This Year's Model
2007年10月10日
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梅田望夫氏によると「2006年はYouTubeの年、2007年はFacebookの年」とのことで、アメリカにおいて Facebook が今年最も躍進したウェブスタートアップなのは間違いないようです。
元々は、ハーバード大学の学生だったマーク・ザッカーバーグが、ハーバード大学の学生が交流するのを目的に作ったサービスで、大学生向け SNS というイメージが強かった Facebook ですが、今年に入り外部企業のビジネスを可能にする開放路線にシフトし、停滞気味の MySpace を尻目に、ウェブアプリの新世代プラットフォームの座を確かにしつつあります。名門大学の学生という濃いユーザ層を掴んだ後のオープン路線という戦略が当たったようですが、一年前には10億ドルだった企業価格が今では100億ドルに達しているとのことで(しかも、それにザッカーバーグは不満!)、ものすごい勢いです。
Facebook の急成長とともに、今年いろんなところで「ソーシャル・グラフ(social graph)」という言葉を目にするようになりました。この言葉についてご存知ない方は、林信行氏の解説記事「SNSに変革をもたらす“ソーシャルグラフ”」、そしてそこでも紹介されている、この言葉の提唱者であるブラッド・フィッツパトリックの Thoughts on the Social Graph(日本語訳)を読まれることをお勧めします。
ソーシャル・グラフというミームが広がったのは、SNS だけに留まらずブログや画像、動画共有サービスなどのウェブサービスが多かれ少なかれソーシャルネットワークの性質を持つようになったこと、そしてユーザー中心の分散ID認証システム OpenID など、そうした複数のソーシャルネットワークを特定のベンダに依存しなくても連携できる規格が揃ったことが背景にあります。
重要なのは、そうした個々のソーシャルネットワークでの人間関係を崩すことなく、同時に複数のネットワークをシームレスに連携させることを目指していることで、インターネット時代の OS を目指す Facebook の良さを認めながらも、それに囲い込まれまいとする動きと言えます。
このソーシャル・グラフという言葉については、これが Web 2.0 の次に来る! と支持する声の一方で、この手のバズワードが嫌いな古参ブロガーのデイヴ・ワイナーは、「別にグラフという言葉を持ち出す必然性はないだろ」と How to avoid sounding like an monkey という辛辣な批判を書き、論議を呼びました。
当方がこれらを読んだときに連想したのは、2003年にクレイ・シャーキーが「ソーシャル・ソフトウェア」という言葉を提唱したときの反応です。このときもワイナーは批判側だったわけですが、ソーシャル・ソフトウェアという言葉自体は、ティム・オライリーが提唱した Web 2.0 になんとなく飲み込まれた印象があります(両者が指すものは同一ではないのですが)。
個人的にはソーシャル・グラフという言葉も、ソーシャル・ソフトウェアと同様にこの後出てくるパラダイムの踏み台になる予感がするのですが、別にこの言葉が無意味だということではありません。ブラッド・フィッツパトリックが SixApart から Google に移籍し、新 API 発表とオープン戦略とともに Facebook に対する大攻勢をかけることが伝えられており、Google というトッププレイヤーの企業戦略にも確かに影響を与えています。
一方の Facebook ですが、この原稿を書いている10月7〜9日に Graphing Social Patterns というカンファレンスを開催しており(案の定 O'Reilly や TechCrunch がパートナーに名前を連ねています)、その名前を見てもソーシャル・グラフというミームを意識していることが分かります。栄枯盛衰の激しい SNS 業界で、Friendster のような前例があり、また最近ではスティーブ・バルマーの「Facebookの全盛期はすぐ終わる」発言も話題になりましたが、Facebook がどのようにビジネスを拡大していくか、ソーシャル・グラフというミームの展開とともに注目していきたいと思います。
しかし、こうしたダイナミックな動きと比べ、API 公開どころかユーザカスタマイズもままならずサイトデザインの変更でお茶を濁している mixi にしろ、アバターをめぐる騒動でユーザの猛反発をくらった GREE にしろ、日本の状況はどうにも話がしょぼく、レベルの低さを感じずにいられません。
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