このサイトは、2011年6月まで http://wiredvision.jp/ で公開されていたWIRED VISIONのコンテンツをアーカイブとして公開しているサイトです。

藤井敏彦の「CSRの本質」

企業の社会的責任(CSR)とは何なのか。欧米と日本を比較しつつ、その本質を問う。

2008年のCSRはこうなる!(1)〜地球温暖化議論が加熱するときCSRに求められること〜

2008年1月 7日

(これまでの 藤井敏彦の「CSRの本質」はこちら

 新年明けましておめでとうございます。この1年が読者の皆様にとりまして素晴らしいものになりますように。そして日本のCSRが日本と世界の持続可能な発展に資するものとなりますように。ついでにワタシの生活も多少は持続可能なものになりますように(笑)。

 昨年は「CSRとは企業の公共政策である」と締めくくりました。今年は公共政策論としてのCSRを少しずつ論じて、組み立てていきたいと思っています。何せ、世のCSRはあなたを美しい言葉で絡めとろうと虎視眈々と狙っているのです。このブログを読んでいる方も標的かもしれませんよ。だからこそ護身術として公共政策的発想を身につけましょう。危険を回避できるようになりますよ。

 とはいっても年の初めからあまりに堅いのも興ざめかもしれません。ということで今年の最初の数回はちょっと特別。ずばり「2008年のCSRはこうなる!」。大きく出てみました。これであなたも業界通。第一回目の今日は地球温暖化です。

その1:地球温暖化論議が過熱するときにCSRに何が求められるのか

 はい、これはもう言うまでもありません。いよいよ京都議定書の義務の達成状況の測定年に入ったわけです。世の中地球温暖化の話でもちきりだし、弊社で今同情を集める部署といえば、間違いなく地球環境の部局はその筆頭です。「今なにやってるの?」「温暖化」「...(合掌)」、といった地合い。ワタシが昨年の夏以来生業にしているWTOの仕事も過酷さにおいて相当なものだと思うのですが、地球温暖化に比べるとどうしても地味。「今なにやってるの?」「ドーハラウンドのルール交渉」「それ何?」「...」。

 地球温暖化対策には面白い非対称があります。新聞などマスコミの論調で二酸化炭素削減がCSRの文脈で論じられることはあまりありません。むしろ政府批判が目立ちますね。主に炭素税とか排出権取引とかの観点からですが。他方、企業のCSR報告書を見れば二酸化炭素の排出削減は定番中の定番アイテムであります。

 その意味で二酸化炭素排出量削減は典型的CSRの問題とも言えます。すなわち、政府が規制をしない、もしくはできない領域について、政府が企業に自主的取り組みを求めるという構図です。地球温暖化対策を問われて「関連法令を守ります」と答える会社はないでしょう。だって、守れば地球温暖化が防止できるような法律がそもそもないのですから。CSRという概念とコンプライアンスという概念が重ならないものであることがこの例からもおわかりいただけると思います。

  前回取り上げたヨーロッパのCSRの生い立ちを思い起こしてください。かたや地球温暖化、かたや若年失業と分野こそちがいますが、構図的には政府の手の届く範囲の外にある公共政策上の問題を解決するかもしくは軽減するために企業が能動的協力をするという意味でCSRの起源に近いです。

 それから、二酸化炭素削減のためには仕事のやり方を根本的に見直す必要がありますよね。例えば配送頻度を下げるとか、人やモノの物理的移動をできるだけ避けることもその一つです。これは、ヨーロッパがCSRのエッセンスと考えている社会的、環境的問題の解決方法を業務に「統合する」という要請にも適うものです。業務から切り離された社会貢献では地球温暖化は解決できないですよね。「業務の改変を伴うかどうか」という物差しを当ててみればCSRと一般の社会貢献の差異も明瞭になるのではないでしょうか。

 CSRの観点から地球温暖化問題をもう少し視野を広げて考えると、これはこれで複雑であります。まず、二酸化炭素排出削減は大変重要な課題でありますが、同時に環境問題の全てではないということです。以前ファイナンシャルタイムスがこんな趣旨のことを言っていました。
「二酸化炭素排出削減とは省エネルギーであり、すなわち企業にとってコスト削減である。したがって環境問題の中でもっとも取り組みやすい、ある意味簡単な問題なのである。企業は二酸化炭素排出削減を口実にして、それ以外の環境問題、とりわけコストのかかる環境問題への取組みを後回しにしている。」

 さらに、多くの企業の方からこんな話をよく伺いました。
「いやね、フジイさん、環境にやさしい製品といってもね、確かに省エネ製品は売れますよ。でも、それ以外は駄目ですね。お客さんに受け入れられないです。たとえばリサイクル材料を使っているからといってその製品を選んでくれるお客さんなんて実際はほとんどいないですよ。要するに環境、環境といっても電気代の節約になるかどうかに尽きます。環境設計の悩みどころです。」
たしかに、家電量販店に行くと地球温暖化問題は新製品の販促手法のような感じがするほど強調されていますが、他の環境問題についてはほとんど耳にしません。

 さらに、こんな批判を最近よく耳にします。東南アジアで日本企業は盛んに植林してCSR報告書にも載せています。結構なことなのですが、地元では必ずしも評価されていない場合があると聞きます。地元社会にしてみれば、他の問題、例えばタイなどの国にとってはエイズの問題の方がはるかに深刻です。植林に費やす資金があるならなぜエイズ対策に使ってくれないのか、という切実な声があるのは事実でしょう。

 地球温暖化問題への対応は非常に重要です。今年ますます声高に叫ばれると思います。同時にそれ故に環境対策について、CSR全般について複眼的思考が求められるのが2008年ではないかと思います。

フィードを登録する

前の記事

次の記事

藤井敏彦の「CSRの本質」

プロフィール

1964年生まれ。経済産業研究所コンサルティングフェロー。経済産業省通商機構部参事官。著書に「ヨーロッパのCSRと日本のCSR-何が違い、何を学ぶのか」、共著に「グローバルCSR調達」がある。

過去の記事

月間アーカイブ