超低消費電力を実現できるか? 「板バネ」ナノマシンコンピュータ(2)
2011年3月24日
──別の論理演算も1つの素子で行えるのでしょうか?
入力信号以外に、基準信号を常時与えることで可能になります。この時、基準信号ƒ1、ƒ2と入力信号のƒA、ƒBが、「ƒ2 - ƒ1 = ƒB - ƒA」という関係になるようにしておくことがポイントです。そして、A and Bを「ƒB - (ƒA - ƒ2)」、A or Bを「ƒB - ƒ2 = ƒA - ƒ1」とすれば、入力AとBに対して、演算結果「A and B」と「A or B」を同時に得ることができます。入力信号と基準信号の差を取って、次々と新しい周波数を生み出しているわけです。
──ANDとORの演算結果が、異なる周波数の振動が混じった状態で表現されるということなんですね。もっと複雑な演算も行えるのでしょうか?
3つの入力A、B、Cに対して、多数決演算(2つ以上が0だと出力も0、それ以外は1)、A or (B and C)という演算の出力を同時に得ることができました。トランジスタを使った論理回路の場合、それぞれの演算に対して4個から6個のトランジスタが必要になります。一方、私たちの板バネ素子は1個で複数演算の結果を同時に得ることができるのです。
──どんな論理回路も1個の素子でできますか?
どのような論理回路もできるという完全性の証明はまだできておらず、理論の検討を進めているところです。
──1つの素子でできなくても、トランジスタと同じようにAND、OR、NOTを組み合わせれば実現はできますよね。
その通りですが、私たちはもう少し先のことを考えています。
現在主流の64ビットCPUでは、64個の(0か1かの)情報を入力して64個の情報を取り出しています。私たちも64個の異なる信号を1つの素子に入力したら、64個の任意の演算結果を取り出せるようにしたいと考えています。最初から64個は無理にしても、8つの演算結果を同時に取り出せるようになれば、非常に面白いことになるでしょう。1つの素子だけで、たくさんの素子をつなげたのと同じ効果が得られます。
とはいっても、まだアイデア段階で、今後どれだけ発展させられるかは正直わかりません。先ほども述べたように、1つの素子でどんな論理演算もできるのかどうかを検討する必要がありますし、入力信号が増えた時の動作も研究しなければなりません。入力信号が増えると周波数の間隔が狭まりますね。隣り合った周波数を識別するのに時間がかかったら、全体の計算速度が遅くなって並列演算のメリットが薄れてしまいます。
ナノマシンコンピュータはまだ提案段階の技術ですから、私たちの手法を検討すると同時に、他の手法についても調べていく必要があるでしょう。
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