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山路達也の「エコ技術研究者に訊く」

地球と我々の未来の行方を左右するかもしれない、環境系技術研究の現場を訪ねる。

CO2を地中・海洋に埋めるCCSは、温暖化対策の切り札か? 1/2

2007年10月12日

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地中や海洋にCO2を貯留しようというCCS。果たしてCCSは温暖化対策の切り札となりえるのだろうか? 20年近くCCSの研究に取り組んできた西尾匡弘博士(産業技術総合研究所 エネルギー社会システムグループ主任研究員)にうかがった。

不要なCO2は地面に埋め込んでしまえ?

──CO2削減手法として、二酸化炭素回収・隔離(CCS:Carbon dioxide Capture and Storage)技術が世界的に注目を集めていると聞いています。以前見たテレビ番組では、集めたCO2を地中に埋めて、それで石油を採掘するということまで行っていました。とりあえずCO2を埋めてしまえというのは何だか乱暴な気もするのですが。

西尾匡弘博士(産業技術総合研究所 エネルギー社会システムグループ主任研究員)

西尾:CCSについては、もしやらないでいいといってくれれば、使わないですませたい。研究者はCCSに対してそういう印象も持っていますよ。

ただ、CCSだけで温暖化が全部解決できるというものでないだろうことも、わかっています。いつまで経っても温暖化に対する切り札が現れないため、CCS利用の検討を続けざるをえないのです。

──それでは、CCSとはどのような技術なのでしょう?

西尾:排出源からのCO2を分離・回収して大気中に出さないように貯留する技術です。CO2の貯留場所としては、3つしかありません。つまり、大気圏外、地中、海洋の3つですが、ロケットで打ち上げる必要のある大気圏外はコスト面から論外ですから、残るは地中と海洋ということになります。

石油やガスを掘り出したところにCO2を埋め戻してしまおうというのが、地中貯留の発想の原点です。石油が何十万年と封じ込められていたのだから、ちょっとやそっとではCO2も出てこないだろうというわけですね。そして、どうせ埋めるなら石油やガスの採掘促進に使ってしまえというのが、石油増進回収(EOR:Enhanced Oil Recovery)やガス増進回収(EGR:Enhanced Gas Recovery)。さらに、油田・ガス田だけでは貯留場所として不十分なので、帯水層にも目が付けられました(帯水層は、砂岩など粒子間の隙間が大きく、地下水などで飽和している地層)。

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地中貯留技術の概念図(経済産業省産業構造審議会地球環境小委員会資料:2006.5.18より)。陸域でも海域でも、貯留場所は大規模排出源の近くでないとコスト的なメリットがない。

一方の海洋貯留ですが、こちらは溶解希釈方式と深海底貯留隔離方式の2つに分けられます。前者は回収したCO2をパイプラインや船で輸送し、深度1000~2500mの海水中へ溶かし込むというもの。元々海中には大気中の数十倍以上ものCO2が溶け込んでいるのですが、CO2の人為的な排出に海の吸収が追いつかなくなっているので、それを人間が手助けしようということです。後者の深海底貯留隔離方式では、深度3000mより深い深海底にCO2を送り込んで溜めておこうというものです。

──CO2が漏れてくることはないのですか?

西尾:適切に管理された地中貯留ならば1000年後でも99%のCO2が保持される可能性が高いと、IPCCの特別報告書で報告がなされています。

溶解希釈方式の場合、温度成層と呼ばれる、暖かい海水と冷たい海水の境目を超えてCO2を溶解させれば、溶かしたCO2が海面に直接上がってくることはありません。また、深海底貯留隔離方式の場合、CO2には300気圧以上の圧力がかかり、周りの水よりも重くなります。こうなると湖のような状態になって、そうそう浮かび上がることはないでしょう。

ただし、海水は数百年から2000年、3000年という時間をかけた循環により、全体が混ざっていき、海中に溶けているCO2も最終的に大気との平衡関係を作っていきます。大気中のCO2濃度が高く、十分に海水への溶解希釈ができていれば原理上大気には戻ってきません。IPCCの特別報告書によれば、CO2を導入する深度により数百年間、60~85%のCO2は貯留可能です。

エネルギーの主力は石炭火力になる!

──そもそもCCSで貯留するCO2は、どこから集めてくるのでしょうか?

西尾:コストに見合うようにCO2を集めようと思ったら、濃度が高い排出源から集めるのが効率的です。CO2を大量に排出しているのは、火力発電所、製鉄所、化学プラントなどです。現在、日本全体のCO2総排出量は約12億7000万t(CO2換算)。このうち、発電で約4億t、製鉄で約1億tを占めています。発電の中でもCO2排出量が多いのが石炭火力発電所で、CCSで削減しようとしているのは、おもにこの石炭火力発電所からのCO2です。

──今さら石炭というのは、ちょっと意外な感じを受けます。

西尾:石油はあと40年程度で枯渇するといわれています。原子力には根強い反対論もありますし、低コストな代替エネルギーはまだ実現できていません。100年単位で利用できるエネルギー源は今のところ石炭だけなのです。現に米国も発電の5割が、中国でも7割程度が石炭火力です。しかし、石炭を燃やすと大量のCO2が出る。それならばCCSでCO2を削減して、石炭でエネルギーをまかなうようにしようというわけです。

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プロフィール

1970年生まれ。雑誌編集者を経て、フリーの編集者・ライターとして独立。ネットカルチャー・IT・環境系解説記事などで活動中。『進化するケータイの科学』、『弾言』(小飼弾氏との共著、アスペクト)、『マグネシウム文明論』(矢部孝教授との共著、PHP新書)など。ブログは、こちら

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