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高森郁哉の「ArtとTechの明日が見たい」

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『くもりときどきミートボール』:ポップな3Dアニメを支える高度なレンダリング技術

2009年9月11日

くもりときどきミートボール
Photo credit: Courtesy of Sony Pictures Animation

フリント・ロックウッドの夢は偉大な発明家になること!しかし、彼の発明はちょっと風変わりで、家族や町中の人に迷惑をかけていた。

彼の住む港町では、みんな、朝から晩まで、町の名物であるサーディーン(イワシ)料理を食べて暮らしていた。町のみんなに、もっとおいしいものを食べさせたいと思ったフリントは、水を何でも好きな食べ物に変えることができる<食べ物マシーン>を発明する。このマシーンを使えば、コップ1杯の水が、ミートボールにもなるのだ!

完成したマシーンを起動させようとしたとき、不慮の事故が起こり、<食べ物マシーン>は雲の彼方へと飛んでいってしまった。またまた失敗かと思われた発明だったが、巨大な雨雲が町に近づいてくると、空から大量のチーズバーガーが降ってきたのであった。

サーディーンしか食べられなかった町の人たちは大喜び。フリントが、研究室にあるコンピューターから食べたいものを入力すれば、何でも空から降ってくるのだ。今までずっと変人扱いされていたフリントは、一躍、町のヒーローとなった。

しかし、町の人たちは気付いていなかった。空から降ってくる食べ物が、日に日に巨大化していることに・・・・。[プレス資料より]

米Sony Pictures Animation社の劇場公開長編アニメ映画としては『オープン・シーズン』(2006年)、『サーフズ・アップ』(2007年)に続く第3作。そして、3D方式で製作、上映されるのは本作が初となる。

原作は1978年に米国で出版された絵本『くもりときどきミートボール』(ジュディ・バレット文、ロン・バレット絵、青山南訳、ほるぷ出版)。こちらはおじいさんが2人の孫に不思議な話を語る形式で、空から食べ物が降ってくることについて特に理由づけがなく、舞台の町には名前のついたキャラクターも登場しない。ファンタジックな物語の割に絵は写実性とシュールさと暗さが微妙に入り交じっていて、なんとも不思議な味わいがある。

映画版では、まず登場人物に発明家志望の若者フリント、その父親で目がいつも太い眉毛に隠れているティム、新人お天気キャスターのサム(途中から眼鏡っ娘になる)、俗物のシェルボーン市長といった個性的なキャラクターを配し、成長物語、親子の絆、恋愛、冒険といった要素を盛り込んだ。フリントの発明した装置によって空から食べ物が降るという設定が加えられ、注文が多すぎて暴走し巨大な食べ物を降らせるようになった装置を、フリントやサムたちが協力して食い止めようと奮闘する、という展開になる。

キャラクターデザインも原作の絵本にとらわれず新たに創作され、ユーモラスにデフォルメされたポップな造形になった。一方で空から降るごちそうの数々は、素材の形状から着地したときの跳ね具合、ばらけ具合までかなり忠実に再現されている。特に、ゼリーで作られたお城の弾力感と透明感、スパゲッティーが巨大な竜巻になって町に接近する様子やレストランの客たちの上にべちゃっと落ちてくるシーンに感心し、大いに楽しませてもらった。

アニメーションを制作したSony Pictures Imageworks社は、『Arnold』というライティングシステムを使ってレンダリングを行った。これはピンポイントのライティングの代わりに面照明を利用でき、さらに物体から反射する間接光も処理できるもので、「グローバル・イルミネーション」と呼ばれる。これがキャラクターや食べ物、建物の質感に大きく貢献したようで、3D映像を観たときの没入感、空気感にもプラスの効果をもたらしていた。

SIGGRAPH2009をレポートした倉地紀子氏の記事によると、Arnoldはスペイン出身のマルコス・ファラウド氏が開発し、Sony Pictures Imageworks社が『モンスター・ハウス』(2006年)の視覚効果を担当したときにファラウド氏が参加して映画制作向けに改良された。その後は『イーグル・アイ』や『ウォッチメン』といった実写映画の視覚効果にも導入されたという。

YouTubeにSony Pictures Imageworks社が手がけた映画の視覚効果をまとめたデモリールがアップされていたので、下に貼りつけておく。『くもりときどきミートボール』のシーンも含まれている。

絵の雰囲気やストーリーから子供向け、ファミリー向けと思われるかもしれないが、大人のアニメファンでも楽しめる要素がたくさんあるし(そうそう、日本版のエンドロールで流れる主題歌『rainbow forecast』を中川翔子“しょこたん”が担当していて、80年代ディスコ調でいい感じ)、特にCG製作や3D映像に関心のある人なら、その技術的な進歩をぜひ自身の目で確かめていただきたいと思う。


[公開情報]
『くもりときどきミートボール』原題:Cloudy With A Chance of Meatballs
監督:クリス・ミラー&フィル・ロード
公式サイト:kumori-tokidoki.jp
ソニー・ピクチャーズ・アニメーション作品
映像・アニメーション制作:ソニー・ピクチャーズ・イメージワークス
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
9月19日 新宿ピカデリーほか全国ロードショー(全館3D上映)

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プロフィール

フリーランスのライター、翻訳者としての活動を経て、2010年3月、ウェブ・メディア・地域事業を手がける(株)コメディアの代表取締役に。多摩地域情報サイト「たまプレ!」編集長。ウェブ媒体などへの寄稿も映画評を中心に継続している。

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