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山路達也の「エコ技術研究者に訊く」

地球と我々の未来の行方を左右するかもしれない、環境系技術研究の現場を訪ねる。

オーランチオキトリウムが、日本を産油国にする(3)

2011年2月25日

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有機排水をエサとして、オイルを生産する

──オイル生産効率の高いオーランチオキトリウムが採取されたことで、バイオ燃料の研究も一気に弾みが付きそうですね。生産効率やコストはどれくらいでしょう? 光合成する藻類とは培養の仕方もまったく変わってくると思いますが。

その辺の話は、まだ先の段階ですね。光合成の藻類を使うにせよ従属栄養藻類にせよ、まだ研究室レベルのデータを元に推測しているに過ぎず、実規模でのデータがないのです。

これまではどんなにラフに計算をしたとしても、コスト的に絶対に実用化できませんでした。そこに高い潜在能力を持ったオーランチオキトリウムが見つかり、実用化できる可能性が見えてきたということです。

芝居を上演するためには、役者、舞台、脚本が必要です。これまでは役者が揃っていなかったけれども、ようやくスターになりうる素晴らしい役者が見つかった。こんなに素晴らしい役者がいるのだから舞台作りにみなさん投資してください、というのが今の段階です。

日本には優れた技術がありますから、頑張れば舞台を作っていけるでしょう。そのためにも採算が取れる仕組みをどう作るのか、という脚本作りが重要になってきます。

──どういう脚本を考えられているのでしょう? 光合成するボトリオコッカスと、従属栄養のオーランチオキトリウムを組み合わせたりするんでしょうか?

まず、この世界にある有機物がどうやって作られたかを考えてみましょう。それらは植物の光合成により、二酸化炭素と太陽光、水、無機塩類から作られました。そして、有機物が循環する過程では必ず人間が介在しています。その結果、有機物を含んだ排水、有機排水が家庭や工場から大量に出てきます。これをオーランチオキトリウムのエサとして利用しようというのが、私の考えです。

現在、下水等の有機排水を処理するためには、最初に固形物を沈殿させ、その後の一次処理水に活性汚泥というバクテリアの塊を投入しています。一次処理水には有機物が多く含まれていますから、活性汚泥の代わりにオーランチオキトリウムを投入すれば、オーランチオキトリウムが排水中の有機物をエサとして炭化水素を作ることになります。

オーランチオキトリウムが処理した後の二次処理水には、窒素とリンが大量に残っていますから、この二次処理水にボトリオコッカスを投入し、やはり炭化水素を作らせます。

炭化水素を抽出した後のオーランチオキトリウムやボトリオコッカスは、動物の飼料やメタン発酵に利用できるでしょう。

渡辺教授が提唱している、排水処理とオイル産生のシステム。オーランチオキトリウムとボトリオコッカスを組み合わせている。

──オーランチオキトリウムはどんな有機物でも分解できるんでしょうか?

オーランチオキトリウムには、セルロースを分解して増殖するものもいます。今後は、こうしたエサの多様性を探る基礎研究も進めていかなければなりません。排水の処理過程でできてくる余剰活性汚泥は少なく見積もっても4億トン以上ありますが、現在は燃やして灰にしコンクリートにまぜて使っています。

──有機排水を利用できれば理想的ですね!

これは特段新しい発想というわけではないんですよ。水処理プロセスに藻類生産を組み込んで統合すべきという考えは、10年以上前にアメリカのエネルギー省の報告書で提案されています。この分野に関して日本はあまりにも出遅れています。

──藻はどのように培養するのでしょう?

光合成をしないオーランチオキトリウムの場合は、地下に閉鎖系の培養環境を作るのがよいでしょう。地下なら冬場でも15〜20℃くらいで水温は安定しており、15℃なら6時間、20℃なら4時間で倍に増えます。オーランチオキトリウムには光を当てる必要がないため、広い面積が必要ありません。工場のすぐ横にオーランチオキトリウムの培養タンクを設置して、工場の排熱を利用するといった方法も使えそうです。現在、発酵微生物で使われているノウハウや設備をそのまま流用できますから、研究は加速度的に進むのではないでしょうか。

光合成するボトリオコッカスの場合は、休耕田のような開放系で培養するか、人工的に光を当てる閉鎖系で培養することになります。開放系はコストが少なくて済むというメリットの反面、他の微生物が混入するなど環境制御が難しいという問題点があります。一方の閉鎖系は、環境制御が簡単ですがコストがかかります。開放系のデメリットは、特殊な環境で生きるように藻を品種改良することで解決できるかもしれません。例えば、塩分濃度が海水の2倍という環境で生きられるようにすれば、他の微生物の混入を防げるでしょう。閉鎖系に関しても、使い捨てのソフトプラスチックバッグを使ってコストを下げる方法が研究されています。

ボトリオコッカスに関して言うと、開放系の可能性を試してみたいですね。実は、自然界でボトリオコッカスが大量発生することがあるのです。このメカニズムを解明できれば、休耕田を使って低コストでボトリオコッカスを培養できるかもしれません。

300リットルの培養槽で、ボトリオコッカスを培養しているところ。


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プロフィール

1970年生まれ。雑誌編集者を経て、フリーの編集者・ライターとして独立。ネットカルチャー・IT・環境系解説記事などで活動中。『進化するケータイの科学』、『弾言』(小飼弾氏との共著、アスペクト)、『マグネシウム文明論』(矢部孝教授との共著、PHP新書)など。ブログは、こちら

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