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藤井敏彦の「CSRの本質」

企業の社会的責任(CSR)とは何なのか。欧米と日本を比較しつつ、その本質を問う。

洞爺湖サミットはCSRを変えるか?その1

2008年1月28日

(これまでの 藤井敏彦の「CSRの本質」はこちら)

〜2008年のCSRはこうなる!(3)〜

 先週は更新を怠り読者の皆様には申し訳ありませんでした。半死半生、気絶寸前まで仕事に追われておりました。

 さて、新春スペシャル3回目の今日は洞爺湖G8サミットです。実はサミットには縁が深く、留学から戻ってきたワタシに与えられた最初の仕事が1994年のナポリサミットでした。国際的な仕事がしたいと思って入省したので、喜び勇んで仕事していたことを覚えています。若くて体力があって悩みがなかった(笑)。

 それはともかく、昨年最後の回でCSRとは企業の公共政策だと申し上げましたよね。公共政策の要請をどこまでプライベートな存在である企業が引き受けるのか、煎じ詰めればそういう問いだと。

 したがって、CSRを考える上で主要先進国サミットは欠かせないアイテムです。なぜならば主要先進国サミットは、公共政策の世界的アジェンダセッティングの最先端だからです。今後の国際的公共政策の方向性を占う上で格好の水晶玉の役割を果たします。かつ、そこでは我々日本が主要なプレイヤーであります。

 サミットは「コミュニケ」他いくつかの文書を採択します。おそらく実際に目を通す方は稀にしかいらっしゃらないかと思います。ま、確かに読んで楽しいかと言われればそうでもないかもしれない。ただ、実はこのコミュニケこそ今後の政策の方向性を示す大切なものです。

 ちょっと裏話を。コミュニケの原案はホスト国が作ります。原案は各国に諮られ、シェルパと呼ばれる首脳の個人代表の間を何度も行き来しつつ成案がつくられていきます。情報がもれては大変なので神経を使う過程です。はじめて原案を見た若き日のワタシは、これがあのコミュニケかぁ、と感慨深い思いにかられたものです。いずれにせよ内容についてはホスト国の意向が尊重されます。

 1996年リヨンサミットの経済コミュニケの一節を見てみましょう。当然、原案はホスト国であるフランスが書いたものです。冒頭に注目してください。

「社会からの疎外を阻止し、これと闘う決意である。我々は、一つの仕事から別の仕事への移行を容易にすることにより、労働期間全体を通じて人々の雇用可能性を補強するための方法を明らかにしなければならない。」

12月17日の回にヨーロッパがCSRを生み出した背景として「社会的排除(ソーシャル・エクスクルージョン)」についてお話しました。実はこの我々にとってなじみの薄い言葉は既に1996年のサミットの宣言文に登場しているのです。

 一巡して次にフランスがサミットをホストしたのが2003年のエビアンサミットです。このサミットでCSRは明確な位置付けをされています。その一節です。

「企業の社会的責任:持続可能な開発のための世界首脳会議の成果を踏まえ、我々は企業の社会的及び環境面での責任を強化するための自主的努力を支持する。 」

 このようにフランスはサミットの宣言文を通じてCSRを訴えてきたことがわかります。サミットで出される諸文書を注意深く読んでみると行間から新しい政策のトレンドが読み取れることがあります。

 さて、今年のサミットのホスト国は日本です。当然のことながら文案は既に調整されつつあるはずです。さあ、どのような内容となるか、興味があるところです。当然日本の考え方ということもありますが、同時に世界的な潮流にも強く影響されます。ひとつは前々回とりあげた地球温暖化問題です。ただし、それだけではありません。地球温暖化と同様に大きな問題として取り上げられるであろうものが「開発」問題ではないかと思います。この点については次回考えてみたいと思いますが、CSR関係者の皆さんには是非サミットをレーダースクリーンに捕らえておいていただければと願っています。

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プロフィール

1964年生まれ。経済産業研究所コンサルティングフェロー。経済産業省通商機構部参事官。著書に「ヨーロッパのCSRと日本のCSR-何が違い、何を学ぶのか」、共著に「グローバルCSR調達」がある。

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