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山路達也の「エコ技術研究者に訊く」

地球と我々の未来の行方を左右するかもしれない、環境系技術研究の現場を訪ねる。

安価なナノチューブで二酸化炭素をしっかりキャッチ(1)

2009年3月12日

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温暖化対策のために二酸化炭素削減の必要性が訴えられて久しいが、回収技術についてはあまり進展がないのが現状だ。回収が進まない最大の要因は、コストの高さにある。(独)産業技術総合研究所 地圏資源環境研究部門の鈴木正哉博士の開発した新材料は、二酸化炭素の回収コストを大幅に低減させる可能性があるという。

なかなか進まないCO₂の回収

──二酸化炭素(CO₂)を効率的に吸着、脱着できる吸着剤を開発されたそうですが、従来のCO₂回収技術にはどのような課題があったのでしょうか?

日本国内におけるCO₂の回収は、あまり進んでいないのが現状です。理由の1つは回収したCO₂をどう利用するかが明確でないこと。そして、もう1つは回収コストが非常に高く付いてしまうことにあります。

地中や海中にCO₂を貯留するCCS(Carbon dioxide Capture and Storage)も研究されており、実用化できれば日本国内で排出されるCO₂数十年分を貯留できると言われています(参考:「CO2を地中・海洋に埋めるCCSは、温暖化対策の切り札か?」)。それでもなかなか実用化の見通しが立たないのは、やはり回収コストが高いからでしょう。

──現状は、どのようにCO₂を回収しているのですか?

PSAシステムの概略図。圧力の高い状態でCO₂を吸着し、低い状態で脱着させる。

CO₂の回収方法は、大きく分けて3つあります。1つは、溶液や固体にCO₂を吸収させる「化学吸収法」。もう1つは、圧力を掛けてCO₂を吸収する「圧力スイング吸着法」(Pressure Swing Adsorption:PSA)。最後は、膜分離法です。

現在火力発電所などでテストが進んでいるのは、化学吸収法のうち、アルカリ性溶液にCO₂を吸収させる「アミン法」です。40℃くらいのアミンにCO₂を吸収させ、この溶液を120〜130℃に熱するとCO₂を分離できます。この方法では、熱を加えるためにかなりのエネルギーを消費し、1tのCO₂を吸収するのに4200円程度かかってしまいます。CO₂排出権取引では、1t当たり1500〜2000円が相場ですから、価格競争力がありません。

一方PSA法では、ゼオライトなどにCO₂を吸着させます。ゼオライトというのは多孔性アルミノケイ酸塩の総称で、湿気取りなどにもよく使われています。CO₂の吸着にはゼオライト13Xが主に用いられてきました。ゼオライト13Xを使ったPSA法には厄介な点が1つあって、1t当たりのCO₂の回収コストは5000円程度になっていました。

真空や熱を使わなければ、回収コストはもっと安くなる

──どのような点が問題なのですか?

ゼオライト13Xでは、大気圧より低い圧力で吸着させ、脱着させるにはさらに真空近くまで減圧しなければならないのです。この真空を作るために、多くのエネルギーが消費されていました。

そこで、大気圧よりも高い圧力でCO₂を吸着させ、大気圧に戻せばCO₂を脱着できる物質があれば、消費エネルギーを下げられるのではないかと考えました。

──吸着時に圧力をかけるエネルギーは、真空にするエネルギーよりも少ないのですか?

はい。新しく開発した物質では、9気圧でCO₂を吸着、大気圧で脱着させることで、ゼオライト13Xと同程度の吸着/脱着性能を示します。どうシステムを作るかにもよりますが、この方法ならエネルギー消費を大幅に下げられると考えられます。

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プロフィール

1970年生まれ。雑誌編集者を経て、フリーの編集者・ライターとして独立。ネットカルチャー・IT・環境系解説記事などで活動中。『進化するケータイの科学』、『弾言』(小飼弾氏との共著、アスペクト)、『マグネシウム文明論』(矢部孝教授との共著、PHP新書)など。ブログは、こちら

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