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yomoyomoの「情報共有の未来」

内外の最新動向をチェックしながら、情報共有によるコンテンツの未来を探る。

クリエイティブ・コモンズな本たちと来るべきイベントの話

2008年7月 2日

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今回も前回に続き、クリエイティブ・コモンズのライセンスの下で公開されている書籍を紹介します。

一冊目はクリストフォー・M.ケルティ(Christopher M. Kelty)の『Two Bits: The Cultural Significance of Free Software and the Internet』です・・・・が、実はこの本は本文執筆時点ではアメリカ本国でもまだ発売されていません。

TwoBits.jpg

その本について書くことができるのは、発売前からサポートサイトにおいて PDF 版、並びに HTML 版がダウンロードできるからです。この HTML 版にはきちんと本のページとの対応が埋め込まれており、CC ライセンスの下での公開に留まらず、書籍の発売前のこうした全文公開を出版社もよく認めたものだと感心します。

『Two Bits』はフリーソフトウェア/オープンソースの歴史を辿りながら、その社会的意義と実社会への広がりを説く本で、recursive public と modulate が本書のキーワードのようです。

全部で400ページ近くというなかなかの大著でまだちゃんと読めておらず、当方には本書の評価はできないのですが、エリック・レイモンドの『伽藍とバザール』から10年経ち、「その先」を指し示す理論的支柱のようなものが求められており、本書もそうした期待を受けるのではないかと考えます。

本書と似た題材の本として、スティーブン・ウェバーの『オープンソースの成功―政治学者が分析するコミュニティの可能性』がありますが、訳者の山形浩生自身ほとんど評価してないようですし、またオライリーの『Open Sources 2.0』もあまり話題にならず、結局邦訳も出ませんでした。

『Two Bits』にももちろんエリック・レイモンドの仕事に対する言及は多くあり、2002年に著者が彼とディナーをともにするという念願の機会に恵まれたときのことも書かれてますが、議論をいろいろぶつけようと思っていたのに、レイモンドがその場に一人だけいた若くて美人な女性参加者の隣に座り、ずっと彼女と話し込んだために会話のきっかけがつかめず、また自分の両隣の新鋭たちを見ていたら、急にレイモンドが過去の存在に思えてきたというくだりがあり、おいおいおい!! と思わず突っ込んでしまいました。

うーん、あまり期待しすぎてはいけないかもしれません・・・・(笑)

*  *  *  *  *

二冊目はコリィ・ドクトロウ(Cory Doctorow)『Little Brother』です。

LittleBrother.jpg

彼の仕事については、本連載の第1回目でも取り上げていますが、彼はずっと単著を CC ライセンスの下で公開しており、それ自体には驚きはありません。しかし、今回注目すべきは『Little Brother』がニューヨーク・タイムズ紙でベストセラーリスト入りしていることです。これはすごいことではないでしょうか。

『Little Brother』は、17歳の若きハッカーが、サンフランシスコで起きたテロ攻撃後に権力を濫用する国土安全保障省に対して、仲間と協力しながら戦いを挑む近未来小説で、電子フロンティア財団などでの彼の活動を知る人間からするとおなじみの話題と言えるでしょうが、実際小説としての出来も良いようでベストセラーリスト入りもその反映なのだと思います。

彼の小説の邦訳というと『マジック・キングダムで落ちぶれて』が出たきりで、短期的にみれば彼の文章を最も訳しているのは、『Make: Technology on Your Time』日本版で彼のエッセイを担当するワタシではないかと思うくらいですが(もちろん冗談です)、『Little Brother』は久方ぶりの邦訳に出るのではないでしょうか。

もちろんそれを待たずして有志が翻訳を始めて構わないわけです。それが CC ライセンスの利点であり、ケルティの『Two Bits』にしろ、前回取り上げたジットレインの『The Future of the Internet and How to Stop It』にしろ、内容が気になった人が、ライセンス条件を満たしながら一部だけでもどんどん訳して公開し、それが本の認知につながると良いなと思います。

例えばコリィ・ドクトロウに関した話では、彼が悪の帝国2.0化した Google を描いた短編小説「Scroogled」を書いたとき、(日本語訳を含む)各国語への翻訳に留まらず、別フォーマットでのファイル公開、「Scroogled」にインスパイアされたポスターアートが続々と公開されたことがありましたサポートサイトを見ると『Little Brother』に関しても同様の動きがあるようです。こうした派生作品も CC ならではでしょう。

*  *  *  *  *

さて、二回に渡って CC な本を取り上げてきましたが、クリエイティブ・コモンズというと、7月末から8月はじめに札幌で開催される、世界中のクリエイティブ・コモンズ関係者が一堂に会する国際会議 iCommons Summit 2008(iSummit 2008)について触れないわけにはいきません。

iSummit 2008 に先立ち開催されているミュージック・ビデオ・コンテスト「音景」2008CC-JP とピアプロとのコラボ企画によるキャラクター募集など話題には事欠きません。

開催地が札幌のために会議自体には参加できない人もいるでしょうが(ワタシ自身そうです・・・・)、そういう人にはこれまでありそうでなかった Creative Commons の MySpace ページで CC ライセンスの音楽を流しっぱなしにして楽しむのはどうでしょう。

音楽配信サイト Jamendo登録された CC なアルバムの数が1万を越えたそうですが、そうした中から選ばれた音はよくできているものが多く、当たり前のようにナイン・インチ・ネイルズの新作『The Slip』からの曲が流れ出したりして、よく考えれば本当にとんでもないところまで来たものだと思います。

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プロフィール

1973年生まれ。 ウェブサイトにおいて雑文書き、翻訳者として活動中。その鋭い視点での良質な論評に定評がある。訳書に『デジタル音楽の行方』、『Wiki Way』、『ウェブログ・ハンドブック』がある。

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