このサイトは、2011年6月まで http://wiredvision.jp/ で公開されていたWIRED VISIONのコンテンツをアーカイブとして公開しているサイトです。

高森郁哉の「ArtとTechの明日が見たい」

アートと技術、オーディオビジュアル、メディアをめぐる話題をピックアップ

映画『ATOM』:進化を続ける「科学の子」

2009年9月17日

ATOM.jpg
©2009 Imagi Crystal Limited Original Manga © Tezuka Productions Co., Ltd.

『鉄腕アトム』は常に進化してきた。1952年から手塚治虫が連載を開始した漫画のストーリー上でも、事故で息子を失った天馬博士が最先端のロボット科学で息子そっくりの高性能ロボット「アトム」を作って以来、お茶の水博士によってたびたび改良され、新しい能力を獲得してきた。アニメとしても、1963年に国産初の本格的テレビアニメーションシリーズとして放映が始まり、1980年、2003年のテレビシリーズでもそれぞれ新しいエピソードを加えつつ当時最新のアニメ技術で制作することでアップデートを重ねてきた。

そして2009年の今年、アトムはフルCGアニメで新しく生まれ変わる。長く待ち望まれた映画化をついに実現したのは2000年設立の新鋭、イマジ・スタジオ。ロサンゼルスにクリエイティブ部門と制作部門、東京にも支社を持ち、香港に本社を構える特殊な形態のアニメーションスタジオであり、同社初の本格的CGアニメ映画『ミュータント・タートルズ -TMNT-』が2007年3月に全米で封切られ公開週興行成績トップを獲得したことで一躍名を上げた。

9月16日にイマジカ第一試写室で行われた『ATOM』の初号試写(日本語吹替版)を観て、新しいスタイルの映像でアトムの世界に魅力を加えながらも、原作が問い続けた「人間とロボット(科学技術)の関係はどうあるべきか」というテーマを尊重し継承していることが確認できた。科学者が人の暮らしを良くしようと願い開発した技術が、兵器に使われて多くの人を殺傷することもある。人間そっくりのロボットがいつか実現するとしても、それは本当に人間にとって良いことだろうか。映画でテンマ博士が亡き息子トビーのコピーを作ることでかえって喪失感を募らせるように、ここには心の問題もかかわってくる。

手塚治虫がキャラクターの造形やプロットの構成で『ピノキオ』や『メトロポリス』、『マイティ・マウス』からヒントを得たように、『ATOM』もディケンズの古典『オリバー・ツイスト』から『アイアンマン』『風の谷のナウシカ』といった最近の作品まで、さまざまな傑作の要素を取り入れた。『オリバー・ツイスト』での孤児たちを使って親代わりの男が金を稼ぐという設定は、本作の英語版でアトム役のフレディ・ハイモアが主演した『奇跡のシンフォニー』でも使われていたから、字幕スーパー版を鑑賞する人は余計にイメージがダブるかもしれない。

また、多くの映画ファンが気づくであろう『A.I.』との類似点に関しては、手塚プロダクション著作権事業局局長の清水義裕氏が「1997年には米国メジャー映画会社と2年に渡る交渉の末、映画化の契約をし、トッド・アルコット(『アンツ』のライター)氏のシナリオもとても良かったのですが、残念ながら映画にはなりませんでした。スピルバーグ監督の『A.I.』が先に上映され、それと似ていたので(どちらが?)メジャー会社の腰が砕けた形でした」とパンフの文章で述懐している。

日本語吹替版では上戸彩がアトムの吹き替えを担当しており、これが思いのほか違和感がなくて感心した。さすがに雄叫びだけは迫力不足だが、それ以外では女性が話していることを忘れさせ、エモーショナルな台詞は心にしみた。

アトムが高速で飛ぶシーンや巨大ロボットと戦う場面はさすがにしっかり作り込まれていて、スピード感と高揚感が小気味よい。音響面では巨大ロボットの歩行に合わせた地響きのサウンドデザインが臨場感満点の迫力で、重低音が試写室の床とイスを文字通り激しく振動させていた。上映館やスクリーンを複数から選択できる人には、できるだけ音響設備のよいところで鑑賞することをお薦めしたい。中途半端な設備だと、低音成分が歪んでしまうか、それを避けるためにイコライザーでローカットされるだろうから。

科学技術に常に改善の余地があるように、本作にも課題点はある。たとえば、テンマ博士は人格まで亡き息子を再現するつもりで、毛髪のDNAからトビーの記憶を採取して人工頭脳にアップロードする、というくだりがあるが、これは少なくとも現時点ではトンデモ学説の部類なので、SF作品としての格を下げている気がする。また、起動後ずっと自分を人間だと思い込んでいたアトムが、高層の自宅窓から転落した際に半ば無意識のうちに足からジェットを噴射させ、自らの新しい能力に大喜びで空を飛び回るが、その後自分がロボットだと知らされてショックを受けるという流れも、少々不自然に思われた。

また背景に関して、プレス資料に「背景のアイデアについても日本に求めた。19世紀の浮世絵師、葛飾北斎の作品だ。北斎は本質を凝縮させるために、ごちゃごちゃした描き込みを排除し、シンプルに風景へ迫っていく」と書かれているが、ピクサーの『ウォーリー』やドリームワークスの『・モンスターVSエイリアン』の廃虚や街並みのフォトリアルな描写、ソニー・ピクチャーズ・イメージワークスの『くもりときどきミートボール』のユニークな造形のキャラと自然になじむ背景の精緻なタッチに比べると、やや物足りなさを感じた。

とはいえ、別の人が観たら当然違う部分に好印象を受けたり、また異なる部分に不満を持ったりするのだろうし、そもそも万人が100%満足する作品などあり得ない。原作がある場合は特に熱心な原作ファンの基準が高くなるのでそのぶん苦労も多いが、続く時代のクリエイターが原作者のメッセージを継承しつつ、当代の知見を盛り込みさらに先の未来の夢を託して新たな命を吹き込むことによって、キャラクターもまた次の世代へと受け継がれていくのだろう。

さらに3Dへと進化する『ATOM』ほか2作品

以前に当ブログでお伝えしたように、『ATOM』は当初3Dバージョンの制作も進められていたが、配給契約の関係で今年は2D上映のみになった。3D映画を何本か観ている人が今回の『ATOM』本編を観たら、いたるところで3D上映を想定した構図や演出に気づくことだろう。試写会場でイマジ・インターナショナル・ジャパンのCEO兼エグゼクティブ・プロデューサー、小林信一氏にうかがったところ、これまでは2D版を最優先で進めてきたが、ようやく完成したことで3D版の制作も徐々にまた本格化しているとのこと。すでに制作済みで今回の本編には含まれないロボットバトルなどのシーンもあるそうで、パッケージメディアのリリース時に特典映像になるほか、3D版に組み込まれる可能性もあるだろうから、どんな形で目にすることができるのか今から楽しみだ。

さらに小林氏によると、イマジは今後制作環境を完全に3D制作向けに整備するそうで、同社が日本アニメのCG映画化を進めるあと2つの作品、『科学忍者隊ガッチャマン』と『鉄人28号』についてもやはり3D映画として制作するという。ドリームワークス・アニメーションも『モンスターVSエイリアン』以降の全作品を3Dで作ると宣言して話題になったが、実写も含め3D映画全体の興収が好調なこともあり、こうした3D体制への移行がアニメーションスタジオの現場で今後さらに加速するものと思われる。

[公開情報]
『ATOM』 原題 Astro Boy
字幕スーパー版/日本語吹替版
監督:デビッド・バワーズ
脚本:ティモシー・ハリス、デビッド・バワーズ
キャスト:フレディ・ハイモア、ニコラス・ケイジ、サミュエル・L・ジャクソン、ビル・ナイ、ドナルド・サザーランド、シャーリーズ・セロンほか
日本語吹替キャスト:上戸彩、役所広司ほか
10月10日(土)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー
配給:角川映画、角川エンタテインメント
公式サイト:http://atom.kadokawa-ent.jp/

「僕は負けない だって父さんの子どもだから。」

フィードを登録する

前の記事

次の記事

高森郁哉の「ArtとTechの明日が見たい」

プロフィール

フリーランスのライター、翻訳者としての活動を経て、2010年3月、ウェブ・メディア・地域事業を手がける(株)コメディアの代表取締役に。多摩地域情報サイト「たまプレ!」編集長。ウェブ媒体などへの寄稿も映画評を中心に継続している。

過去の記事

月間アーカイブ