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高森郁哉の「ArtとTechの明日が見たい」

アートと技術、オーディオビジュアル、メディアをめぐる話題をピックアップ

WV的/私的2008年映画ベスト10

2008年12月23日

年末ということで当ブログも今年一年を振り返って……といってもブログの連載は6月から始まって時期的に半端だし、扱う対象も一貫していないので、エントリーが比較的多かった映画にテーマを絞って年間ベストテンを選んでみました。

WIRED VISION的?ベスト10

「?」付きなのは、編集部内でアンケートを集計したわけではなくて、あくまでも私が「ワイアードの記事が扱う分野に関連があるだろう」と判断した中から選んだ映画だから。具体的には、ストーリーにおける技術(軍事、監視、宇宙開発、コンピューター、ガジェット)や科学(物理学、精神医学)の要素、あるいは映像表現における新技術(CGなどの特殊効果、3D)を基準にしました。また、過去にブログで取り上げたものにはリンクを張っています。

  1. ダークナイト
  2. ウォーリー
  3. センター・オブ・ジ・アース
  4. アイアンマン
  5. ウォンテッド
  6. イーグル・アイ
  7. ゲット スマート
  8. ブロークン
  9. スピード・レーサー
  10. 僕らのミライへ逆回転

『ダークナイト』は、人間ドラマとしての重み、実質的な遺作となったヒース・レジャーの狂気の演技、「正義を任ずる者がテロ防止のため一般市民を盗聴・監視する」という現代社会(特に米国)への風刺、控えめながらも要所で強烈な印象を与える視覚効果(トゥーフェイスの特殊メイクとCG)など、とにかく見どころが多い。

『ウォンテッド』は、話題になった「弾道を曲げる技」と、ライフルの弾道を巻き戻しで見せる映像が斬新。あと、冒頭で一見普通の中年オジサンが、ビルの外から敵に狙撃された後に見せるとんでもない行動の意外性もよかった。

『スピード・レーサー』は散々の興行成績と評価だったけど、背景の極彩色のCG表現は面白かった。ウォシャウスキー兄弟には評判など気にせずオタクぶりと映像表現を追求してほしい。

最後の『僕らのミライへ逆回転』は、作品自体よりも、YouTubeで映画の手作りリメイクのブームを巻き起こしたという、周辺の現象がワイアード的だったため選出。もちろん映画も楽しかった。個人的には、変電所に侵入する前のジャック・ブラックのカモフラージュ(ものすごく長い前振り)がツボでした。

『地球が静止する日』は未見のため選外。年末年始の休み中に観てきます。

私的ベスト10

上の10本はすべて個人的にも好きな映画ですが、以下ではそれを除いて選んでみました。

  1. コッポラの胡蝶の夢 (哲学的な深さと人生の切なさの絶妙なバランス、絵画のような映像美)
  2. HOT FUZZ ホットファズ-俺たちスーパーポリスメン!- (映画好きのためのアクション・コメディ傑作)
  3. ミスト (原作者のスティーヴン・キングも絶賛したという、フランク・ダラボン監督によるオリジナルの結末が圧巻)
  4. 落下の王国 (エキゾチックな世界遺産の映像、ファンタジー、映画への愛情)
  5. 潜水服は蝶の夢を見る (奇跡のような実話、フランス人の不屈のユーモア)
  6. ブラインドネス
  7. イースタン・プロミス (クローネンバーグ監督の作品は大体好きだが、そろそろまた気持ち悪い映画も撮ってほしい)
  8. ダージリン急行 (ウェス・アンダーソン監督の独特の哀愁と温かさがいい)
  9. イン・トゥ・ザ・ワイルド (実話の重さ、個人と社会のかかわりを改めて考えさせられる)
  10. アクロス・ザ・ユニバース (ビートルズ好きなら必見)

未見だけれど、『ヤング@ハート』と『タクシデルミア』も気になっています。後者は調べたらすでにDVD化されていますね、いかん観なければ。

おまけ:今年読んだ映画原作本5選

今年公開の映画に限定せず、今年読んだ中から選んでいます。

  1. 『白い闇』ジョゼ・サラマーゴ著、雨沢泰訳、日本放送出版協会 (『ブラインドネス』原作、全世界が失明するというストーリーは、テキストで読み「自分も視覚を失ったら」と想像すると、また別の味わいがある)
  2. 『潜水服は蝶の夢を見る』ジャン=ドミニック・ボービー著、河野万里子訳、講談社 (閉じこめ症候群を患い左目だけしか動かせなくなった『ELLE』元編集長による、瞬きだけで書き上げた本)
  3. 『若さなき若さ』エリアーデ幻想小説全集〈3〉所収 ミルチャ・エリアーデ著、住谷春也訳、作品社 (『コッポラの胡蝶の夢』原作、小説に流れる雰囲気をフランシス・フォード・コッポラ監督が巧みにすくい上げて映像化したことがよくわかる)
  4. 『春に葬られた光』ローラ・カジシュキー著、木村博江訳、ソニーマガジンズ (ユマ・サーマン主演『The Life Before Her Eyes』の原作で、コロンバイン高校銃乱射事件がモチーフになったと思われる。2008年4月に米国で公開され、日本での公開は未定。監督は『砂と霧の家』のヴァディム・パールマン。輸入DVDで観たら結末がよくわからない妙な終わり方で、気になって原作を読んだら映画とは別の結末、でもやっぱりよくわからなかった。原作者は詩人としても評価されているらしく、たしかに文体や描写も詩情豊かで、理屈ではなく雰囲気を味わう小説かも。)
    The Life Before Her Eyes..2008 movie Trailer

  5. 『わたしを離さないで』カズオ・イシグロ著、土屋政雄訳、早川書房 (『28日後...』『サンシャイン 2057』の脚本家アレックス・ガーランドによる脚本で、『ストーカー』のマーク・ロマネク監督が映画化する契約を11月に結んだ。米国公開は2010年ごろか。全寮制の私立学校のような施設で育った子供たちと、その将来の話。ワイアードの記事でも扱うような現代的な要素を多分に含んでいるが、未読の方にはなるべく予備知識なしで、「何も知らされていない子供たち」と同じ気持ちで読むことをお薦めしたい。『TIME』誌の「1923~2005年の英語小説100選」に選ばれた傑作で、泣けます。)

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プロフィール

フリーランスのライター、翻訳者としての活動を経て、2010年3月、ウェブ・メディア・地域事業を手がける(株)コメディアの代表取締役に。多摩地域情報サイト「たまプレ!」編集長。ウェブ媒体などへの寄稿も映画評を中心に継続している。

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