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高森郁哉の「ArtとTechの明日が見たい」

アートと技術、オーディオビジュアル、メディアをめぐる話題をピックアップ

「SF系」、地味に現実へ浸食中

2011年2月28日

当ブログで前回、気鋭の映像派監督たちはこぞって内面世界を描いている、といった趣旨の文章を投稿した。その中で、「スタンリー・キューブリック、リドリー・スコット、ジェームズ・キャメロンのように、当時最先端の映像技術を駆使しつつ創造性と作家性を発揮した監督たちは、宇宙空間や未来社会を描いて成功した。だが最近は、そういったSFジャンルの映画はかつてのリアリティーとインパクトを失いつつあるように思う」と書いたことについて、その後「あ、これは何か関係あるかも」と感じた出来事があった。

まあ出来事といっても、自宅でテレビを観ていただけなのだが、今月中旬に行われたグラミー賞の授賞式。最優秀ポップボーカルアルバムを受賞したレディー・ガガによる『Born This Way』のパフォーマンスに感銘を受けたのだった。

歌詞をものすごく大ざっぱにまとめると、「どんな人種で生まれても、外見やセクシュアリティーがどうであっても、それが自分、それが運命だと肯定して生きるわ」という、まるでSMAPの『世界に一つだけの花』のようなメッセージ。ところが当のガガ本人は、特殊メイクで顔と肩に突起を付けてSF映画のエイリアンかモンスターのような風貌になっており、「全然ありのままじゃないじゃん」というツッコミが全世界の視聴者から入ったことは想像に難くないが、彼女に整形疑惑があることを考え合わせると、この歌詞と特殊メイクでそうした噂をもネタ化してしまう図太さ、たくましさが感じられたりもした。

ところでこのステージ、イントロで卵か繭らしきものからガガが生まれ出る演出になっている。卵から生まれるエイリアンといえば、ずばりリドリー・スコット監督の『エイリアン』がまず思い浮かぶが、美女の顔に異形の突起という点では同じくギーガーがエイリアンをデザインした『スピーシーズ 種の起源』も想起させる。

つらつらそんなことを考えているうち、ふと、SF小説や映画などに登場した技術のアイディア、デザイン、ビジュアルといった要素――今回のタイトルでは、これらをまとめて「SF系」とした――は、大胆に世界を変革する派手な主役というよりは、こうしてじわじわと、脇役のような形で比較的地味に現実世界へ浸食してきているのだなあ、と思い至った。

たとえば、月や火星への植民や太陽系外への宇宙旅行は気が遠くなるくらい先の話に思えるが、衛星の位置情報システムを利用するカーナビやスマートフォンの地図は、今では誰もが当たり前に使っている。

『ブレードランナー』や『フィフス・エレメント』に出てきた空飛ぶ自動車はまだまだ実現しそうにないが(こんなのあんなのは登場しているとはいえ、昔の空想科学少年に見せたら「これじゃない!」と拒絶されそうだ)、電気自動車のカーシェアリングに取り組む自治体が増えているといったニュースを聞くと、米国の自動車・石油業界などから電気自動車が目の敵にされていた1990年代から、体制側の受容もずいぶん変化したものだと思わずにはいられない。

それにここ数年話題の、3D映画や3Dテレビ、タブレット端末に電子書籍。こうしたメディア装置やコンテンツは、文明や文化を劇的に一変させるというほどの圧倒的な影響力は今のところ――業界への「衝撃」は別として――ないにせよ、日々の暮らしを少しずつ便利に、快適に、楽しくしてくれる道具として生活に入り込んできているのも確かだ(もっとも3Dテレビの本格普及は、裸眼3Dの大型テレビの登場まで待たなければならないだろうけど)。

FacbookやTwitterといったソーシャルメディアも、今でこそ中東の民衆革命に貢献したともてはやされているが、もともとは人と人のゆるいつながりを助ける媒体だったからこそ支持され世界中に広まったのだろうし、そうして地味に浸透していったからこそ、独裁者に規制・禁止されることなく民衆の力を結集するネットワークになり得たのだろう。

"IT革命"などと喧伝された90年代から2000年頃、急速に普及したパソコンやインターネットは未来を変えてくれるであろう期待の星、きらきらしたスターのような存在だった気がする。その後ネットバブルがはじけて輝きが消え、世の中がぼんやり暗くなっている間に、「Like」(いいね!)とか「なう」とかいったゆるいコミュニケーションのツールが静かに一大勢力となり、いつの間にか"革命の武器"に成長していたのだから、なんとも愉快ではないか。

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プロフィール

フリーランスのライター、翻訳者としての活動を経て、2010年3月、ウェブ・メディア・地域事業を手がける(株)コメディアの代表取締役に。多摩地域情報サイト「たまプレ!」編集長。ウェブ媒体などへの寄稿も映画評を中心に継続している。

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