コーラを垂らせばラジコンが動く!? バイオ電池の秘める可能性(3)
2010年1月28日
プロペラを回せば、誰にでもわかってもらえる
──これまでとはまったく違う専門分野も取り込むとは、ずいぶん野心的なプロジェクトですね。
酒井:プロジェクトの初期段階では、社内でも本当に酵素を使って電池が作れるのか、懸念する声がありました。2001年の段階では、原理的に可能であることはわかっていましたが、まだビーカーの中で反応が起こったというレベルであり、電池として使えるものはどこにもありませんでした。
そこで、社内の人間を説得するためにも、わかりやすいプロトタイプの電池を作ることを最優先しました。電池の電極にプロペラをつなぎ、電池にぶどう糖の入ったジュース(当時はスポーツドリンクを使っていました)を垂らせば回る。こうすれば、専門知識がない人にも一目でこの研究のエッセンスをわかってもらえます。それにしても、プロペラを回せるようになるまで、本当に大変でした。
──工夫の具体例としてはどんなことがありますか?
酒井:負極側ではぶどう糖がうまく供給されるよう、電極の構造を何度も変えています。また、正極側では酸素を取り込むわけですが、酵素反応は一般的に液体中で進みます。空気の層と水の層をどう合わせるかにも、非常に頭を悩ませました。正極側は電極の水分量を適度に保つ必要があるのですが、酵素や電子伝達物質を固定した多孔質カーボンを使うことで、この難題をクリアしました。効率よく酸素を取り込んで液体中の酵素と反応させることができるようになったのは、大きなブレークスルーです。
発電性能と耐久性の向上を目指す
──ラジコンカーを動かしていましたが、現状の発電性能はどのくらいでしょう?
酒井:2007年8月、最初に発表した時には、電極1cm²当たり1.5mWでした。これが2008年には5mW/cm²にあがりました。
──どのくらいの発電性能を目標にしていますか?
酒井:まずはメタノール燃料電池と同等の性能を目指します。現在のメタノール燃料電池は、電極1cm²当たり100〜200mWですから、まだ数十倍の開きがあります。
戸木田:そういう意味ではまだ発電性能は低いですね。ただし、実用化されているメタノール燃料電池はアクティブ型といって、空気を取り入れるファンなどの機構も入っています。私たちのバイオ電池もアクティブ型にすれば、性能も数倍にはなるでしょう。しかし、アクティブ型にする前にまだまだ改良するポイントはたくさんあります。
──酵素を使っているということは、温度によって反応の進み具合が変わりそうですね。
戸木田:バイオ電池は25〜50℃弱で反応が進み、一番よく反応するのは40℃くらいです。温度が低くても反応は起こりますが、出力はだいぶ下がります。10℃を切ると厳しいですね。これに関しては、どういう機器に応用するかにもよるでしょう。
──耐久性はどうでしょう? 繰り返し使っていると、反応が起こりにくくなるのではないでしょうか。
戸木田:耐久性はやはり問題です。繰り返しの実験はまだほとんど行っていませんが、酵素もタンパク質なので、繰り返し使うとどんどん壊れていってしまいます。ただ、私たちのバイオ電池では多孔質カーボンの上に固定していますから、溶液中で使うよりはかなり耐久性が高くなっています。
また、酵素自身の耐久性を高める研究も進めています。具体的には、分子生物学の技術でアミノ酸の種類を変えるのです。固定化とアミノ酸の入れ換えを合わせれば、実用に十分な耐久性が得られそうだという感触を得ています。
──燃料のぶどう糖と電極部分をまとめてカートリッジにして、丸ごと入れ換えるようにしてもいいかもしれませんね。
酒井:製造コストを十分に下げることができれば、それも可能でしょう。
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