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yomoyomoの「情報共有の未来」

内外の最新動向をチェックしながら、情報共有によるコンテンツの未来を探る。

iPod+iTunesモデルの次に来るもの

2008年4月 9日

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前回、音楽税はそれほどバカげたアイデアだろうか? と問いかけたところ、P2Pとかその辺のお話@はてなで「やっぱり音楽税は筋が悪い」という反応をいただきました。タイトルを見れば内容は一目瞭然ですが、ユーザ、アーティストとも選択肢が与えられず、離脱が許されないシステムの問題と分配の問題を突く反論です。

一方で、これは当然ながら当方の文章に対してでなくジム・グリフィンの提案を受けた、電子フロンティア財団の上級専任弁護士フレッド・フォン・ローマンのブログエントリ「ファイル共有のマネタイズ:集合ライセンスが良く、ISP税はダメ」を知ったので翻訳してみました。

『デジタル音楽の行方』でも、電子フロンティア財団が主張する自発的集合ライセンスのアイデアは取り上げられており、この解決策によれば現在の著作権法を変更する必要はなく、著作権者に価格決定権が残るが、現状の資金分配や権力システムの脅威となるためメジャープレイヤーが乗ることはないだろうと分析しています。

それに対して『デジタル音楽の行方』の著者達が推しているのが強制ライセンスによる資金プールの創出で、その具体的な策として ISP への課金も挙げられています。

当方は、音楽ファンとして闇雲に自由を求めるだけでなく、代替補償システムの経済合理性を論じ、また必要に応じた政治の介入の必要性を説く議論こそが『デジタル音楽の行方』の最も優れたところだと評価していますが、前記の「やっぱり音楽税は筋が悪い」は、特に分配の問題など『デジタル音楽の行方』が刊行されて二年以上経って、その内容の実現の可能性が見えてきたところではじめて出た強力な反論といえます。

さて、前回の文章で iTunes Store が全米第2位の音楽小売業者であると書きましたが、タイミングが悪いことに(いや、良いことに?)公開とほぼ同時に、ウォルマートを抜いて米国最大の音楽小売店になったというニュースが伝えられました。

Apple は iTunes と iPod との組み合わせで我々の音楽の聴き方を変え、iTMS サービス開始からおよそ5年でトップに上り詰めたわけですが、その隆盛がこれからも続くとは限りません。

宮川達彦さんの「Amazon MP3 のすごさをもっと知るべき」を読むと、Amazon というネットのビッグプレイヤーの本気の取り組みに iTS もうかうかしていられないのを感じます(この国の状況と比較した場合の、現行の値付けと収益モデルに固執し、そのためなら DRM でユーザの利便性を犠牲にすることも厭わないことの愚についても改めて言及しておきます)。

小寺信良さんは、iTunes 隆盛の理由として価格設定と Non DRM を挙げていますが、後者に関して Apple の iTunes Plus への取り組みが本当に十分か、個人的にはいささか疑問です。

また価格設定についても、Amazon MP3 などが登場した後では優位性をもっているとは思えませんし、さらに突き詰めれば曲単位で販売するモデル自体もっと包括的なスタイルにとってかわられるのではないかと思っています。iPod はこのモデルにうまく適合できるでしょうか。

もう一点不安があるとすれば、最近の音楽関係のスタートアップを見ていると、音楽をキーにしたソーシャルネットワークが多いのに対し、Apple のサービスはそうした面にあまり積極的に見えないのも気になります。そうした意味で MySpace がメジャーレーベル三社と提携して開始する MySpace Music も大きな脅威になりえます。

結局はこれから資金プールをどのように作り出していくかという話に収束すると思います。広告モデルを別とすれば、基本的には広く薄くお金を集めるやり方が妥当でしょう。それが「やっぱり音楽税は筋が悪い」で書かれるサブスクリプションサービスになるのか、音楽税なり強制ライセンスの形態になるのか。

面白いのは、Google の CIO から大手レコード会社の EMI に移籍して多くの人を驚かせたダグラス・メリルが CNET のインタビューで、このサブスクリプションと ISP 料金の二つについて「いずれも興味深い。われわれは両方とも試してみるべきだし、データがどのような結論を出すのか見てみるべきだ」と語っていることです。Google で培った広告モデルの適用とあわせ、彼が EMI で主導する実験の結果により、iPod+iTunes の次に支配的となる音楽産業の収益モデルが変わるかもしれません。

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プロフィール

1973年生まれ。 ウェブサイトにおいて雑文書き、翻訳者として活動中。その鋭い視点での良質な論評に定評がある。訳書に『デジタル音楽の行方』、『Wiki Way』、『ウェブログ・ハンドブック』がある。

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