仮想現実と拡張現実〜Second Life、Sekai Camera、はてなワールド
2008年9月17日
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少し前に日経BPから献本いただいたワグナー・ジェームズ・アウ著『セカンドライフ 仮想コミュニティがビジネスを創りかえる』を読んでいます。タイトルから分かる通り、Second Life についての本です。
ワタシ自身2006年には自身のブログで何度か Second Life を取り上げており(例1、例2)、注目して情報を追いかけていたのですが、日本版も出ないうちから分不相応に一般紙が取り上げるようになると逆に興味が失せてしまい、Second Life 自体にもまったくアクセスしなくなりました。
Second Life についての分析は、濱野智史さんの「情報環境研究ノート」に詳しいのでバックナンバーをあたっていただくとして、「すっかり盛り下がってしまった」という印象がある中で本書が刊行されるのは、この本がリンデン・ラボと Second Life の歴史を辿りながら、Second Life における多様な成功例だけでなく、それが陥りがちな囚人のジレンマ、つまり「多数の意向を反映したいという動きはそっぽを向かれ、何か新しいシステムを作ると想定外の使い方を一部ユーザにされてしまう(95ページ)」の難しさまで的確にとらえた本であるだけにいささか気の毒に思えます。
「セカンドライフが今後も成功するかはわからないが、この仮想世界が創りあげたコミュニティには、今後10年を占うヒントが隠されている」という著者のスタンスにはワタシも同意しますし、ああした試みはいずれ大きなビジネスになるとずっと考えているのですが、ただ最近は「ああした試み」というざっくりとしたくくりを再検討しないといけないなとも思っています。
それを意識したのは、「湯川鶴章のIT潮流」における清水亮氏のインタビューです。ここで清水氏は拡張現実(AR、Augmented Reality)の面白さについて語っていて、その中で「セカンドライフに対するアンチテーゼ」という表現が出てきますが、このインタビューを聞いて、確かに自分は本来対となる概念である Augmented Reality(拡張現実)と Virtual Reality(仮想現実)を区別せず大ざっぱにひとくくりに考えていたと反省しました。
さて、先週はサンフランシスコで開催された TechCrunch50 Conference が話題を集めました。昨年の TechCrunch40 では日本からの参加者がなく残念に思ったものですが、今回は三社が参加し、特に tonchidot が開発した Sekai Camera(セカイカメラ)は、相当に受けていたようです。
まだ Sekai Camera のことを知らない方がいましたら、まずは以下のデモ動画をご覧ください。
YouTube には TechCrunch50 での質疑応答など Sekai Camera に関する動画がいくつかあがってますが、この質疑応答がちょっとアレだったため技術的な根拠に疑念をもたれてしまっているのは残念です。tonchidot の CEO である井口尊仁氏のブログによると当分は取材は不可能とのことで、当事者からそのあたりについて解説がなされることはなさそうです。とりあえずは Sekai Camera が無事にベータ公開される日を待ちましょう。
「電脳コイル現実版」とでも言うべき Sekai Camera が実現すれば、清水氏が語る「広告媒体としてのAR」が一気に現実味を帯びます。松尾公也氏に指摘いただくまで自分でも忘れていたのですが(笑)、Android でも Enkin という電脳メガネアプリケーションが開発されていることを考えると、これからモバイル機器の製品コンセプトに AR の要素がより強く加わってくるように思えます。
また Android つながりではないですが、AR という切り口で考えると、Google ストリートビューの可能性も見えてきます。ストリートビューに対しては批判もあり、ワタシ自身問題点を指摘していますが、一方でストリートビューについて、「こんなものがあっても何の意味も利益もない」とその存在意義を否定するような声には同意するつもりはありません(個人的には、エンジニアともあろうものがそういうケツの穴の小さいことを言うのは信じられません)。ストリートビュー機能が Google マップにとって拡張現実装置の役割を果たすことで、Google の広告ビジネスの枠を広げる力を持ち得そうです。
あと以前はてなに押しかけたときに、近藤淳也さんにはてなワールドについてコメントさせてもらいましたが、自分が言いたかったのは、「はてなワールドは一種の VR サービスだが、折角 Google マップを利用しているのだから、他サービスの蓄積を AR 的に利用してユーザのコミュニケーションの契機に結びつけるべき」ということだったんだと思ったりしました。
前述の通り、ワタシ自身は Second Life に代表される没入型の VR サービスにもビジネスの可能性があると考えていますが、広告ビジネスと結びつくことで地歩を固めるのは AR のほうが先かもしれません。
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