このサイトは、2011年6月まで http://wiredvision.jp/ で公開されていたWIRED VISIONのコンテンツをアーカイブとして公開しているサイトです。

藤井敏彦の「CSRの本質」

企業の社会的責任(CSR)とは何なのか。欧米と日本を比較しつつ、その本質を問う。

日本企業はアフリカにどう向き合う?

2008年2月 4日

(これまでの 藤井敏彦の「CSRの本質」はこちら)

〜2008年のCSRはこうなる!(4)〜

 まず、今年の位置づけから。5月にアフリカ開発会議が横浜で開かれます。そしてご存じのとおり8月には洞爺湖サミットがあります。くわえて今年はミレニアム開発目標(Millennium Development Goals:MDGs)の目標期間後半の最初の年にあたります。

 ミレニアム開発目標は2015年までに、貧困、飢餓、教育、 HIV/エイズ、マラリア対策、環境保全等多岐にわたる8つの分野で目標を達成することをうたっている、国際的政策文書です。他方、アフリカ開発会議ですが、英語名称はTokyo International Conference on African Development:TICAD)。「東京」の名を冠していることから明らかなとおり、日本主導のアフリカの開発を論じる会議です。1993年の第1回会議以来すべて東京で開催されており、今年の横浜での会議は第4回になります。
 
 アフリカの問題を語るのは難しいです。セミナーなどで耳にする論はいくつかの類型におさまります。 
 その1:「アフリカの貧困撲滅は人類全体にとって重要なテーマです。日本企業も積極的に貢献しましょう。」と、まあ、簡潔ですがあまり創造性は感じさせないもの。
 その2:環境保護に重心をおくスピーカーは煮炊き用に木が伐採されて砂漠化が進んでいる例をあげながら「貧困こそ環境問題の元凶」とくるかもしれません。
 そん3:もっと心情に訴えるように「地球が○人の村だったら」的な解説も登場します。恵まれない隣人を放っておくことの非を倫理感に訴える。視覚で論を補強するために飢えた子供の写真がよく使われます。
 最近、4番目の新しい類型として人気を博しているのが、「ボトムオブピラミッド」です。皆様ご案内だと思いますが、アフリカだって工夫すれば市場になるのだというビジネス戦略ものです。要すれば「アフリカももうかりまっせぇ」ということで先進国の企業がアフリカで商売することがアフリカを救うという発想。「地球が○人の」と対極にあるアプローチといえるでしょう。「貧困地域市場開拓論」とも呼べるボトムオブピラミッドはそれ自体興味深いので改めて取り上げたいと思っています。

 日本の主要新聞はアフリカ支援について上記4つのどれかを適当に使い分けているといったところでしょうか。たとえば土日の紙面で奥さんや子供も読者としてカウントしている場合は「地球が○人の」的記事が登場するし、政府批判をやりたければ一番目の論とODAの減額を掛け合わせればそれなりの論説に仕立てあがるといった具合。ちなみに側聞するところによれば、ある会議である国はボトムオブピラミッドでよく引き合いに出される自国企業の成功事例を金科玉条のように繰り返してアフリカ支援の要請を振り切ったとか(笑)。伝聞なので相当誇張されていると思いますが、古来論理は都合よくつかわれるものであります。

 では、アフリカの問題への危機感は実際のところどこまで日本の大企業に届いているのでしょうか。ワタシが大変尊敬しているかつてアフリカを担当していた先輩がよく嘆いていました「企業を訪問してアフリカについて話をしても本気で取り合ってくれるところはほとんどないよ。」これはつい数年前のことです。果たしてその後どこまで変わったでしょうか。

 CSRブームの中でフェアトレードといった動きも新聞日曜版の好むイシューとして登場していますが、どこまで現実的インパクトを与えているでしょうか。ちなみに日本の新聞はフェアトレードのような「善意」をベタベタに甘やかす傾向があります。かえって成長を阻んでしまっています。欧米のメディアも善意は評価しますが、現実的効果については客観的に分析し時に容赦なく切り捨てます。建設的批判が企業の取り組みの改善につながっていくのです。

 すくなくとも、現在のところ日本の多くの会社にとってアフリカの話は火星の話と同じくらい距離感があります。はたして洞爺湖サミットに至る一連のイベントは転換点となってくれるでしょうか。ワタシですが、この点については比較的楽観的であります。日本企業はここ5年の間にアフリカ問題を真剣に考えはじめるにちがいありません。次回に続きます。

フィードを登録する

前の記事

次の記事

藤井敏彦の「CSRの本質」

プロフィール

1964年生まれ。経済産業研究所コンサルティングフェロー。経済産業省通商機構部参事官。著書に「ヨーロッパのCSRと日本のCSR-何が違い、何を学ぶのか」、共著に「グローバルCSR調達」がある。

過去の記事

月間アーカイブ