世界は、石油文明からマグネシウム文明へ(1)
2009年7月 3日
「世界は、石油文明からマグネシウム文明へ」で紹介した、東京工業大学 矢部孝教授の研究が『マグネシウム文明論』としてPHP新書より発売されました(目次はこちら)。本書では、マグネシウム循環社会へのロードマップや温室効果ガス削減の試算も紹介しています。
(これまでの 山路達也の「エコ技術者に訊く」はこちら)
マグネシウムを燃やして、エネルギー源にする
──次世代エネルギーとして、マグネシウムを用いる研究を進めているとお聞きしました。マグネシウムがよく燃えるのは知られていますが、なぜ今までエネルギー源として使われてこなかったのでしょうか?
ほとんどの金属は粉末にすればよく燃えて、燃料として使うことができます。昔から、金属燃料エンジンの研究はどの自動車会社もやってきていますし、実際にマグネシウムを配合したロケット燃料も作られています。
では、なぜマグネシウムが一般的なエネルギー源として使われていないかといえば、マグネシウムを作るのに莫大なエネルギーをかけなければならないからです。触媒を使う今までの技術だと、マグネシウム1トンを作るために石炭が10トンも必要になります。石炭の発熱量が30MJ/kg、マグネシウムは25.5MJ/kgとほぼ同じ。これでは誰もマグネシウムをエネルギー源に使うはずがありません。
それならば、自然エネルギー、例えば太陽光を集める太陽炉を使って酸化マグネシウムや塩化マグネシウムからマグネシウムを直接精錬してはどうかということになるわけですが、これも困難でした。酸化マグネシウムからマグネシウムを精錬するには2万℃という超高温に相当するエネルギーが必要で、仮に太陽光を集めてそれだけの温度にできたとしても、炉が耐えられません。製鉄炉の耐熱温度が千数百℃ですから。
マグネシウムをエネルギー源にできるなど、誰も考えていなかったのです。
太陽光を直接レーザーに変換する「太陽光励起レーザー」
──それなのに、なぜマグネシウムをエネルギー源にできると思われたのですか?
きっかけになったのは、7年前です。私は30年以上レーザー核融合を研究しているのですが、それを応用して、飛行機を飛ばす実験を行いました。
──レーザー核融合と飛行機にどういう関係があるのでしょうか?
レーザー核融合では、レーザーを使って数千万度の超高温を作り出します。レーザーがすごいのは、時間的にも空間的にもエネルギーを集中できるということ。つまり、少ないエネルギーであっても、一瞬だけ一点に集中させることで、大きな効果を得ることができるのです。私たちは、長さ5cmくらいの小さな模型飛行機に水タンクを載せ、外からレーザーを照射しました。水は一瞬で水蒸気に変わって飛行機の後方へ吹き出し、その反作用で飛行機が進みます。つまり、水蒸気ロケットができたということになります。この実験で使用したレーザーの出力はたったの5W。5Wなんて懐中電灯並みですが、レーザーにすれば模型飛行機を飛ばすこともできるのです。
では、人が乗れるような飛行機を飛ばすには、どれだけの出力を持ったレーザーがあればよいのか。計算してみたところ、1GW(1ギガワット=100万キロワット)という答えが出ました。これは大規模発電所の出力に相当しますから、こんなレーザーを電気で作ることはできません。
どうしたらよいかと考えた時に思い当たったのが、太陽光をそのままレーザーに変換する、太陽光励起レーザーです。1995年、我々のグループの一人、吉田國雄特任教授がクロムとネオジムからレーザー媒質を開発していました。日本のある会社はこれをさらに改良し、2005年には効率が42%のレーザー媒質を作ることに成功しました。太陽光をこのレーザー媒質に当てると、レーザー光線が出ます。
──このレーザー媒質は大量生産できるのですか?
クロムとネオジムを混ぜて焼き固めるだけですから、大量生産するのは簡単です。
ただ、レーザーで飛行機を飛ばすといっても、そんな実験にはどこもお金を出してくれないので、別の応用を考えました。それが次世代エネルギー、レーザーによる酸化マグネシウムの還元だったのです。もっとも、今ではこちらが本命になってしまいましたが(笑)。
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山路達也の「エコ技術研究者に訊く」
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