コーラを垂らせばラジコンが動く!? バイオ電池の秘める可能性(4)
2010年1月28日
体内で半永久的に動く電池も実現できる?
──タカラトミーと組んで、おもちゃの開発を行っているというのは面白いですね。
戸木田:タカラトミーが私たちのバイオ電池に興味を持っていただいた理由は、ぶどう糖が身近に存在するエネルギー源であることと、もう1つは安全性にもあるでしょう。
酒井:一般的な乾電池の電解質は強アルカリ性で、誤って目に入ると失明の恐れがあります。メタノール型燃料電池は強酸性で、どちらも液漏れ防止には十分注意を払う必要があります。一方、バイオ電池は中性条件下で反応が進む珍しい電池です。燃料はぶどう糖ですし、電池自体の材質も安全ですから、乾電池をバイオ電池に置き換えればおもちゃの安全性は大幅に高まります。バイオ電池の特長が生かせるアプリケーションだと思います。
──ジュースのように不純物が多いものでも大丈夫ですか? 子どもはいろんなものを垂らしそうですが。
戸木田:酵素による触媒作用は、特定の物質とだけでしか起こりません。ここが金属触媒との大きな違いです。メタノール型燃料電池などでは、燃料が反対の極にも流れ(クロスオーバー)、反応阻害を起こすことで出力が落ちる現象がみられます。しかし、バイオ電池ではクロスオーバーが起こったとしても、反対側の電極に固定された酵素は基本的に反応しません。対象以外の物質は無視してくれるという面白い性質があるのです。
──将来的に、バイオ電池はどういう用途に応用できるでしょうか?
戸木田:ぶどう糖を用いた電池の応用として例に挙がることが多いのは、医療用機器です。心臓のペースメーカーに用いて血液中の糖分で発電できるようにすれば、電池交換の手術を行う必要がなくなって、患者の負担が減るのではないか、ということがアメリカの学会では議論されています。
酒井:生ゴミ発電にも使える可能性があります。家庭のゴミがゴミでなくなり、資源になるかもしれません。
──バイオ燃料の活用はどうでしょう?
戸木田:可能性はありますね。現在は、サトウキビの糖分を発酵させてバイオエタノールを作っていますが、バイオ電池は糖分から直接電気を取り出しますから、こちらの方が将来的には効率がよくなると思います。
研究者プロフィール
戸木田裕一(ときた ゆういち)
京都大学大学院 工学研究科 合成・生物化学専攻 中辻研究室(博士課程修了)。専門は量子化学、生物無機化学、錯体化学。1992年に電気化学工業株式会社に入社、関節治療薬開発、クロロプレン等の工業プロセス開発を担当。2001年にソニーに移り、バイオ電池を含むバイオエレクトロニクス関連の研究に従事し、現在に至る。1995〜1998年まで財団法人基礎化学研究所研究員。趣味はスポーツ鑑賞、映画鑑賞。
酒井秀樹(さかい ひでき)
出身校は、東京大学大学院 工学系研究科 水野研究室(修士課程)。専門は、無機・触媒化学。1999年にソニー入社。リチウムイオン電池の正極材料の研究開発を担当後、2001年よりバイオ電池の研究開発を立ち上げ、現在(テーマリーダー)に至る。最近はまっている趣味は、マラソン、フットサル。
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