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高森郁哉の「ArtとTechの明日が見たい」

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『モンスターVSエイリアン』3D版を試写で観た

2009年6月12日

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(C) 2009 DreamWorks Animation L.L.C

米国で3月末に封切られてから興収約1億9500万ドルを達成し(BOX OFFICE MOJOによる6月9日時点での米国内集計)、2009年興収ランキングで2位(1位は『スター・トレック』)、1980年以降の3D映画ランキングでは実質1位(表でトップの『Toy Story 2 (3D)』は2D公開時の興収で、3D版は今年10月公開予定)という、まさにモンスター級の大ヒットとなっている『モンスターVSエイリアン』。このほど3Dバージョン(日本語吹替版)を試写で鑑賞する機会を得た。

結婚式を目前に控えた花嫁のスーザンが隕石の直撃を受けて約15メートルに巨大化、米軍が隠蔽する「モンスター軍団」の一員となって、地球に襲来するエイリアンの勢力と戦う羽目になる、というストーリー。明らかにファミリー向けの内容だが、キャラクターの設定やシーンの描写に特撮映画やSF映画のパロディーを多数盛り込み、大人の映画好きへの目配せも忘れない。まず巨大化した女性といえばダリル・ハンナ主演の『ジャイアント・ウーマン』があったし、転送装置の故障で人間とゴキブリが合体してしまったコックローチ博士は『ハエ男の恐怖』(リメイクは『ザ・フライ』)、放射能を浴びて巨大化したムシザウルスは『ゴジラ』、半透明でスライム状のボブは『マックイーンの絶対の危機』(リメイクは『ブロブ 宇宙からの不明物体』)をそれぞれ元にしたのだろう。エイリアンが送った巨大ロボットに大統領がコンタクトを試みようとするシーンは、『地球の静止する日』『スター・トレック』『未知との遭遇』の引用(大統領がヤマハ『DX-7』で『未知との遭遇』の5音メロディーを弾く!)。ほかに、『博士の異常な愛情』『スター・ウォーズ』『ウルトラマン』『モスラ』を思わせる場面もある。

巨大化した体に困惑していたスーザンが、モンスターたちとの間に友情を感じるようになるとともに、地球を救うことのできる自分の能力と責任を自覚し、ヒロインとして成長するという展開は、まあ他愛ないといえば他愛ないが、親子で楽しむにはこれぐらいがちょうどよく、それが大ヒットにつながったのだろう。人間キャラの造形は米国と日本で好みの差が出そうだが、ユーモラスなモンスターたちは子供に喜ばれるだろう。日本語吹き替えはベッキー(スーザン役)とバナナマンの日村勇紀(ボブ役)ほかが担当していて、英語のジョークを翻訳した台詞は現場の苦労が伝わってくる感じもあったが、そうした部分も含めてゆるく鑑賞するのがこの映画には合っている。

3D映像については、意外に節度を守った使い方をしているなという印象を受けた。3D映画にありがちな、急に観客側に物を飛び出させて驚かせる演出は、冒頭のピンポンのラケットにゴムでつながれたボールをポンポン打つ場面(あの遊具の名称は何というのだろうか、『ファビュラス・ベイカー・ボーイズ』でジェフ・ブリッジスと仲のいい少女が遊んでいたやつ)など何度かは登場するが、これ見よがしに乱発することはない。それよりはワンカットを長めにしてしっかりと画面の奥行きを見せる演出になっていて、それが特に効果的なのが、宇宙空間の広がりを描くショットと、サンフランシスコ市街を映したシークエンスだ。後者のダウンタウンのビル群や丘の上の家並み、ゴールデンゲートブリッジの精緻でリアルな立体感には本当に驚かされた。これらの場面を製作する前に、ヘリコプターを使って巨大モンスターの視点を確認したり、街の模型にアニメーターが足を踏み入れて街灯を壊したり車を踏んだりする様子を撮影したという。

試写会場の秋葉原・アキバシアターではXpanD方式での3D上映だった(本上映ではRealDとIMAX 3Dが予定されているようだ)。この方式の3Dメガネは他の方式に比べ若干大ぶりで、裸眼やコンタクトの人は問題ないだろうが、僕のようにメガネの上に重ねて装着するとやや収まりが悪く、ずり落ちてくるのを時々直す必要があった。今回初めて思いついたが、メガネの人が3D映画を観るときはスポーツ用のメガネバンドを持参するといいのではないか。次の3D映画鑑賞の前に買おうと思う。

[公開情報]
『モンスターVSエイリアン』 原題:Monsters vs Aliens
「人生で最も幸福な日、結婚式に大問題!?身長15メートルのニューヒロイン“スーザン”誕生!!」
7月11日(土)より新宿ピカデリーほか全国ロードショー
公式サイト:http://www.mva-movie.jp/
配給:パラマウント ピクチャーズ ジャパン

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プロフィール

フリーランスのライター、翻訳者としての活動を経て、2010年3月、ウェブ・メディア・地域事業を手がける(株)コメディアの代表取締役に。多摩地域情報サイト「たまプレ!」編集長。ウェブ媒体などへの寄稿も映画評を中心に継続している。

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