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高森郁哉の「ArtとTechの明日が見たい」

アートと技術、オーディオビジュアル、メディアをめぐる話題をピックアップ

TIFFレポート(2):『天使の恋』など3作品短評

2009年10月23日

(1から続く)

Ten_Winters.jpg『テン・ウィンターズ』
原題:Dieci Inverni
2009年 イタリア=ロシア
コンペティション部門

1999年の冬にヴェネチアで出会った若い男女の10年にわたる関係の経緯を、冬の場面だけ切り取ってつないだストーリー。1999年冬から2009年冬までの話だから11回の冬(イレブン・ウィンターズ)では?――という素朴な疑問はさておき、省略された期間の出来事を観客に想像させつつ進める語り口はなかなか。互いを意識しながら、優柔不断だったり、身勝手だったり、気持ちのすれ違いがあったりして、友達以上恋人未満の状態が続いていく。少し前にネットで流行った言い回しを借用すると、「ストーカー行為から生まれる恋もある(ただしイケメンに限る)」的な冒頭の展開は困ったものだが、それ以降の各場面で描かれる男女の揺れ動く想いはさまざまなパターンがあり、誰でもおそらく少なくとも1つくらいは自分の経験と重ね合わせて共感できるのではないか。舞台は冬のヴェネチアとレニングラードということで、映像のトーンは全体的に渋め。ストリングスのBGMが印象的で、大仰なアンサンブルも少しあったが、ピチカートの生々しい録音など聴きどころも多い。
[作品情報]


Rabia.jpg『激情』
©Telecinco Cinema S.A.U, Producciones Rabia LTDA, Think Studio S.L
原題:Rabia
2009年 スペイン=コロンビア
コンペティション部門

監督はセバスチャン・コルデロ。プロデュースは『パンズ・ラビリンス』を監督したギレルモ・デル・トロで、同じくデル・トロ製作の『永遠のこどもたち』と同様、一軒の屋敷を舞台にしたサスペンスフルな作品。ただし本作はファンタジーもオカルトもなく、移民の建設作業員が殺人を犯した末に、ガールフレンドが住み込みで働く古い屋敷の屋根裏部屋に隠れて暮らすという話をリアルに描く。狭い場所で登場人物もごく少ないままストーリーが展開するが、建物の縦の構造をうまく活かして重苦しいサスペンスを維持させる演出力はさすが。音楽と環境音も極めて緻密にコントロールされていて、不安感をあおる重要な役割を果たしている。
[作品情報]


tenshinokoi.jpg『天使の恋』
©2009「天使の恋」製作委員会
2009年 日本
特別招待作品

ケータイ小説が原作で、寒竹ゆり監督にとって初の長編映画、現役モデルの佐々木希も映画初主演(過去の映画出演は『ハンサム★スーツ』1作のみ)といった事前情報から不安を抱いていたものの、予想以上に手堅く丁寧に作られていて感心した。いじめ、トラウマ、援助交際、レイプ、中絶、難病、自殺といった具合に、ケータイ小説で定番の要素がお約束のように盛り込まれているが、監督が自ら手がけた脚本のおかげか、観客を置き去りにするようなあり得ない展開もなく(いや、少しはあるか)、無理なくストーリーが流れていく。高校生を演じる若手女優たちの演技と台詞回しもそこそこ自然で悪くない。ただ、彼女たちより経験豊富なはずの酒井若菜が浮いていたのは、年下の新人監督が遠慮して十分に演出できなかったからだろうか。若い世代の共感を集めるであろう感動作で、それより上の世代もケータイ小説原作映画に対する認識を改めるのでは。

配給:ギャガ
11月7日(土)より新宿バルト9ほか全国ロードショー
[公式サイト]

(以下はTIFFでの『天使の恋』舞台挨拶の模様。)


第22回東京国際映画祭 公式サイト

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プロフィール

フリーランスのライター、翻訳者としての活動を経て、2010年3月、ウェブ・メディア・地域事業を手がける(株)コメディアの代表取締役に。多摩地域情報サイト「たまプレ!」編集長。ウェブ媒体などへの寄稿も映画評を中心に継続している。

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