オープンソースとクラウドコンピューティング
2008年8月 6日
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先月末、Open Source Convention(OSCON)が開催されましたが、報道を見る限り、今年の OSCON で最も注目を集めたのは Apache Software Foundation に10万ドルの寄付を行い、サム・ラムジ(Sam Ramji)が基調講演を行なったマイクロソフトだったようです。
Apache 支援の意図についてはサム・ラムジのブログ、OSCON の様子については「マイクロソフトのオープンソース責任者が抱える“責任”と“苦悩”」あたりを読んでいただくとして、マイクロソフトが Apache に寄付を行なうなんて10年前を思えば夢のようです。
ブルース・ペレンスのように支援の意図を勘ぐる向きもありますが、マイクロソフトを全面的に信用はできないが歩み寄りは歓迎する、という反応が支配的なようです。
さて、OSCON の主催者であるティム・オライリーは、イベント終了後に Open Source and Cloud Computing というエントリを公開しており、これを読むとオライリーの関心が一般の報道と違っているのが分かります。
オライリーは、インターネットの成功の基盤となったオープンソースが、ソフトウェアが主にサーバ側で動作するクラウドコンピューティング時代になると、ソフトウェアの配布、複製を前提とするオープンソースのライセンスは時代遅れとなり、結果独占的なロックインに寄与してしまうことを懸念しています。
オライリーは今年の OSCON について Web 2.0 とクラウドコンピューティングが抱える問題を直視し、その上でオープンソースの価値を高めようとするセッションが増えたことを歓迎しており、また Yahoo! Boss のような企業による取り組みも、「クラウドの時代には、オープンデータなきオープンソースではアプリケーションとして半人前」であることを理解していると評価しています(「大胆な戦略を取っても失うものはない」のがオープン化の理由かもしれませんが)。
オライリーのエントリを読んでも、まだ彼自身きっちりとした答えが出ているわけではないようですが、二つのアドバイスを提起しています。
- 中央集権的でなく連合的な設計のサービスを構築せよ。アーキテクチャはいつだってライセンスに勝る。
- オープンソースでなくても十分にオープンな API があればよい。API がオープンかどうかは、その API 提供者がホストしないサービスが可能かで分かる。
穿った見方をすれば、クラウドコンピューティングの文脈ではオープンソースをライセンスで縛ることはコピーレフトなものでもやはり不可能なので、上位概念のプロトコルの公開性と真のオープンなプログラム環境でカバーしていこうということでしょうか。
オープンソース・イニシアティブのラス・ネルソン(Russ Nelson)は、オープンソースでは自由やライセンスよりもコミュニティが重要だから、オライリーの「オープンソースのライセンスは時代遅れ」という懸念は問題じゃないと書いています。それだけ読むと楽観的過ぎると突っ込みたくなりますが、いくらソフトウェアにオープンソースのライセンスを適用してもコミュニティからの改善を受け付けない企業は自分の首を絞めるだけ、というネルソンの主張は、実はオライリーのアドバイスと重なるのかもしれません。
オープンソース企業の代表格である Red Hat もクラウドコンピューティングを最優先事業と考えているようで、それがオープンソースを骨抜きにする危惧をはらみながらもクラウドコンピューティング(この原稿を書いている間も、Dell がこの言葉を商標登録申請したというニュースが飛び込みましたが)へのシフトは続きそうです。
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