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山路達也の「エコ技術研究者に訊く」

地球と我々の未来の行方を左右するかもしれない、環境系技術研究の現場を訪ねる。

赤道直下に花開く、環境空中都市「GREEN FLOAT」(2)

2010年11月26日

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都市建設に必要な技術はすでに揃っている

──GREEN FLOATを実現するための課題について教えてください。

課題は大きく3つの分野に分かれると思っています。1つは「都市・建築」、もう1つは「環境」、最後が「経済・社会」です。

GREEN FLOAT建設の候補地は赤道直下、しかも固定型ではなく浮遊型ですから、国際法やさまざまな権利関係が絡んできます。これまでになかったものですから、いきなりこれらの課題を解決するのは難しいでしょう。ですから、まずは産官学連携で技術開発を進めていきます。人類を月に送り込んだアポロ計画にしても、月面着陸に成功してから、月の土地利用についてルールが議論されるようになったわけですからね。

技術的な課題のうち、「都市・建築」については当社が一番得意とする分野で、採算性を無視すれば技術的にはほとんど実現できることがわかっています。

──海上で地盤を作り、さらにその上に超高層の建造物を作ることはできるのでしょうか?

従来は左のように高い位置で施行を行った。GREEN FLOATでは、地上部で施行し、あとから引き上げる。

当社では、30年前からコンクリートセルを接合したメガフロートに取り組んできました。海中トンネルの場合、コンクリートでできたトンネルのパーツを地上でつなぎ合わせ、それを海中に沈めて作ります。こうした技術はすでに確立されています。問題は、それを海上の船の上で効率的に作れるかどうかです。作れることはわかっていますが、揺れる船上で作って採算がとれるかどうかの検討はまだこれからということになります。

高層建築にしても、従来は数百m以上の高さで施工する必要がありました。GREEN FLOATでは、地上部の構造体を海中に下ろしていきます。そして、構造体が出来上がったところで、下部に浮力をかけて構造体を最終的な位置に引き上げるのです。施工は常に地上部で行うことができ、人とモノの移動を最小化できますが、この工法についても採算の検討を行う必要があります。

──構造体の材料は何でしょう?

構造体の材料としては、マグネシウム合金を想定しています。マグネシウムは海水中に豊富に含まれているため、材料を他から輸送してくるのではなく、現地で調達して地産地消することが可能になります。ただ、海上で効率的に製錬することがネックになりそうです。

──この連載でも紹介しましたが、東京工業大学の矢部孝教授が太陽光励起レーザーによる、マグネシウム製錬を研究しています。

レーザーによって海水からマグネシウムや水を簡単に作れるという本を読みました。そうした手法が有効な可能性もありますから、お話をうかがいたいですね。

──高さ1000mにもなる構造体の強度は十分なのでしょうか?

強靱なマグネシウム合金を開発している先生もいらっしゃいます。私たちのチームが想定していたより十分な強度がありますから、構造体の材料としては問題ありません。ただ、現在は百数十度で強度が落ちるという欠点があるため、鉄鋼よりも耐火機構を工夫する必要はありそうです。

──「環境」分野の課題についてはいかがでしょう?

当社も環境については取り組んでおり、オフィスのシュレッダー紙ゴミからメタノールや電気を取り出す実証実験をNEDOの補助金で進めています。自然の落ち葉は地面に落ちたら自動的に分解されて養分になりますが、このようにゴミがその場で役立つものに変わるシステムを目指しています。ただ、採算性の検討はまだまだこれからです。

しかし、当社だけで実現できる環境技術はけして多くありません。他の企業や研究機関にも広くご協力いただく必要があります。例えば「土」です。植物が育つためには土壌が必要ですが、単純に土を盛っておけばいいというものではないのです。土壌の構造は複雑で、途中にはねじれたようになった部分もあったりする。もろちん、火星に作るわけではないので、最初の土壌は別の場所から運んでくることになりますが、その後のメンテナンスをどうしていくのかなど、課題はたくさんあります。

その一方、難しそうだと思っていたのに、比較的簡単に解決できそうな課題もありました。海上都市の農場では、どうしても塩分が飛んできますから、こうした塩害をどうすればいいのか心配していたのですが、これについては最近の生態系やバイオ技術で解決できそうです。

──理化学研究所 仁科加速器研究センターの生物照射チームは、重イオンビームを照射して突然変異を誘発することで、耐塩性の高いイネを作ることに成功したそうです。

こうした技術は当たり前になりつつありますね。

植物工場にしても、日本でやろうとすると密閉型になりますが、赤道直下ならば外光も取り入れるタイプになります。後者は技術的に可能であることはほぼわかってきています。ただし、1年の間に野菜を何毛作できるかといった検討はこれからですね。

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プロフィール

1970年生まれ。雑誌編集者を経て、フリーの編集者・ライターとして独立。ネットカルチャー・IT・環境系解説記事などで活動中。『進化するケータイの科学』、『弾言』(小飼弾氏との共著、アスペクト)、『マグネシウム文明論』(矢部孝教授との共著、PHP新書)など。ブログは、こちら

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