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高森郁哉の「ArtとTechの明日が見たい」

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エメリッヒ監督『2012』:「マヤの終末予言」を最新VFXで映画化

2009年10月30日

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[ストーリー]
イエローストーン国立公園。子供たちとキャンプに訪れたジャクソン(ジョン・キューザック)は、謎の男チャーリー(ウディ・ハレルソン)から“地球の滅亡”が訪れることを知らされる。さらに、その事実を世間に隠している各国政府は、密かに巨大船を製造し限られた人間だけを脱出させる準備に着手しているという。初めは信じなかったジャクソンだったが、ロサンゼルスで史上最大規模の大地震が発生し…。そして、アメリカ全土へと拡大する、大地震、大津波、大噴火。別れた妻・ケイト(アマンダ・ピート)と二人の子供を守るため、ジャクソンは家族と共に巨大船がある地を目指す。しかし、彼ら一家を追うように、未曾有の大天災が次々と地球を呑み込んでいく――。

高度な天文学と数学の知識を持っていた古代マヤ人の暦は、2012年12月21日で終わっているという。これを根拠に、ニューエイジ思想家やオカルティスト、ジャーナリストなどによって「2012年人類滅亡説」が語られてきた。関連本も多数出ており、たとえば『ニューヨーク・タイムズ』紙に寄稿しているローレンス・E・ジョセフは著書『2012 地球大異変』(邦訳NHK出版)で、太陽活動が2012年に記録的なレベルで最盛期を迎えると予想されていること、地球地場の弱まりと地磁気変移(ポールシフト)の影響、太陽系が星間のエネルギー雲に入ったことで2010年~2020年の間に地球に大惨事が引き起こされると予測されていること、中国の易経やヒンドゥーの神学でも2012年の終末が予言されていることなどを挙げている。[WIRED VISIONの翻訳記事「強力な太陽嵐で2012年に大停電? 対抗策は」では、同書の著者へのインタビューを掲載している。]

こうした説から着想を得て、『インデペンデンス・デイ』(1996年)、『デイ・アフター・トゥモロー』(2004年)で“ディザスターの巨匠”と呼ばれるローランド・エメリッヒ監督が完成させた壮大なディザスター映画が、この『2012』だ。10月30日夜に新宿ミラノ1のマスコミ完成披露試写会で鑑賞できたが、これはまさしく巨大スクリーンで楽しむべき作品。地震による都市の破壊、火山の大噴火、山脈の向こうから押し寄せる津波など、スケールの大きな特撮映像はやはり映画館の眼前いっぱいに広がるスクリーンで観てこそ、まさにその場に居合わせて目撃しているかのようなスリルと興奮を味わえる。

特に迫力満点なのが、ジョン・キューザック演じる主人公が家族と共に乗ったリムジンで大地震のなか亀裂が入る道路を爆走させて、次々に崩落するビルや高速道路の高架をくぐり抜けていくシークエンスと、家族らが乗った双発のセスナ機で倒壊する高層ビルの間や火山からの噴出岩の雨をきわどく避けて飛行するシークエンス。ここまででようやく前半戦終了といった時間帯で、主人公たちが早々に命を落とすことはないと分かっていても、ビルや道路が崩れる様子を緻密に描写したCGのリアルさについ緊張し、手に汗握ってしまう。

視覚効果スーパーバイザーには『インデペンデンス・デイ』でアカデミー賞視覚効果賞を受賞したヴォルカー・エンジェルや、同作に参加したマーク・ウェイガートらが名を連ね、ソニー・ピクチャーズのグループ企業であるソニー・ピクチャーズ・イメージワークス(近年では『イーグル・アイ』『ウォッチメン』『くもりときどきミートボール』などを制作)をはじめ、デジタル・ドメイン、ダブル・ネガティブ、ハイドラックスなど有名どころのVFXスタジオから多数のスタッフが集結した。

後半に入ると、ロシア製の大型貨物機に乗り込んで「巨大船」の建造地へと飛行する場面と、大津波が迫るなか巨大船に乗り込んで生き残ろうとする人々のドラマが見どころとなる。ただ、先に書いたような前半の見せ場が比較的身近な規模で脱出を描くのに対し、後半では大型貨物機や十万人乗りの巨大船、ヒマラヤ山脈をも飲み込むような大津波など、スケールが大きすぎて逆に、我が身に迫ってくるような現実的な恐怖感や緊張感が薄れてしまった気がする(2時間38分という長尺で次々に繰り出されるディザスター場面に慣れてしまったのかも)。

また、一般人の側ではジョン・キューザック、政府側ではキウェテル・イジョフォー(大統領の科学顧問という役どころ)をそれぞれ中心にドラマが進むが、双方の筋の関係が弱く、これがもう少し後半で有機的に作用しあうように展開すればもっと盛り上がっただろう。

とはいえ、特撮やVFXが好きな人なら間違いなく満足できるだろうし、ハリウッドの定型から逸脱しない豪華な娯楽作品として家族連れでも問題なく楽しめる。なお、『トランスフォーマー/リベンジ』のマイケル・ベイ監督も、やはり2012年を題材にした『2012 The War for Souls』(『デイ・アフター・トゥモロー』の原作者であるホイットリー・ストリーバーが書いた小説が原作で、2010年公開予定)を準備しており、アクション超大作の二大巨匠による“2012年対決”という意味でも話題になることだろう。

余談だが、有力者や資産家たちが大災害に備えて密かに巨大船を建造する、という設定は全くの荒唐無稽な作り話というわけでもなさそうだ。先述の『2012 地球大異変』によると、「リチャード・ブランソン[ヴァージン・グループの会長]やポール・アレン[マイクロソフトの共同創業者]などの一連の人びとが宇宙港を築いているニューメキシコ南西部の土地からほど近いところに」、ヴァチカン宮殿、CIA、ネオファシスト、フリーメイソンが関わる組織があり、犯罪組織と国際銀行家からの資金を使って「土地を買収し、地下都市を建設し、特別な家畜と作物を育て」「選ばれた人びとを、二〇一二年一二月に地球が爆発する直前に脱出させられるようなモジュール式宇宙船を組み立てている」という。

本作の中でも、10億ユーロを払って巨大船に乗り込む権利を買う資産家として「ビル・ゲイツ」の名前が出てきたが、上で引用したような話をエメリッヒ監督らも見聞きし、アレンジを加えて脚本に取り入れたのかもしれない。

[作品情報]
『2012』 原題:2012
2009年アメリカ映画
監督・脚本・製作総指揮:ローランド・エメリッヒ
出演:ジョン・キューザック、アマンダ・ピート、ダニー・グローヴァー、ウディ・ハレルソンほか
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
11月21日(土) 丸の内ルーブル他全国ロードショー
公式サイト

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プロフィール

フリーランスのライター、翻訳者としての活動を経て、2010年3月、ウェブ・メディア・地域事業を手がける(株)コメディアの代表取締役に。多摩地域情報サイト「たまプレ!」編集長。ウェブ媒体などへの寄稿も映画評を中心に継続している。

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