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山路達也の「エコ技術研究者に訊く」

地球と我々の未来の行方を左右するかもしれない、環境系技術研究の現場を訪ねる。

『世界は、石油文明からマグネシウム文明へ』矢部教授の回答(2)

2009年7月15日

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ほとんどエネルギーを使わずに、海水を淡水化できる?

──開発された淡水化装置は、逆浸透膜方式よりも少ないエネルギー消費だということですが、これはどのような原理なのでしょう? また、海水中にはさまざまな成分が含まれますが、これらを分離できるのでしょうか?

私たちが開発した淡水化装置の原理については答えられません。現在、すでに装置は販売中で、原理についてもいずれ特許で明らかになるでしょう。

私は逆浸透膜装置の効率が悪いと言っているのではなく、現在電力を使って駆動しているタイプの逆浸透膜ではだめだと言っているだけです。太陽光を使った逆浸透膜の装置もありますが、これは電力駆動タイプの1桁以上は価格が高く、太陽受光面積も私たちの装置に比べて1桁から2桁大きくなります。現在、太陽熱利用の淡水装置は、逆浸透膜と蒸発法の多重方式が最も効率がよいとされていますが、それでも私たちの装置に比べて数倍は大きな面積を必要とし価格も桁違いに高いものです。

海水中には色々な成分が含まれ、多いものから順にナトリウム、マグネシウム、カルシウム、カリウムとなります。他にもほんのわずか(例えば、カリウムの次に多いシリコンはカリウムの100分の1)ありますが、私たちが研究している燃焼装置では100%純粋なマグネシウムを必要としないため、問題にはなりません。

現在使っているマグネシウムエンジンの燃料は、80〜90%のマグネシウム純度で大丈夫です。また、中国のマグネシウム工場で使われているような、純化法を利用するという手もあります。

海水から取り出した酸化マグネシウムはどこで精錬する?

──海水から酸化マグネシウムを取り出したとして、それをレーザー精錬所に輸送する必要がありますね。これは、海が近く、晴天率の高い地域が候補地になるということでしょうか?

そうなります。

太陽光励起レーザーの変換効率は本当に40%以上?

──用いているレーザー媒質は、太陽光の42%をレーザーに変換できるということですが、これほど高い効率は本当に実現できるのでしょうか?

42%の変換効率はランプを用いた人工太陽光による実験データです。北海道の千歳にある実験施設では、実際の太陽光を使って20%の変換効率を達成しています。

レーザーを作るためには、ポンピングといって電子をより高いエネルギー準位に持ち上げる必要がありますが、この効率は媒質によって変わってきます。ちなみに、自然放出はほとんど無視できるレベルです。クロム・ネオジウム系統の媒質では理論的に太陽光の60%以上を吸収でき、現在より変換効率を向上できる目処は付いています。

なぜ今、装置の変換効率が悪いかというと、太陽エネルギーはフレネルレンズからの集光で40%まで落ちており、レーザー媒質に入れるまでにそのうちの75%をロスしているからです。つまり、0.4×0.25=0.1で、レーザー媒質に入るのは元の太陽エネルギーの10%。そのうちの20%がレーザーになるため、最終的な変換効率は2%になっているのです。

太陽光はフレネルレンズで集められ、レーザー媒質でレーザーへと変換される。

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プロフィール

1970年生まれ。雑誌編集者を経て、フリーの編集者・ライターとして独立。ネットカルチャー・IT・環境系解説記事などで活動中。『進化するケータイの科学』、『弾言』(小飼弾氏との共著、アスペクト)、『マグネシウム文明論』(矢部孝教授との共著、PHP新書)など。ブログは、こちら

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