見たことがない、予備知識ゼロという人でも問題なく楽しめる作りになっている。派手でスピーディーなアクションと鮮やかなVFXのほかにも、親と子のドラマ、成長と友情の物語、ほっと一息つかせるロマンスと笑いが実にうまく配分され、幅広い客層に受け入れられる娯楽作に仕上がった。


『スター・トレック』 5月29日(金)より丸の内ルーブル他全国ロードショー
原題:Star Trek
監督・製作:J.J. エイブラムス
キャスト:クリス・パイン、ザッカリー・クイント、サイモン・ペッグ、エリック・バナ、ウィノナ・ライダーほか
配給:パラマウント・ピクチャーズ
公式サイト

[下の動画は、米TV GuideがYouTubeの公式チャンネルにアップした紹介番組の一部。撮影の様子や、スポック役とネロ役(いずれも特殊メイクで出演)の素顔も確認できる。]

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プロフィール

フリーランスのライター、翻訳者としての活動を経て、2010年3月、ウェブ・メディア・地域事業を手がける(株)コメディアの代表取締役に。多摩地域情報サイト「たまプレ!」編集長。ウェブ媒体などへの寄稿も映画評を中心に継続している。

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