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yomoyomoの「情報共有の未来」

内外の最新動向をチェックしながら、情報共有によるコンテンツの未来を探る。

Googleの偉大さと傲慢さ(後編)

2008年8月21日

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三年以上前になりますが、とある技術系セミナーで当時注目を集めていた(現在も、ですが)ベンチャー企業の日本法人の方の講演を聞いたことがあります。優秀なネットアプリケーションを提供するそのベンチャー企業は、当時 Google に買収されるのではという噂がありました。

講演者はその噂について触れ、続けてその年の年頭の挨拶で創業者が語った言葉を引き合いに出しました。

Don't be arrogant like Google.

つまり、Google には買収されないのではないかと講演者はほのめかしたわけですが、実際そのベンチャー企業はその年 Google でなく別の大手ネット企業に買収されました。

そのくだりでは周りにつられてワタシも笑ってしまいましたが、正直当時は Google を「傲慢」と表現することがピンときませんでした。Google の「中の人」の顔があまり見えなかったためです。

しかし、最近では Google 社員による明らかに不用意な発言が目立ちます。

ストリートビュー関係では、「Google幹部の自宅をプライバシー保護団体がさらしものに」という記事で紹介されている「現代の衛星画像技術では、現代の砂漠においてさえも完全なプライバシーは存在しない」という主張があります。

その主張自体は正論でしょう。しかしこれは GSV の撮影車が(公道でなく)私道に乗り入れて撮影を行なったことを巡る裁判に関するものであり、また私道への侵入を認めていることを考えれば、そこでこの主張はどうよ? と首を傾げてしまいます。

また高木浩光氏による通信プラットフォーム研究会の傍聴録における、

日本のプライバシーに対する感覚は、アメリカ、イギリスとでは違うのではないか。日本では、マンションとかはまた違うかもしれないが、一戸建てでは名前を表札に書いている。名前まで。わざわざ自分の名前を公道に出しているわけだから、プライバシーなんて気にしていない。

という Google 日本法人の藤田一夫氏の発言は、(これ自体 GSV について語っているわけでないのに注意しなければなりませんが)高木浩光氏同様「ずいぶんとナめられたものだな」と感じずにはいられません。

Google は「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」を使命にしています。また Google には "Don't be Evil" という有名なモットーもあります。

当方の杞憂であればよいのですが、上記の Google 社員による不用意な発言を読むにつけ、「世界中の情報を整理して検索できるようにする」という使命に忠実であり、それを強力に推進すれば、自ずと "Don't be Evil" も満たされると思い違いしているのではないかと不安になります。

「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにすること」自体が善なのではありません。その情報の取得の仕方、アクセス提供の仕方によって社会悪にもなりえるでしょう。

こうしてみると「悪の帝国」として Google がなしえることを思えば、マイクロソフトの過去の「悪の帝国」ぶりなど可愛いものだと愕然とします。

思えば上に挙げた某ベンチャー企業の創業者はスウェーデン人なので、その言葉には汎ヨーロッパ的アメリカ人観が含まれていたのかもしれません。そこでワタシが思い出すのは、新山祐介氏の以下の文章です。

考えてみれば、google 自体、アメリカ人の嫌われ者ぶりを凝縮したような会社である。気前がよくてフレンドリーで、うすっぺらい善意に満ちているが、考えが浅く、無神経で、パワーさえあれば世界中の問題は解決できると信じており、なぜ自分が嫌われているのかまったくわかっていない、という典型的なタイプ。

Google は紛れもなく偉大な仕事をなしており、正に「世界を変える」力を持った稀有な企業です。だからこそ、Google は自身が強大な力を持っていること、そして彼らが忌む「邪悪」が絵に描いたような悪党の悪巧みからではなく、そうした力を持つ者たちの高慢や独善から導かれることが多いことにもっと自覚的であってほしい。

GSV についての記事ではありませんが、Fortune の最新号に Google's motto should be 'don't be arrogant' という記事が掲載されたのは偶然ではないとワタシは考えます。

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プロフィール

1973年生まれ。 ウェブサイトにおいて雑文書き、翻訳者として活動中。その鋭い視点での良質な論評に定評がある。訳書に『デジタル音楽の行方』、『Wiki Way』、『ウェブログ・ハンドブック』がある。

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