OpenStreetMapへの期待と課題
2009年4月 9日
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旧聞に属する話ですが、2月に開催されたオープンソースカンファレンス2009 Tokyo/Spring で「オープンソース地図の時代がやってくる」というセッションに参加しました。
以前このブログで「「G空間」サービスとオープンデータの行方」という文章を書いたとき、最後に OpenStreetMap(OSM)を取り上げたのですが、このプロジェクトについてより知りたいと思ったからです。
OSM は2004年に Steve Coast というプログラマが立ち上げた比較的新しいプロジェクトで、編集可能な自由な地理情報データによって世界地図を作成することを目的としています。Steve Coast は、当時彼が住んでいたイギリスでは自由に利用できる地図情報データがないことに不満をもち OSM を始めたそうです。Google マップをはじめとして既に地図サービスはいくつも存在しますが、商用利用を含めた地図情報データの二次利用や地図データ自体の編集による改良を誰でも行なうことができるとなると、OSM が最大のものでしょう。
ワタシが OSC のセッションに参加してはっとしたのは、OSM が白地図にイチから地図データを書き込んでいく完全な Wiki プロジェクトであることです。アメリカでは地理データが自由に使え、無償提供が義務付けられているそうで、実際 OSM においてもアメリカの公的機関から提供された地理情報のインポートに短期間で成功して一気にカバー率を上げていますが、基本的には GPS トラッカーのログをアップロードして地道に地図を作っていく必要があります。
OSM が扱うオープンデータについては LWN.net に優れた解説記事がありますが(記事1、記事2)、Souceforge.JP Magazine に掲載された「誰でもできるOpenStreetMapへの貢献法」が日本語で読める OSM に関する記事として最も分量があるものでしょうか。
OSM 自体まだ歴史が浅いプロジェクトです。先月登録ユーザが10万人を越えましたが、登録ユーザ、登録地理情報とも急激な伸びを見せている途中です。つまり、まだこれから参加する人にも大きな活躍の余地があります。少し前に OSM のエディタソフトウェア JOSM のメニューが日本語化されるなど、日本におけるユーザ増加の下地が揃いつつあります。
最も必要な貢献は地図データの収集と登録ですが、この点においてハンドヘルド型 GPS が普及している欧米と日本と差があるのは残念です。携帯電話から直接 GPS データを登録できれば参加が格段に楽になると思うのですが、現状難しそうです。Android のようなオープンプラットフォームがこの点について風穴を開ける存在にならないものでしょうか。
ちょうどオープンソース・イニシアティブ理事のラス・ネルソンが、OSM のマッピングパーティへの参加を呼びかけていますが、日本でも各地でマッピングパーティが開かれ、情報交換の場が増えるとよいなと思います。
OSC のセッションでは、ある小学生が夏休みの自由研究に OSM への情報登録を行なった話が紹介されていましたが、塚本牧生さんも書くように小学校の社会科の教材として OSM が使えないものかと思ったりします。
これは OSM 自体に教育的効能があると思うからで、小学生がマッピングパーティーを行なうことで自分達が住む地域について知見を深め、そこで得られた情報を OSM に登録することで情報共有に貢献することの意義を学ぶことができます。これは以前書いた「Wikiリテラシー」につながる話だと思います。
さて、現在 OSM が抱えている課題にライセンスがあります。
OSM のデータにはクリエイティブ・コモンズの表示-継承ライセンスが適用されていますが、著作権法を基にするクリエイティブ・コモンズのライセンスは、地理情報という著作物というより事実そのものである OSM のデータに合わないのではないかとライセンスの改訂が検討されています。
OSM のライセンス問題については、やはり LWN.net に優れた解説記事が公開されていますが、OSM が契約法に基づくコピーレフトな Open Database License に移行する方針であるということをおさえておけばよいでしょう。
ただ先月クリエイティブ・コモンズから OSM のライセンス移行への異議が申し立てられました。クリエイティブ・コモンズは Open Database License の複雑さやライセンス間の互換性の問題を指摘し、自分達が同じく先月に発表した著作権を主張しないことを宣言する CC0 のほうが適していることを示唆しています。
正直この手のライセンスの話はワタシには難しいのでどれが良い悪いという判断は控えます。以前から Flickr のベース地図に OSM が採用されるなど、そのデータの二次利用が広がりつつありますが、最近でも Wikipedia で OSM が利用できるようになるという発表がありました。これは OSM の普及にとって大きなニュースでしょう。
今回のライセンスの見直しがデータの二次利用の障害にならないことを願います。それは当然 OSM のメンバーも同様だと思いますが、オープンデータの取り扱いという観点からも OSM の動向に注目していきたいと思います。
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