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yomoyomoの「情報共有の未来」

内外の最新動向をチェックしながら、情報共有によるコンテンツの未来を探る。

ナップスタージャパン終了とデジタル音楽の行方

2010年3月11日

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旧聞に属しますが、先月末ナップスタージャパンより日本国内における全サービス終了の発表がありました。

ネットサービスの終了は日常的に起こっていることではありますが、自分が日常的に利用しており、プライオリティの高いサービスが終わってしまうのは個人的にはほとんど初めての体験で、今回の発表には大層落ち込んでしまいました。

ワタシが Napster Japan の定額制楽曲配信サービスの会員になったのはおよそ三年前で、以来現在まで Basic コースの有料会員として、インタフェースなど不満はあれども、月額1480円でストリーミング聴き放題に満足して利用してきました。

ナップスターのサービスに満足していたのは、何より洋楽リスナーで、しかもプライベートの時間は自室でパソコンの前にはりついていることが多い引き篭もり体質である、ワタシ自身の属性にサービスがマッチしていたことがあります。とにかく洋楽のカタログが新旧ともに充実しており、今まで聴いてなかった昔の名盤を聴くのにも、名前を小耳に挟んだ注目バンドを検索して即座に新譜を聴くのにも重宝しました。邦楽の CD 一枚の半額程度の月額価格にも文句はありませんでした。

この三年間、所有する CD のリッピングや合法音楽配信サイトから購入・ダウンロードした音楽ファイルは iTunes で管理して主に iPod や iPhone で聴き、自室のパソコンではナップスター、という二本立てでやってきたわけですが、その片方の柱が5月末でなくなってしまうわけです。加入当時からすると邦楽のカタログも大分充実してきた印象があっただけに残念でなりません。

今回のニュースでワタシが思い出したのは、やはりというべきか5年前に訳した『デジタル音楽の行方』です。この本は iPod+iTunes モデルの次に来る音楽ビジネスのあり方について説いた本ですが、柱となる主張として、音楽ファイルを購入し所有する意義が薄れるクラウド音楽環境に向かう、それには薄く広く料金を徴収する包括ライセンスの実現が必要、また音楽はよりモバイルに遍在するようになるから DRM は無効、といったあたりが挙げられます。

それらが達成されることで「水のような音楽」が実現されるというのがこの本の筋書きですが、難しいのは各々の主張の柱同士が(一時的にではあれ)対立しうることです。DRM の廃止、包括ライセンス、クラウド環境のすべてがいっぺんに実現するなら良いのですが、現実は往々にしてそう話はうまくいきません。例えば今回のナップスターのサービス終了に際しても、その理由として米 Napster が進める DRM フリーの方向性では日本で楽曲配信サービスを続けることが困難であることが理由として挙げられています。

ただこれにも注意が必要で、日米ともにナップスターが苦戦してきたのは事実ですが、今回の撤退については DRM 云々よりも、サービスのパートナーであるタワーレコードの筆頭株主である NTT ドコモの意向が強いのではという分析のほうが当たってそうに思えます。

いずれにせよこうしたサブスクリプションサービスは継続してなんぼで、サービス終了とともにストリーミングが利用できなくなるだけでなく、過去ダウンロードしたファイルもすべて聴けなくなることに DRM の恐ろしさを実感します。

デジタル音楽の行方という意味では、特に日本からみる限り、最近はナップスター以外でも明るくないニュースばかりに思えるのが悲しいです。DRM フリーの音楽配信サービスという意味では Amazon MP3 は未だ日本では利用できず、レコメンデーション型インターネットラジオ Pandora もやはり日本からは聴けないままで、それに替わるサービスと期待した imeem は MySpace に買収されてから閉鎖状態。またクリエイティブ・コモンズな音楽を配信する Jamendo も資金調達に失敗し危機的状況にあると報道されています。

「レコード産業の死は音楽産業の死ではない」と『デジタル音楽の行方』で力強く宣言されていましたし、ワタシ自身それを今でも信じていますが、正直以前より弱気になってしまいそうになるのも事実です。

個人的には、『デジタル音楽の行方』を訳したときに、5年もしないうちに Apple もサブスクリプションサービスに移行するだろうと踏んでいました。Apple が LaLa を買収したとき、いよいよかと思いましたが、未だ Apple のサブスクリプションサービスは実現していません。小寺信良さんも書いていますが、ナップスターの替わりとなるサービスがあればホント教えてほしいです……。

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プロフィール

1973年生まれ。 ウェブサイトにおいて雑文書き、翻訳者として活動中。その鋭い視点での良質な論評に定評がある。訳書に『デジタル音楽の行方』、『Wiki Way』、『ウェブログ・ハンドブック』がある。

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