クラウドコンピューティングからP2Pへの揺り戻しはあるか
2008年9月 4日
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本ブログでもマイクロソフトの取り組みやオープンソースとの関係という切り口で、エンタープライズ方面において今年最大のバズワードとなったクラウドコンピューティングについて取り上げてきました。
クラウドという言葉がもてはやされる一方で、ベンダの思惑などがありこの言葉が統一された定義がなく使われているという問題があります。ワタシ自身は Salesforce や Zimbra といった SaaS(Software as a Service)ベンダという Web 2.0 の文脈寄りの方向から見がちですが、かつての ASP やグリッドコンピューティングのコンセプトに連なるアンブレラタームだと緩めに考えています。
技術系のニュースサイトを読んでいて、クラウドコンピューティングという単語を見ない日がないくらいですが、クラウド側に処理を全部まかせて信頼性は大丈夫なのか、という議論も、Amazon Web サービスなどに問題が起こるたびに繰り返されています。
先月複数の国で Gmail の動作が停止したときにも同様の議論がありました。
Marco Kotrotsos は P2P Cloud computing にこそネットインフラの未来があるのではという意見を述べたところ、Marton Trencseni が、それって2000年頃言われてたグリッドコンピューティングそのもので、現在は通用しないよと混ぜ返していて、前述の言葉の定義問題が頭をもたげます。
ただクラウドに対する P2P という論点は考えてみる価値がありそうで、といってもこれはシンクライアント対リッチクライアントの議論の一種とも言えるわけですが、クラウドという言葉ばかりが注目される現状への揺り戻しも今後出てくるでしょう。
この話題について ReadWriteWeb が興味深い指摘を行なっています。注目すべき新興 P2P スタートアップはアメリカ以外の国から登場しているというのです。これは盲点でした。
サービス名 | 事業分野 | 出身国 |
---|---|---|
Skype | 電話 | エストニア |
Wuala | ストレージ | スイス |
Faroo | 検索 | ドイツ |
Metaaso | ビデオ | インド |
当然アメリカにも BitTorrent のようなスタートアップは存在しますが、クラウドコンピューティングへの取り組みが本格化し Google や Amazon をはじめとして IBM や HP といったビッグプレイヤーが揃った現状は、それだけ参入障壁があがっているとも言えます。ウェブサービス提供者として、ビッグプレイヤーのサービスにただ乗っかる選択肢もあるわけですが、自身のサービスの基盤をクラウドに託してしまって大丈夫かという不安は現状つきまといますし、むしろ P2P で勝負するという選択肢もあってよいでしょう。
翻って日本では開発者が逮捕されてしまった Winny が大きく、「P2P=違法ファイル共有」というイメージが強かった残念な過去があります。ReadWriteWeb のエントリの最後に書かれるように、企業内での使用を想定した P2P ネットワークアプリケーションは狙い目だと思いますし、思えば日本にもアリエル・ネットワークのように企業向け製品に P2P 技術を採用しているところがありますが、優れた P2P アプリケーション、サービスが最近のクラウド一辺倒の揺り戻しにもつながるのかもしれません。
Web 2.0 スタートアップのビジネスモデルは Google や Amazon から買収されること、などというジョークがありますが、ここでの Google や Amazon を(リッチクライアントが得となる)マイクロソフト、Apple、Intel に置き換えれば、それは P2P 技術に取り組むスタートアップにも言えることなのかもしれません。
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