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yomoyomoの「情報共有の未来」

内外の最新動向をチェックしながら、情報共有によるコンテンツの未来を探る。

ティム・オライリーの「インターネットOS」というヴィジョン

2010年4月 8日

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先週末、遂に iPad がアメリカで発売となり、予想通り大変な話題となっています。天邪鬼なワタシとしてはそれ以外で何か話のネタはないかと考えていたら、ティム・オライリーが久々にかなり長いブログエントリ The State of the Internet Operating System を書いていたので、今回はそれを取り上げたいと思います。

このタイトルにも入っている「インターネットOS(Internet Operating System)」は、以前からオライリーが何度か取り上げてきたヴィジョンですが、腰を据えてこれを主題にするのは初めてとのことです。

ワタシも今回の文章を書くにあたり調べたところ、「Cisco IOS vs. 私が思い描くインターネットOS」というオライリーの文章の日本語訳に行き当たったのですが、これは6年以上前にワタシが訳した文章だったりします。偉いじゃん、オレ。

ただワタシ自身「インターネットOS」の何たるかを理解していたかというと怪しいもので、「インターネットが OS になる」ぐらいに大雑把に考えていましたが、重要なのは、我々が日々利用しているアプリケーションの機能が、「単一デバイスより上位レベルに位置するソフトウェア」になってしまった現実です。

例えば検索という我々が日常的に行う処理一つにしても、我々のパソコンの Windows と Google の Linux サーバのやりとりという単純な話ではなくなっているとオライリーは書きます。音声検索の音声テキスト変換はクライアント側で行うか、サーバ側で行うかというところにはじまり、検索結果の精度をあげるため位置情報を利用するとどうなるか、そしてその位置情報の取得源は GPS だけではなくなっていて――と、もはやクライアント/サーバ間におさまらない、個々のマシンの間で行われる一種魔法にすら思える処理から得られる結果を、我々は当然のものと考えているわけです。

重要なのは、インターネットが我々のインフラとなり、アプリケーションが多様なプロバイダーによるサービスの集積として実現することで、「支配のポイント(points of control)」のルールが引き直しとなり、そのポイントを巡る競争が激しくなっているところです。これも一種の「OS戦争」と言えるのかもしれませんが、目下その競争が現在最もホットなのはモバイル分野です。

マシンのリソースをアプリケーションに割り当てるという既存の OS の役割のアナロジーで考えると、「インターネットOS」とは要は今様に言えば「クラウド・コンピューティング」のプラットフォーム、具体的には Amazon Web Service や Google App Engine、あるいは Microsoft Azure のことだと短絡しそうになりますが、それでは不十分だとオライリーは予防線を引きます。

確かにクラウドのインフラは重要であるが、もっと高次のサービス、アプリケーションこそが肝で、そこまで込みで「インターネットOS」、つまり「インターネットOS」とは「情報のOS(Information Operating System)」だとオライリーは規定します。

このあたり、一昨年ニコラス・G・カーと「Web 2.0 とクラウド・コンピューティングのどちらを上位概念と考えるか」について論争していたことを思い出します。もちろんオライリーは前者、カーは後者の肩を持ったわけですが、今回のエントリでも多様性を支持するオライリーと、ワールド・ワイド・コンピュータへの収斂を予言した『クラウド化する世界』の著者であるカーの志向性の違いが分かります。

オライリーが今回の文章で「インターネットOS」と伝統的な OS との差異を説明するのに使うアナロジー(例:クラウドにこだわりすぎるのは、DOS にこだわって GUI で遅れをとった Lotus の二の舞だ)がどこまで若い読者に通じるのか疑問ですが、ともかく「インターネットOS」が包含するサブシステムとして、オライリーは以下の項目を挙げています。

確かにこれはワタシのような PC 世代からすると奇異に思える並びで、特にリストの後にいくほど違和感があります。正直最後の「政府のデータ」については、お前 Gov 2.0 SummitGov 2.0 Expo を始めたから「政府」言いたいだけやろ! と思ってしまいます。

ただ、そうした我田引水的な自身のカンファレンスビジネスへの引き寄せはあるにせよ、かつてフレッド・ウィルソンが The Golden Triangle で喝破した、モバイル、ソーシャル、そしてリアルタイムという三つのメガトレンドを補助線にすると、奇異を感じた並びにだんだん説得させられる感じがあるから不思議です。ビジョナリーとしてのティム・オライリーは健在ということでしょうか。

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プロフィール

1973年生まれ。 ウェブサイトにおいて雑文書き、翻訳者として活動中。その鋭い視点での良質な論評に定評がある。訳書に『デジタル音楽の行方』、『Wiki Way』、『ウェブログ・ハンドブック』がある。

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