「G空間」サービスとオープンデータの行方
2009年2月10日
(これまでの yomoyomoの「情報共有の未来」はこちら)
少し前に日経コミュニケーションの2009年1月15日号を手に取り、「おやっ?」と思ったことがあります。
ワタシもこういう連載を持っているくらいですので、手に取る IT 系雑誌の表紙に載る言葉、少なくとも特集記事のトピックとなる用語くらいは大体知っているものですが(その理解が正しいかどうかは別として)、件の日経コミュニケーションの特集「「G空間」サービスの胎動」の「G空間」という言葉はまったく聞いたことがありませんでした。
その上に添えられた「進化した地図・位置取得技術が創り出す」という文句をあわせれば、「G空間」の G がエルンスト・グレフェンベルグの G でなく geoinformatics(地理情報学)など地理関係の単語の最初に付く geo- に由来するらしいことは想像できますが。
特集記事によると、2007年に施行された地理空間情報活用推進基本法を受け、次世代の地図・位置情報システムを表現するのに使われ始めた言葉がこの「G空間」で、例えば経済産業省は「G空間プロジェクト」を掲げており、2013年までに全国レベルで3次元地図のデータベース構築を目指しているそうです。
ただ最初ワタシがこの言葉から連想したのは、少なからぬ読者がそうだと思いますが Google でした。「進化した地図・位置取得技術」という説明を入れてもそうで、それだけ Google マップや Google Earth といった一連の実世界ウェブサービスが存在感を示しているということで、先日も携帯電話で友人と位置情報を共有できる Google Latitude の公開がありました。
これまでの2次元の地図情報から、パノラマを含む3次元、これに時間情報を加えた4次元への進化をもって「G空間プロジェクト」は次世代と考えているようですが、この点についても Google ストリートビューが実現しています。
この現状をもって、経済産業省の「G空間」への取り組みを「情報大航海プロジェクトの地理情報版」と言い切るのは早計ですが、同種の不安を覚えます。
いや、目の付け所はすごく良いと思うのです。日経コミュニケーションの特集記事はちょうどウェブに公開され始めてますのでそちらを参照いただくとして、Flickr や Wikipedia といった Web 2.0 サービスと位置情報とのマッシュアップサービスは既に現実になっており、行動情報によるマッチングサービス、地図情報が3次元になることで可能になる拡張現実(Augmented Reality、AR)サービス……どれも面白いですし広告ビジネスやコンテンツビジネスへの広がりも期待できます。
PlaceEngine など受け皿となるサービスが、この分野でも既にビッグプレイヤーである Google と競争しながらサービスの質が高まれば良いのですが、一方で「データの囲い込み」といった問題が頭をもたげます。
一連の Google ストリートビューを巡る騒動で顕在化しましたが、営利企業が収集した地理情報データをどこまでオープンに利用できるか、そして同時にプライバシーにどこまで配慮すべきなのか。東京都情報公開・個人情報保護審議会における Google の藤田一夫ポリシーカウンセルの質疑応答を見ても、苦しい言い訳(笑)に終始するばかりで、フィリップ・マーロウなら、「そしてまた今度、もし気が向いたら、もう少し筋のとおった話ができる人間を寄越してもらいたいと言っておいてください」と冷たく言い放つところでしょう。
この問題は、経済産業省の息がかかったプロジェクトなら安心ということにはなりません。そうした意味で、サービスが現実化しつつある今こそオルタナティブとしての地理情報分野における「オープンデータ」についても考えるべきときなのかもしれません。
ちょうど OSI Board Blog を読んでいて、オープンソース・イニシアティブ理事のラス・ネルソンが、Google Maps のオープンソース、オープンデータ版と言える OpenStreetMap のデータをビジネスにすることを目論む CloudMade というスタートアップに参画することを知りました。
こうしてみると geoinformatics の分野にいち早く目を付け、Web 2.0 周りと併せて煽る Where 2.0 カンファレンスを主催してきたオライリーは偉かったと思いますし、地理情報分野におけるオープンデータとして OpenStreetMap Japan などの動きに注目していきたいところです。
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