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高森郁哉の「ArtとTechの明日が見たい」

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『DESNEY'S クリスマス・キャロル』:ゼメキス監督らしい大人向けファンタジー

2009年11月 6日

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© Disney Enterprises, Inc. All rights reserved.

[ストーリー]
 主人公のスクルージにとって、人生は金が全て。家族を持たず、人との絆に背を向け、ただ己の金銭欲を満たすためだけに生きる彼は、町一番の嫌われ者だ。あるクリスマス・イブの夜、かつてのビジネス・パートナーの亡霊が世にも恐ろしい姿で彼の前に現れ、「お前は3人の亡霊にとり憑かれるだろう」と予言する。それは、幸福な思い出とは無縁のスクルージにとってさえ、人生最悪のクリスマス・プレゼント──翌日から<過去の亡霊><現在の亡霊><未来の亡霊>が一夜ずつ現れ、スクルージを彼自身の過去・現在・未来をめぐる時間の旅へと連れ出す。そこで彼が目撃したのは、貧しく孤独な“過去”のスクルージ、富を手に入れる代わりに温かな心を失った“現在”のスクルージ…。そして、最後に導かれた“未来”で彼が見た、想像を絶する己の姿とは──?

原作はディケンズが19世紀半ばに発表した小説『クリスマス・キャロル』で、守銭奴で人嫌いの老人スクルージが霊たちの訪問を受け、自分の過去や未来を見せられることで人生の意義と価値を問い直すという物語。実に50回以上も映像化されたというこの名作を、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズや『フォレスト・ガンプ』で知られるロバート・ゼメキス監督が、最新のパフォーマンス・キャプチャー技術を使って映画化したのが本作だ(8月のフッテージ上映会のレポートでは、同技術の概要やCGアニメーションスタジオのImageMovers Digitalについて書いたので、興味のある方は併せてご覧いただきたい)。

さて、ようやく全編を3Dの試写で鑑賞できた本作、まずはタイトルロールで描き出される19世紀ロンドンの冬の街景に魅了される。カメラの視点はあたかも精霊になったかのように、街を上空から俯瞰し、あるいは街ゆく人と同じ目線の高さまで降りて、自由自在に飛び回り、狭いすき間や小さな穴さえも難なくくぐり抜けてゆく。しかもこのシークエンスは実写で言うところの「長回し」のワンカットになっていて、デジタル制作のアニメ作品では実写ほどの撮影時の苦労はないにせよ、ロンドン市街全体の構造物や馬車、人物など、この場面だけでも膨大な規模の3Dモデリングが敢行されたことが容易にうかがえる。

空中飛行といえば、3人の亡霊に伴われてスクルージが空を高速飛行する場面も、3D映像らしい魅力にあふれ、高揚感と爽快感が楽しめた(原作の時間旅行のアイディアが、本作では飛行シーンで表現されている)。宮崎駿監督のジブリ映画の例を挙げるまでもなく、ファンタジー作品において空中飛行は解放と自由、夢の実現を象徴するモチーフとして多用されるが、本作では観客が3D映像に入り込むような体験によってそうした感覚が一層強調されることになる。

ただし、飛行の高揚感は恐怖の感覚と表裏一体で、スピードや高所が苦手な人ならそのリアルな映像に怖くなってしまうかもしれない。また飛行に限らず、亡霊が登場するシーンの演出など、幼い子供が見たら本気で怖がりそうなホラー要素がふんだんにあるので、家族連れで鑑賞する予定なら一応留意しておくほうがいいだろう。

思えば、『永遠に美しく…』ではコメディの作風で笑わせながらときどきグロテスクな表現でぎょっとさせ、『ホワット・ライズ・ビニース』では本格的なサスペンス・ホラーで観客を怖がらせたゼメキス監督。前作『ベオウルフ/呪われし勇者』にも残酷な描写が含まれていた。自ら立ち上げたImageMoversがディズニーの子会社になり、ディズニー配給でクリスマスものを作るという状況でも、お子様向けの甘ったるい作品にせずダークな要素も盛り沢山のファンタジーに仕上げた点はゼメキス監督らしいと思うし、この内容でOKを出したディズニーの度量の広さも評価したい。

なお本作は上映館により、3D日本語吹替版のほか、IMAX 3D版、2Dの字幕版/吹替版から選べる。可能であれば、スクルージじいさんと一緒に空を飛ぶ感覚をぜひ3Dで満喫していただきたい。

[『DESNEY'S クリスマス・キャロル』作品情報]
原題 A Christmas Carol
原作:チャールズ・ディケンズ『クリスマス・キャロル』
監督/脚本/製作:ロバート・ゼメキス
出演:ジム・キャリー、ゲイリー・オールドマン、コリン・ファースほか
配給:ウォルト・ディズニー・ピクチャーズ・ジャパン
公式サイト:http://www.movies.co.jp/
(c) Disney Enterprises, Inc. All rights reserved.
一部劇場にてディズニーデジタル3D同時公開
2009年11月14日(土)より全国ロードショー

[以下のインタビュー動画では、ジム・キャリーが少しだけ「顔芸」を披露している。CGの力を借りずとも、表情と身体表現だけでたちまちスクルージに変身するのは見事。]


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プロフィール

フリーランスのライター、翻訳者としての活動を経て、2010年3月、ウェブ・メディア・地域事業を手がける(株)コメディアの代表取締役に。多摩地域情報サイト「たまプレ!」編集長。ウェブ媒体などへの寄稿も映画評を中心に継続している。

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