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山路達也の「エコ技術研究者に訊く」

地球と我々の未来の行方を左右するかもしれない、環境系技術研究の現場を訪ねる。

カーボンナノチューブでできた世界で最も「黒い」物質(3)

2009年5月19日

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大量生産技術の開発途中に偶然できた黒体

──最初から光を吸収する材料を開発しようとしていたのですか?

実は、まったく意図していませんでした。我々は、例えば自動車に使えるような高性能キャパシタ(一種の蓄電器)の電極材料に使うために、カーボンナノチューブを大量生産する方法を研究していました。そこから派生したのが、このカーボンナノチューブ黒体です。

──ということは、かなり低コストで作れるのですね。

キャパシタ用途で採算のとれるような低コスト化を目標としています。材料も、鉄触媒にエチレンガスなど比較的安価です。電気炉の中に鉄微粒子を添付した基板を入れ、700〜800℃の熱を加えてエチレンガスを流すと、鉄微粒子を核としてエチレンガスが分解されて、カーボンナノチューブの結晶が成長していきます。最初の設備費はかかりますが、量産効果は大きいとみています。膜の厚さなどを制御すれば、カーボンナノチューブ黒体になります。

人工衛星や太陽熱利用への期待が高まる

──カーボンナノチューブ黒体はどのような用途に応用できそうですか?

この材料は、光吸収性や熱放射性に関して、他の材料を圧倒します。また、耐熱性や耐食性も高く、少なくとも空気中なら400℃、真空中なら1000℃まで性能を維持できます。その一方で、柔らかいため、他のものが接触しない箇所に使う必要があるでしょう。

こうした特性を考慮して、いくつかの用途を考えてみました。まず、研究用の精密な放射温度計測や、高感度の赤外線センサーに使えます。電子機器類の放熱にも有効でしょう。特に、真空中では空気の対流が起こらないため、機器の放熱は放射で行わないといけません。人工衛星での需要は高そうです。

意外だったのは、多くのメーカーが眼で見て黒い材料を欲しがっているということでした。テレビの性能は、黒い映像をいかに黒く、白い映像をいかに白く明るく表示できるかで決まります。カーボンナノチューブ黒体は、すでにA4サイズまで作れるようになっていきますから、こうしたテレビへの応用も不可能ではないでしょう。

もちろん、環境分野にも応用できます。先ほどの機器の放熱のほか、太陽熱を効率よく集めるなど、熱の管理に関して大きな役割を果たしそうです。また、カーボンナノチューブ黒体を用いることで大型サーモグラフィの性能評価ができるようになれば、建物や都市の効率的な熱設計にも間接的に寄与すると言えるかもしれません。

──今後の研究ロードマップはいかがでしょう。

性能面では一定のレベルに達しているので、今後は汎用性を上げていくことが課題です。10μmより薄くしたり、曲面上にも生成できるようにしたいですね。

研究者プロフィール

水野耕平(みずのこうへい)

1973年愛媛県生まれ、1995年筑波大学第一学群自然学類卒業、同大学大学院博士課程地球科学研究科終了、理学博士。独立行政法人産業技術総合研究所ナノチューブ応用研究センターにてカーボンナノチューブの合成法と応用の研究開発に従事。現在同研究所計測標準部門を兼務し、カーボンナノチューブの標準化と安全性試験にも参加する。

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プロフィール

1970年生まれ。雑誌編集者を経て、フリーの編集者・ライターとして独立。ネットカルチャー・IT・環境系解説記事などで活動中。『進化するケータイの科学』、『弾言』(小飼弾氏との共著、アスペクト)、『マグネシウム文明論』(矢部孝教授との共著、PHP新書)など。ブログは、こちら

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