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山路達也の「エコ技術研究者に訊く」

地球と我々の未来の行方を左右するかもしれない、環境系技術研究の現場を訪ねる。

『世界は、石油文明からマグネシウム文明へ』矢部教授の回答(1)

2009年7月15日

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世界は、石油文明からマグネシウム文明へ」で紹介した、東京工業大学 矢部孝教授の研究が『マグネシウム文明論』としてPHP新書より発売されました(目次はこちら)。本書では、マグネシウム循環社会へのロードマップや温室効果ガス削減の試算も紹介しています。

(これまでの 山路達也の「エコ技術者に訊く」はこちら

前回掲載した「世界は、石油文明からマグネシウム文明へ」は、読者の大きな反響を呼んだ。海水からマグネシウムを取り出し、発電所や自動車、家庭のエネルギー源として利用。燃やしてできた酸化マグネシウムは、太陽光励起レーザーで金属マグネシウムに還元する。こうした循環社会は本当に実現できるのだろうか? 数々の疑問点について、東京工業大学の矢部孝教授に直接お聞きした。

1トンのマグネシウムを作るのに10トンの石炭が使われている?

──記事では、「マグネシウム1トンを作るために石炭が10トンも必要になります」とあります。マグネシウムの精錬法としては「電解法」が主流なのではないでしょうか?

電解法は、塩化マグネシウム(MgCl₂)を電気分解して金属マグネシウムにします(MgCl₂ → Mg + Cl₂)。しかし、この方法は設備コストも電気代も高くなるため、現在ではほとんどの工場が閉鎖されてしまいました。なぜ、電解法のコストが高くなるのかは、次の項目で説明します。

電解法に代わり、現在主流となっている精錬法が「ピジョン法」です。この方法では、酸化マグネシウムをシリコンで還元します(Si + 2MgO → SiO₂ + 2Mg)。実際には、ドロマイト鉱石とケイ素鉄を加熱し、できたマグネシウム蒸気を冷却して金属マグネシウムにします。この方法では、高温状態を作るためにコークス(石炭燃料)を使うのですが、中国がマグネシウムの価格を下げたため、電解法はコスト面で対抗できなくなってしまいました。

現在主流となっているマグネシウムの精錬法は、真ん中に示したピジョン法である。矢部教授らが研究しているのは、一番下のレーザー精錬法だ。

海水からマグネシウムを低コストで取り出せる?

──海水から塩化マグネシウムを取り出して金属マグネシウムにするということですが、ここでもレーザーを使うのでしょうか? また、1トンの海水からどのくらいのマグネシウムを取り出せるのでしょうか?

はい、海水から取り出す場合もレーザーで精錬を行うことになります。この部分について、もう少し詳しく説明しましょう。

海水中の塩化マグネシウムは、含水塩化マグネシウムです。含水塩化マグネシウムに100〜200℃程度の熱を加えると反応が起こり、酸化マグネシウムと塩酸になります。

実は、先の質問に出てきた「電解法」のコストが高くなってしまう原因はここにあります。電解法では、酸化マグネシウムから無水塩化マグネシウムを作るために、炭素電極と塩素を注入しなければなりません。つまり、電解法ではわざわざ酸化マグネシウムから塩化マグネシウムを作っているのです。

私たちは、レーザーを使って酸化マグネシウムを直接精錬します。これは、燃料として使われた後の酸化マグネシウムを回収する時と同じです。問題は塩酸をどう処理するかですが、これは私たちの特許に関わりますので、ここではノーコメントとさせてください。

レーザーによる精錬法では、1トンの海水から1.3kgのマグネシウムを取り出せます。

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プロフィール

1970年生まれ。雑誌編集者を経て、フリーの編集者・ライターとして独立。ネットカルチャー・IT・環境系解説記事などで活動中。『進化するケータイの科学』、『弾言』(小飼弾氏との共著、アスペクト)、『マグネシウム文明論』(矢部孝教授との共著、PHP新書)など。ブログは、こちら

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