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yomoyomoの「情報共有の未来」

内外の最新動向をチェックしながら、情報共有によるコンテンツの未来を探る。

正念場を迎えるオライリーとEtech 2009

2009年3月 4日

(これまでの yomoyomoの「情報共有の未来」はこちら

TechCrunch は「“Web 2.0”という言葉は死んだ」と宣言してますが、確かにこの言葉の陳腐化は実感するところです。

ただこの言葉の発案者であるティム・オライリーからすれば、それはオライリー・メディア社のカンファレンスビジネスの成否に直結する大問題で、事実昨年の Web 2.0 Expo Tokyo に続き、今年は Web 2.0 Expo Europe がキャンセルとなっています。

この「Web 2.0」という言葉を旗印にギーク達の理想郷を演出してきたオライリーにしても、今年に入って全従業員の14%のレイオフを余儀なくされるなど、昨今の経済状況と無縁でいられるわけはありません。

そうした意味で、間もなく開催される今年の O'Reilly Emerging Technology Conference(ETech)は、上記の TechCrunch などもカンファレンスビジネスの競争相手となる中で、オライリー・メディアがインターネット時代のトレンドセッターの役割を果たし続けられるかどうかがかかっているのかもしれません。

ティム・オライリーは昨年の ETech 開催に先立ち、「ETech がオライリーにとって最も重要なカンファレンスである理由」というブログエントリを書いており、ウィリアム・ギブスンの有名な「未来はここにある。まだ均等に広がっていないだけだ(The future is here. It's just not evenly distributed yet.)」という言葉を今一度ひきながら、ハッカーやアルファギークと呼ばれる人たちが「ここにある未来」を披露する、オライリー主催のカンファレンスの中で最も先端的な ETech の重要性を強調しています。

果たして今年の ETech はどんな感じだろうとざっとウェブサイトを見てみましたが、三つの傾向が読み取れます。

一つ目は "sensor" という単語が目立つこと。RFID、携帯電話といった「センサー」が可能にする位置情報のリアルタイム化といったところでしょうか。これは以前取り上げた「G空間」サービスの話とつながるでしょうし、ちょうどセキュリティ専門家のブルース・シュナイアー「情報が持続する時代のプライバシー(Privacy in the Age of Persistence)」という文章を書いていますが、おそらくはこれも共通する問題意識に基づくものではないかとワタシはにらんでます。

二つ目は「モノ作り」の意識です。これはもちろんアメリカ的な DIY 文化に由来する部分も大きいでしょうが、オライリーの雑誌『Make: Technology on Your Time』が体現してきた(日本の製造業の人たちが必死にしがみつくのとは少し違った意味での)「モノ作りへの渇望」が垣間見られます。

三つ目は政治、金融、そしてエネルギーといった実世界の問題へのコミットの意思です。エネルギー問題は少し前からのトレンドですが、政治や金融は必ずしもギークが積極的にかかわりたがる分野ではなかったわけですが、昨年の米国大統領選挙と世界経済危機を反映しているのは間違いないでしょう。

もちろん、すべてのセッションが以上の三つの傾向にあてはまるわけではなく、例えば今回の ETech には日本から Lisa Katayama さん山崎富美さん「Japanese Tech Culture: Demystifying "Weird" Japanese Toys and Tools」というお題で参加しますが、こうした遊び心もあるわけで、アルファギークたちの情熱とハックが、昨今の重苦しい経済状況に報いる一矢となることを期待します。

一昨年はたたみラボ、昨年は日経の Tech-On! を中心にレポートが読めましたが、今年の ETech のレポートが読めるでしょうか。こうしたカンファレンスへの参加は真っ先に切られやすい支出でもあるわけで、それが心配ではあります。

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プロフィール

1973年生まれ。 ウェブサイトにおいて雑文書き、翻訳者として活動中。その鋭い視点での良質な論評に定評がある。訳書に『デジタル音楽の行方』、『Wiki Way』、『ウェブログ・ハンドブック』がある。

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