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yomoyomoの「情報共有の未来」

内外の最新動向をチェックしながら、情報共有によるコンテンツの未来を探る。

1973年組の10人

2011年5月12日

(これまでの yomoyomoの「情報共有の未来」はこちら

「いまも、これからも話す必要はありません。ただあなたに知っていただきたいだけです――わたしはそこにいました」
(カート・ヴォネガット・ジュニア『スローターハウス5』)

さて、足かけ5年続いた本ブログもこのフォーマットでは今回が最終回です。最後くらい個人的な事情に依った文章を書かせてください。

ゴールデンウィーク中、文化系トークラジオ Life の「2020年のわたし」のポッドキャストを聞いていましたが、正直9年後となる2020年に向けて何かしら展望が開けるということは特になく、むしろ現在の自分自身について考える契機となりました。

最近時々意識するのは、残り時間を逆算することが多くなったことです。これは以前には思いもしなかった感覚で、一言で言えばもう30代後半になり若くはないということですが、一方でいつまでも下っ端意識が抜けず、この歳になってなすべき仕事が少しもできていない自分を情けなくも思います。

そういえば以前、自分も世代論めいた文章を書いたことがあったと思ったら、それは実に5年前の話で、その文章の枕で言及した堀江貴文は先ごろ上告が棄却され、収監が決まりました。月日の経つのは早いものです。

今回はそういううだつのあがらないワタシが、その活動ぶりを見て励みにしている同じ1973年生まれの人たちを取り上げたいと思います。

ただ1973年生まれでも、例えば Google のラリー・ペイジ&セルゲイ・ブリン、あるいはイチローといった偉人クラスを挙げても親近感ゼロなので、ワタシ自身と過去ネット上でやり取りをしたり、実際に会ったりしたわずかでも親交のある人、かつワタシがその人に好感を持ち、その仕事に敬意を払っている人から選ばせてもらいました。

選定には津田大介が作成した born-in-1973 リストを利用させてもらいましたが、このため同じ1973年生まれでも早生まれでワタシより学年としては一つ上の人、同じ学年でもやはり早生まれで1974年生まれの人も含まれることを予め書いておきます。

上記基準でも10名選ぶのは難しかったですが、以下、50音順で順不同です。

岡本真(@arg

今メールボックスを調べてみたら、岡本さんが発行するメールマガジン ACADEMIC RESOURCE GUIDE (ARG) を2000年6月から購読しています。実に10年以上前ですが、当時はその内容から大学機関に属する人なのだろうと漠然と考えており、また自分と同い年とは思ってませんでした。

後に岡本さんは Yahoo! JAPAN においてYahoo!知恵袋などの企画運営に携わりヒットさせますが、2009年に独立されて以来、ARG を軸としながら、最近も被災救援情報サイト saveMLAK を立ち上げるなどアカデミズムと一般層をつなぐ重要な役割を担い続けるのは間違いでしょう。

小林啓倫(@akihito

小林さんはコンサルタントとして激務をこなす傍ら POLAR BEAR BLOGシロクマ日報という2つのブログを執筆し、昨年だけで『AR 拡張現実』『リアルタイムウェブ 「なう」の時代』という時宜を得た本を二冊執筆しています。

それに加え時折、氏の文章に幼い娘さんについての記述が混ざるのを読むと、ワタシなどとは作業処理能力が段違いなのだと痛感します。

加藤貞顕(@sadaaki

加藤さんとは、氏が山形浩生の『新教養としてのパソコン入門 コンピュータのきもち』を担当された関係でお会いしたのが最初でした。あれから10年近く経ち、今や加藤さんは数多くのヒット作をてがける辣腕編集者です。

なかでも『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』は昨年最大のベストセラーになりました。ワタシ自身はこの本は読んでおらず、これから読むこともないのですが、何百万部も売れる本を作るのは今日ではそれだけで大変なことです。

加藤さんは以前、金融日記の藤沢数希氏を担当されていたはずで、こうしてみると加藤さんは正統的な編集者としての秀でた能力に加え、釣り師を釣り上げる異能にも長けているのかもしれません。

首藤一幸(@shudo

P2P、グリッド、オーバーレイネットワーク――首藤さんの研究範囲にはワタシが興味を持つトピックがいくつもあるのですが、いずれもワタシのような半端者の理解を超えるレベルで、同い年でもここまで頭に差ができるのかと呆れたり感心したり。

産業技術総合研究所研究員〜ベンチャー企業の最高技術責任者〜東京工業大学大学院准教授というキャリアも他に見ないものですが、これからもまた華麗な展開があるのでは、と無責任ですが期待したいところです。

津田大介(@tsuda

昨年秋に FM 福岡で会ったとき、彼は一日中ツイッターをやってるだけで暮らせるようにならないかな♪ と無邪気に語っていて、アフィリエイト代で生計を立てるのを夢想するブロガーじゃあるまいし、と呆れたのを覚えています。

しかし、東日本震災後、もちろん計画したものでも意図した形でもありませんが、彼はそれを実現してしまいました。もちろんツイッターをやってるだけで生計が立つわけはありませんが、これに限らず彼の願望を現実化する力には敬服せざるをえません。

ワタシ自身は元々彼の文章のファンなので、彼には原稿から逃げることなく、『だれが「音楽」を殺すのか?』『Twitter社会論』、そして『音楽業界IT戦争』に続く主著をものにしてほしいと切に願うわけですが、今や言わずと知れたメディアジャーナリストとなった彼は、そうした期待とは別次元のけもの道を歩き進んでいるのかもしれません。

思えば本ブログの第1回は、彼と小寺信良さんの共著『CONTENT'S FUTURE ポストYouTube時代のクリエイティビティ』の話から始まっています。あれから随分遠くに来たようです。

速水健朗(@gotanda6

ワタシが速水さんに一目置くようになったのは、氏と二度目にお会いしたとき、「前にyomoyomoさんにもらった名刺ね、アレ破って捨てましたよ」とにこやかに言われ震え上がってからです(速水さんの名誉のために付け加えておくと、名刺を破って捨てたというのはもちろん冗談です。実際は犬に食わせたそうです)。

ワタシにとって速水さんの魅力は、そのとらえどころのなさにあります。彼自身は如才ない好人物ですが、同時に常にとぼけたところがあり容易に尻尾を掴ませません。

『自分探しが止まらない』『ケータイ小説的。――"再ヤンキー化"時代の少女たち』も、切り口にしろ文体にしろ速水さんらしさを随所に感じる本ですが、彼の仕事は単純に一つのテーマに回収されないところがあります。

『ブルータス』にアニリール・セルカンらと並び「2009年のキーパーソン30人」に選ばれながら何故か2009年以降単著が出ず残念に思っていたのですが(実は変名で一冊出していたそうです)、『思想地図β vol.1』における特集の第一部「ショッピングモーライゼーション」監修の仕事には久々に唸らされました。この仕事は今後いろんな形で参照されるはずですし、個人的にも「なぜショッピングモールなのか?」は速水さんに感じていた疑問に部分的に答えてくれるものでした。

藤川真一(@fshin2000

氏のモバツイがなかったら、日本における Twitter 受容はかなり違った形になっていたはずです。その藤川さんも昨年独立され、現在はマインドスコープ株式会社の代表取締役社長です。今後ますますの大暴れが期待されます。

ワタシ自身はモバツイのユーザではありませんが、氏のブログを以前から読んでいて、その地に足の着いた感じにずっと好感を持っています。文章に過去からの着実な積み重ねとそうした自身に対する客観的な視点を感じるからでしょうか。

堀越英美(@ribonko

もはや Beltorchicca という名前を出しても知らない人が多いのかもしれませんが、彼女のセンスのある文章は、ワタシには逆立ちしても書けないもので、ずっと憧れでした。

その彼女がWebマガジン幻冬舎に連載した「文化系ママさんダイアリー」は、別所における「書けば自動的におもしろい」という惹句が大げさでない健在ぶりを示す、オリジナリティの高いものでした。

「文化系ママさんダイアリー」は今年に入り惜しくも連載を終了しました。当然『萌える日本文学』に続く彼女の単著としてじきに単行本化されると思っていたのですが、まだその話を聞かないのは遺憾です。もっともっと demi さんの連載を読みたいです。

山崎富美(@Fumi

山崎さんには前回の文章でもお世話になりましたが、とにかく行動力のある人で、そのフットワークの良さのため、今回の文章を書く準備を始めるまでワタシよりずっとお若いのではと思い込んでいました。

しかし、これまでの彼女の仕事は大変幅広く、リサーチャーやコンサルタントといった枠に収まらない、ネットベンチャーの立ち上げから運営から何でもやってしまえるバイタリティのある人という印象もあります。また同時に彼女のギークコミュニティへの造詣の深さも確かで、その国際的な視野、行動力を鑑みれば、Google の Developer Relations という役割は山崎さんに最適なものに思えます。

ちょうど本文を書いている間も Twitter で彼女の Google I/O 2011 レポートを目にしていますが、前回の文章で取り上げた Hack For Japan 以外でもクリエイティブコモンズやオープンガバメント方面での企業の枠を超えた活動も期待したいところです。

山本一郎(@kirik

切込隊長の名前でも知られる著名人としての氏の仕事については、ワタシが特に付け加えることはありません。

個人的に興味深く思うのは、結婚、そして二人のお子さんを得たことによる氏の変化です。例えば東日本震災後に書かれた「赤ちゃんの顔を見ながら、仕事と家庭の両立について思う(雑感)」のようなリリシズムと年齢相応の重力と揺れが同居した文章は、当然ながら家族の存在なしにはありえなかったものです。

ワタシがその存在を認知した時点で既に山本さんはネットにおいて紛れもない有名人で、その氏のことを身近な存在と感じたことはありませんでした。しかし、彼が家族を持ち、その立場を引き受ける姿を目にすることで逆に(これは説明し難い感覚ですが)かつては考え方に氏と自分の間に共通する部分があることに気付き、そしてワタシが未だ果たしていない役割と責任を彼の文章から読み取るとき、やはり身近な存在ではありえないものの、その論考の切れの良さに対する以前から変わらぬ畏敬の念以上の好感を覚え、一方でこの歳になって何ら確かな仕事をなしえず、単著の一つもなく、結婚のひとつも満足にできない自分はいったい何をやっているのだろうと故郷の老親に親不孝を詫びたい気持ちになり、「駄目な男というものは、幸福を受取るに当ってさえ、下手くそを極めるものである」という太宰治の文章を思い出したりします。

......何を書いているか分からなくなってきましたが、山本さんの最近の活動では、氏と有志が立ち上げた福島原発事故等における誤った海外報道に対する反証、反論を目的とする fukushima_factcheck も情報共有として大変有意義なものです。

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プロフィール

1973年生まれ。 ウェブサイトにおいて雑文書き、翻訳者として活動中。その鋭い視点での良質な論評に定評がある。訳書に『デジタル音楽の行方』、『Wiki Way』、『ウェブログ・ハンドブック』がある。

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