『イーグル・アイ』:スピルバーグ製作、現代のハイテクが脅威に変わるサスペンス・アクション
2008年10月14日
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スティーブン・スピルバーグが10年前に思いついたアイディアに、現実の技術が追いついたタイミングで製作されたというサスペンス・アクション映画『イーグル・アイ』。日本では10月18日に公開されるこの作品は、『ディスタービア』のD・J・カルーソ監督と主演のシャイア・ラブーフというコンビは同じでも、前作よりアクションもストーリー展開もはるかにスケールアップしています。
当ブログの映画レビューでは毎度のパターンですが、今回も作品に登場する技術的な要素と現実の技術の比較を、海外サイトやワイアードの過去記事に触れながらまとめてみます。その前にあらすじを。
シカゴのコピーショップで働く青年ジェリー(シャイア・ラブーフ)はある日、米軍に勤める双子の兄弟が急死したと知らされ実家へ呼び戻される。そして自宅への帰途ATMに立ち寄ると、何故か口座に75万ドルもの大金が振り込まれており、帰宅したアパートには大量の軍事用機材が届いていた。その直後、見知らぬ女性から電話が入り、FBIが迫っているのですぐその場から逃げろ、と警告される。すると間もなくFBIが現われ、ジェリーは何も把握できずに拘束されてしまう。一方同じ頃、1人で遠出することになった幼い息子を送り出すシングルマザーのレイチェル(ミシェル・モナハン)。その後、彼女にも謎の女性から着信が入り、これから指示に従わなければ息子の命はない、との脅迫を受けるのだった。やがて、ジェリーは再び謎の女から電話で指示を受け取調室を脱出、逃走した先には同じく電話の指示に翻弄されているレイチェルが待っていた…。(allcinemaより引用)
ネットワークを自在に操る「アリア」
携帯電話でジェリーとレイチェルに指示を出す謎の女、「アリア」とは何者か。FBIのビルの破壊もいとわない大胆なテロ組織の一員か、それとも国家的陰謀の関係者なのか。その正体は映画の後半で明らかになりますが、いずれにしろ、アリアが2人をコントロールするために行使する圧倒的な力は、現実の大規模なサイバーテロで何が可能になるのかを警告しているようにも思えます。コンピューター化とネットワーク化が高度に進んだ社会では、ひとたび何者かがネットワークを掌握すると、社会全体を混乱に陥れたり、特定の個人を徹底的に追跡することも不可能ではなく、この映画ではたとえば、
- 携帯電話網:通話の傍受や遮断、位置の特定
- 監視カメラ網:街頭や店舗の監視カメラで対象者の位置を特定
- 交通信号・管制網:信号機の恣意的な操作、地下鉄の運行やドア開閉の操作
- 産業機械の遠隔操作網:クレーンなどをネットワーク経由で遠隔操作してビルや自動車を破壊
などが行なわれます。これらはいずれも、それぞれのネットワークのセキュリティーを破って侵入できれば実行可能なことは明らかで、それゆえに2人の受難が観客にも現実的な恐怖として実感できます(ただし、電力網に関係するシーンなど、やや非現実的な描写もなくはないですが)。
これらに関連するワイアードの過去記事としては、「全米の携帯電話や固定電話を傍受するFBIのシステム」、「米国でも広がる、監視カメラ導入の動き」、「米政府、インフラへのテロ攻撃シミュレーションを実施」などがありました。
無人偵察・爆撃機
映画の冒頭で、アフガニスタンの指名手配犯らしき人物を爆撃するほか、後半でも再び登場するのが米空軍の無人航空機(UAV)。これはもちろん実在する『MQ-9 Reaper』という機種で、空軍のサイトにも「『イーグル・アイ』に協力した」と写真入りで紹介しているページがあります。
UAVで特定の個人をピンポイントで攻撃するというのはもはや将来の話ではなく、今年3月に「イスラエルや米国、無人飛行機で個人をターゲット攻撃」という記事がありました。
水晶が爆発物に?
映画の中で米軍がデモを行なった、『Hex』と呼ばれる水晶の爆発物。特定の音波に反応して爆発するという説明で、このHexが一部行方不明になり、後半のサスペンスを盛り上げる重要な役割を果たします。
おそらくHex自体は架空の技術と思われますが、水晶には圧力をかけると電荷を帯びる性質、いわゆる圧電性があって、この性質を利用した電子機器などの部品は「圧電(性)結晶」(piezoelectric crystal)と呼ばれています。圧電素子と音波の関係では、圧電素子に電圧をかけて振動を生じさせ超音波を発生させる応用例が多いのですが、これとは逆に、超音波による振動を圧電素子に加えることで電圧を発生させることも可能(参考)。さらにググってみたところ、米国特許3815505号として、「音波に反応する圧電結晶の信管を用いた自爆装置」というものを発見。以上のことから、水晶そのものが爆発するわけではないにせよ、「水晶、音波、爆発物」という組み合わせが決してでたらめではないことが分かります。
日本のハイテク施設がモデルになった装置
公式サイトの予告編にも最後の方に少しだけ映っている、映画の後半で明らかになるある施設内の装置があります。ひどく曖昧な書き方ですみませんが、具体的に書くとネタバレ必至なので。この装置のセットはなかなかの存在感ですが、実はこれ、東京大学宇宙線研究所・神岡宇宙素粒子研究施設の『スーパーカミオカンデ』検出器をモデルにしています。もちろん映画の方の装置は素粒子の検出器ではなくて別のマシンなのですが、それが何かは劇場でのお楽しみ。
以上、映画に登場する技術的な要素のうち主な4つを取り上げて検討してみました。ほかにもワイアードの過去記事とからめて言及したい事柄がいくつかあるものの、ネタバレを避けるために割愛します。
映画全体としては、ヒッチコックやキューブリックの名作(ここでも作品名を具体的に書くのは自粛)を思わせるストーリー展開が随所にあり、それらへのオマージュを表しつつも、スピード感あふれる現代的な演出で一級のアクション映画に仕上がっています。もちろん技術面の描写や登場人物の行動など、リアリティーよりも映画的な面白さを優先して誇張気味になっているところも一部ありますが、その辺は大目に見て、スリリングな展開を主人公たちと一緒に体感する方が絶対にお得(笑)。
また、鑑賞後に改めて考えさせられたのは、人の生活を便利にするツールやネットワーク、権利を守るためのシステムやルールが、それらを使う主体の意図や解釈が変わることで、人の自由を奪い権利を侵害し、生命をも脅かす存在に変わってしまうということ。こうしたテーマは小説の『1984年』や映画の『エネミー・オブ・アメリカ』『アイ,ロボット』(どっちもウィル・スミス主演)にも通じますが、『イーグル・アイ』では携帯電話などの身近な道具が“脅威”に変わるという点で、過去の作品よりいっそう真に迫る恐怖として感じられるかもしれません。
もう1つ付け加えておきたいのは、カーチェイスのシークエンスで、車同士がクラッシュするときのサラウンド音響が異様なほど素晴らしかったこと。金属がぶつかり合いガラスが砕ける音が高域までバランスよく収録されて、大音量なのに透き通るようなキラキラした高音まできちんと再生されていたし、すぐ近くで車が衝突しているようなリアルな包囲感もバッチリ。試写が行なわれたのは今年7月にリニューアルオープンした新宿ピカデリーのスクリーン1で、ここは本当におすすめ。上映される映画館が近くに複数あるなら、なるべく設備の良いところを選んでほしいですね。ホームシアター派にとっては、劇場で体験した音響をDVD/BDが出たときに自宅のシステムでどれだけ再現できるかが楽しみな映画でもあります。
『イーグル・アイ』 10月18日公開
監督:D・J・カルーソ
製作総指揮:スティーブン・スピルバーグ
出演:シャイア・ラブーフ、ミシェル・モナハン、ビリー・ボブ・ソーントンほか
2008年アメリカ映画/2008年日本公開作品/原題 Eagle Eye
配給:角川映画、角川エンタテインメント
公式サイト:http://www.eagleeyemovie.com/intl/jp/
Photo Credit: Melissa Moseley SM
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