このサイトは、2011年6月まで http://wiredvision.jp/ で公開されていたWIRED VISIONのコンテンツをアーカイブとして公開しているサイトです。

松浦晋也の「モビリティ・ビジョン」

今後、テクノロジーの発達に伴い大きく変化していく”乗り物”をちょっと違った角度から考え、体験する。

5LINKS――どこにでも持っていってパッと乗れる折り畳み自転車を目指して

2010年9月21日

(これまでの 松浦晋也の「モビリティ・ビジョン」はこちら

5LINKSの外観。長いハンドルポストが特徴だ。

 今回は、少し話を戻して自転車のことを書く。昨年、かなりの回数を費やして交通機関としての自転車の可能性について論じた。すると過日、五百住守彦さんという方から、メールが届いた。自転車2.0という主張(「"自転車2.0"をめざして(その1)」、「"自転車2.0"をめざして(その2)」、「"自転車2.0"を巡る社会状況」を参照のこと)に共感した。ついては、自分は新しい交通機関を作るという観点から折り畳み自転車を開発し、販売しているという。

 この連載でも折り畳み自転車を取り上げたことがある(「折り畳み自転車を畳んだことはありますか」を参照)。面白そうなので、五百住さんに連絡を取り、会ってみることにした。ちなみにお名前は「いおずみ」と読む。

 五百住さんの折り畳み自転車は、5LINKSという会社で販売している。自転車の名前も「5LINKS」だ。ホームページを見るとトップに、自転車の折り畳み法がムービーで表示される。
 これはなかなか面白く、かつ合理的な折り畳み方法だ。フレームに折り畳み部分を作らずに、ステアリング部分に折り畳み機構を集中させている。なおかつ折り畳み後の形態は細長く、持ち歩くときには車輪を転がして移動できるように畳んでいる。

折り畳みの方法。5LINKS提供。

 折り畳み自転車の弱点は、折り畳み機構の部分でどうしてもフレームの剛性が下がってしまうことだ。このためふにゃふにゃの乗り心地になりやすい。特にホームセンターなどで売っている安価な折り畳み自転車にはその傾向がある。もちろん折り畳み機構の分、自転車の製造コストは上がるから、「折り畳み自転車を畳んだことはありますか」に書いたように、折り畳み自転車を畳まずに使うということは、乗り心地は悪くて値段は高い自転車に乗るということになりかねない。

 きちんと設計された折り畳み自転車は、折り畳み機構での剛性低下をなるべく小さくするように工夫されている。たとえばDAHONの製品は、剛性が下がらないようにヒンジの設計に工夫をこらしているし、BD-1で有名な独R&Mは、全後輪のサスペンションの回転軸で折り畳むようにしている。フレームの途中に新たな蝶番を設けるのではなく、どうしても自転車に必要なヒンジ部分から折り畳むようにしているわけだ。

 5LINKSはどうだろうか。フレームに折り畳み部分がないというのは大きな利点だが、自転車の中でもクランク軸を通すボトムブラケットと並んで一番大きな力がかかるステアリングヘッドに、折り畳み機構を集中させたことによるデメリットはあるのかないのか、興味津々だ。

ステアリングヘッドにある折り畳み機構。

 実際のところはどうなのか確かめてみよう、と、約束の場所にお伺いして驚いた。実は五百住さんは東京・銀座で五百住歯科という歯科医院を開いている歯医者さんだった。
 なぜ歯医者さんが自転車を、という疑問は後回しにして、早速試乗させてもらった。試乗したのは内装3段変速を組み込んだモデルである。

 自転車としては、もうまったく普通だ。乗車姿勢はほぼママチャリと同じ。ロードレーサーのようにフレームが堅くて脚に響くということもない。乗るにあたっては、何の心の準備もいらない。直進安定性も、段差の乗り上げも何の不安感もない。
 乗り心地もまた、しっかり作られたママチャリのようだ。もう少しがっちりしていたほうが自分としては良いように思うが、この自転車に何を求めるかで、要求は変わってくるだろう。フレームの剛性なのか、ステアリングの折り畳み機構でトータルの剛性が落ちているのか、それともステアリングヘッドとハンドルとの距離が大きいので、そこでたわみを感じてしまうのか――ちょっと私には判断がつかない。
 よくできている。でももっと良く走る車体のほうが自分はいいな――これが試乗したときの印象だった。

 折り畳みは簡単だ。シートポストを倒して、ステアリング部のレバーを引き起こすと、フロントフォークが回転とスライドの2つの動きをして、自転車は前輪後輪が同軸に来るように折り畳まれる。車軸には、折り畳んだ状態で固定する機構が付いているので、折り畳み形状がばらける心配はない。もちろん折り畳みによってチェーンが外れる心配もない。
 前輪後輪が同軸になるように折り畳み、転がせるようにする設計は、村山コーポレーションのMC-1と同じだ。MC-1は、独特の機構で折り畳み時にチェーンが後輪ギアから外れるようになっており、折り畳んだ状態で押すことも引くこともできる。一方、5LINKSは後輪軸のラチェット機構が生きたままなので、後輪は一方向にしか回転しない。「でも、このほうがかえって立てた時の安定性がいいんですよ」と五百住さんはいう。

シートポストの折り畳み機構。シート高調節機構とは別に独立しており、折り畳みのたびにシート高を調整し直す必要はない。

折り畳み途中と折り畳んだ後の折り畳み機構。ハンドルポストがステアリングヘッドに対して90度回転すると同時に、ハンドルポスト部がスライドする。

折り畳み時には、前輪後輪が同軸になる。軸には突起があって、引っかけることで同軸の状態に固定される。

 銀座の街を走り、一通り畳んだり広げたりした後で、五百住さんからじっくりと話を聴いた。やはりというべきか、五百住さんも、都市交通にもっと自転車を積極的に活用する方法はないかと考えているうちに折り畳み自転車に行き着き、「持ち運びしやすい折り畳み自転車」を研究するようになったのだそうだ。「ちょうどゴルフバッグぐらいの感覚で持ち歩けるということを目指しました」。
 折り畳み自転車を輪行バッグに入れて肩掛けで移動するのは、それなりに大変だ。だから、キャスター付きバッグのように転がして移動したい。車輪とは別にキャスターを付けるよりも、前輪と後輪をそのまま折り畳み状態で転がすのに使えないか、ということでステアリング回りに折り畳み機構を集中させるユニークな折り畳み形式に行き着いた。

 歯科医という本業を持ちつつ、コマーシャルな自転車の販売にまで乗り出すというのは大変な情熱だ。実際、製造・販売にこぎ着けるまでには、様々な苦労と紆余曲折があったという。一体、五百住さんは折り畳み自転車で何を目指しているのか尋ねてみると、「自分としてはママチャリ指向というか、どこへでも気軽に持っていって、パッと乗れるということを考えています」という返事が返ってきた。

 正直、私はかなり意表を突かれた。というのも、無意識のうちに「きちんとした折り畳み自転車」は、がんがん長距離を走ることができる自転車だと思っていたことに気がついたからだ。と同時に、自分が5LINKSに感じた違和感の源がどこにあるのかも理解した。5LINKSはサイクリスト好みの自転車をめざしてはいないのだ。乗るにあたっての敷居を可能な限り下げて、何の準備も覚悟もなく、歩行の延長線上で、さっと利用できるということを指向している。

 これはこれで、都市交通での自転車利用を促進するための立派な戦略ではないか。

 これからの課題はと尋ねると、やはりというか「軽量化ですね」という答えだった。現在、5LINKSの重量は、変速ギアなしで9.6kg、3段変速のモデルは10kgを超える。「気楽に持って歩くためには、5kgぐらいにできるといいのですけれど」という。しかし「自転車はどこまで軽くなるか」で書いた通り、その10kgから5kgへの軽量化には現状では大変なコストがかかる。

 そこには価格と客層という問題も存在する。5LINKSの価格は税込み7万9800円。お手軽自転車が欲しい一般消費者は躊躇する価格帯だ。となると、やってくるのは新しいものが好きなマニアックな人々ということになる。実際「もっとスポーティに走りたいのでハンドル位置を下げられないか」とか「3段変速ではなく、8段以上の変速機を装着できないか」といった問い合わせがあるそうだ。ビジネスとしては、そちらのニーズに応えていくという道もあるだろうが、五百住さんが目指しているのは、あくまで「どこへでも気軽に持っていって、パッと乗れる自転車」なのだ。

 折り畳み自転車という分野は、アイデア一つで挑戦することができるので、日本においてもぼつぼつとベンチャー系企業の参入が続いている。前述した村山コーポレーションが代表例だし、最近では、小型軽量を売り物にしたバイク技術研究所の「YS-11シリーズ」も話題になった。その中で5LINKSは、先行する製品とは少々毛色が異なる。思いっきりペダルを踏んで走ることを目指すホビー・サイクリスト向けとは別の、生活の道具としての自転車というコンセプトを提示しているのだ。

 五百住さんは、「色々改良していくところはありますけれども、少しずつ前に進んでいきますよ」という。どこにでも持っていって、パッと使える自転車――5LINKSは、そんな生活用品への最短距離にいるのかも知れない。

フィードを登録する

前の記事

次の記事

松浦晋也の「モビリティ・ビジョン」

プロフィール

ノンフィクションライター。1962年、東京都出身。日経BP社記者を経て、現在は主に航空宇宙分野で執筆活動を行っている。著書に火星探査機『のぞみ』の開発と運用を追った『恐るべき旅路』(朝日新聞社)、スペースシャトルの設計が抱える問題点を指摘した『スペースシャトルの落日』(エクスナレッジ)、桁外れの趣味人たちをレポートした『コダワリ人のおもちゃ箱』(エクスナレッジ)などがある。

過去の記事

月間アーカイブ