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山路達也の「エコ技術研究者に訊く」

地球と我々の未来の行方を左右するかもしれない、環境系技術研究の現場を訪ねる。

安価なナノチューブで二酸化炭素をしっかりキャッチ(2)

2009年3月12日

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痩せた土地に隠されていた、ナノチューブの秘密

イモゴライトの構造。チューブ上の結晶であるため、1軸方向にしか生長しない。(独立行政法人産業技術総合研究所(AIST)提供)

──今回開発された物質は、「イモゴライト構造を持つ非晶質アルミニウムケイ酸からなる無機系二酸化炭素吸着剤」ということですが、イモゴライトというのはいったい何なのでしょう?

イモゴライトというのは、天然に存在するナノチューブです。外径が約2.5nm、長さが数十nm〜数μmのチューブ状をしています。イモゴライトは、1962年に熊本県人吉盆地の火山灰層から発見されました。イモゴというのは、作物が育ちにくい土壌という意味に由来して名づけられたものです。現在では、イモゴライトは、火山活動があり火山灰層が形成される地域で、降雨による風化現象が見られる場所なら、世界中のどこにでもあることがわかっています。

──ゼオライトなどとは何が違うのですか?

イモゴライトは、チューブ同士の間に隙間ができ、そこにさまざまな物質を吸着できる(図は、合成イモゴライトの電子顕微鏡写真)。

先述のゼオライトも含めて、一般的な鉱物は3次元の結晶構造を持っています。また、粘土は層状、つまり2次元の結晶構造が積み重なっています。

これらに対し、イモゴライトはひも状で、1次元の結晶構造をしているのが特徴です。

3次元的な結晶構造の場合はきっちりした繰り返しパターンがあり、構造内の隙間(細孔)の大きさも決まってきます。ところがイモゴライトはフレキシビリティが非常に高く、チューブ同士が絡まり合って、その隙間にいろいろな物質を吸着できるのです。天然のイモゴライトを観察すると、チューブ同士が結び目を作っていることもあります。

──なるほど、水や栄養分も吸着してしまうから、植物が育ちにくかったんですね!

そういうことでしょう。イモゴライトは、産業廃棄物処理場から重金属が漏れないようにするシール材としても使われています。もっとも、天然のイモゴライトは量が多くないので、普及はしていません。

イモゴライトの性能は注目されたのですが、合成するためのコストがネックになりました。

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プロフィール

1970年生まれ。雑誌編集者を経て、フリーの編集者・ライターとして独立。ネットカルチャー・IT・環境系解説記事などで活動中。『進化するケータイの科学』、『弾言』(小飼弾氏との共著、アスペクト)、『マグネシウム文明論』(矢部孝教授との共著、PHP新書)など。ブログは、こちら

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