オーランチオキトリウムが、日本を産油国にする(4)
2011年2月25日
バイオ燃料でエネルギーが無尽蔵の世界を実現する
──実用化の課題としては、どのようなものがありますか?
バイオ燃料を実用化するための舞台は、生産、収穫、抽出という3つのステージに分かれます。
生産での難関は「攪拌」(かくはん)、つまり藻を培養槽の中でかき混ぜることです。下手すると、全工程の半分以上のエネルギーが攪拌に費やされますから、ここでのエネルギー消費をいかに抑えるかが課題になります。
次の収穫も全工程の20〜40%のコストを消費すると言われています。凝集沈殿、遠心分離、フィルターなど、さまざまな手法がありますが、まだ実験室レベルでしか検証されていません。凝集沈殿なら投入した凝集剤をどう回収するか、遠心分離はエネルギーをどう抑えるか、フィルターはコストをどう下げるか。
最後の抽出にしても、実験室のように溶媒を使って単純に抽出するというわけにはいきません。溶媒を回収する必要があります。藻を乾燥させてオイルを抽出するとなると、そのためのエネルギーコストもかかります。
この辺りの技術開発を行うのは大学では無理ですから、産業界の協力が必要になります。
──こうした実用化の課題には、どの研究機関や企業も直面しているわけですね。アメリカでは、バイオ燃料のベンチャー企業に莫大な投資が行われて実用化を進めています。
昨年、アメリカのエネルギー省は"National Algal Biofuels Technology Roadmap"を発表しました。これは、さまざまな分野の学者を集めてワークショップを開催し、その議論をまとめたものです。とてもレベルの高い資料ですが、残念ながら日本ではこういうものを作ろうともしていません。
オーランチオキトリウムという、素晴らしい役者が登場したわけですから、きちんと脚本を練って、舞台を作っていかなければなりません。そういう取り組みをしないとどうなると思いますか?
──中国やアメリカが買いに来る?
そう、大事な技術やノウハウが海外に流出してしまいます。
──アメリカは新しい技術に対する投資の仕方が大胆ですよね。100のベンチャーにまとめて投資して、そのうち1つが大成功すればいいという。
そういうやり方でいいんです。世界で消費されている原油が50億トン、1リットル当たり50円としたら、250兆円の市場がすでに存在するわけです。バイオ燃料は、ものすごくリターンの大きい世界なんですよ。
それは日本が産油国になるということだけではありません。世界のパワーバランスすら変える可能性を秘めています。
──エネルギー資源が特定の地域、国に偏るのではなく、遍在するということですね。
そういうことです。技術さえあれば、誰もがエネルギーを手に入れられるようになります。
私は、エネルギーが潤沢になることで、世界が抱える問題のかなりの部分を解決できるのではないかと考えています。人類をエネルギー資源の制約から解放する、これこそが、全人類が待ち望んでいるイノベーションではないでしょうか?
研究者プロフィール
渡邉 信(わたなべ まこと)
筑波大学大学院生命環境科学研究科・教授。
・北海道大学大学院理学研究科博士課程修了。理学博士。
・専門分野は環境藻類学。
・国立環境研究所研究員、主任研究員、室長、部長、領域長を経て、現職。現在、国際藻類学会会長。
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