このサイトは、2011年6月まで http://wiredvision.jp/ で公開されていたWIRED VISIONのコンテンツをアーカイブとして公開しているサイトです。

高森郁哉の「ArtとTechの明日が見たい」

アートと技術、オーディオビジュアル、メディアをめぐる話題をピックアップ

『アリス・イン・ワンダーランド』レビュー:摩訶不思議な映像世界を3Dで

2010年4月 9日

Alice_In_Wonderland.jpg
© Disney Enterprises, Inc. All rights reserved.

[ストーリー]
1855年、ロンドン。6歳のアリスは、不思議な生き物たちが出てくる奇妙な夢に怯えていた。自身の正気を疑うアリスに、冒険心あふれる父親は「優れた人はみんな変わってるんだ」と言い聞かせる。
13年後、父親がすでに他界し、想像力豊かな美しい19歳の娘に成長したアリスは、退屈な貴族の男から求婚されるが、困惑して逃げ出す。その前に現れたのは懐中時計を持った不思議な白うさぎ。アリスは白うさぎを追って、“うさぎ穴”に落ち、ワンダーランドに迷いこんでしまう。
この世界の奇妙な住人たちは、なぜか皆アリスを知っていた。しかも、 残忍な“赤の女王”の恐怖政治に苦しむ彼らにとって、アリスは伝説の救世主だというのだ。子供の頃にこの世界で冒険を繰り広げたことを忘れているアリスは、元の世界に戻ろうとするが、いつの間にかワンダーランドの運命を賭けた戦いに巻き込まれていく…。
(プレス資料より)

ルイス・キャロルの19世紀の児童文学『不思議の国のアリス』をベースに、続編『鏡の国のアリス』の要素も加え、ダークでエキセントリックなファンタジーを得意とするティム・バートン監督が驚異の映像で創造したオリジナルストーリー。原作からの最も大きな変更点は、19歳のアリスの物語として描いたこと。自我と世界の関係性に悩み、自己の存在さえも疑ってしまう、まさに「大人の階段登る」年頃の苦悩を、幻想(あるいは夢)の世界での奇妙な体験に投影し、シンデレラというよりはジャンヌ・ダルクのように、やがて自由と正義のために戦う運命を自ら選択するという成長の過程を巧みに描いている。

疎外感を覚え苦悩する異形の者たちを愛情込めて描き続けてきたバートン監督のファンなら、漫画チックに巨大な頭にデフォルメされた赤の女王(ヘレナ・ボナム=カーター)や、卵のような体型のトウィードルダムとトウィードルディー、そして派手なメイクに異様な瞳で狂気を発散しているマッド・ハッター(ジョニー・デップ)たちが出てくるだけで嬉しくなるだろう。白の女王(アン・ハサウェイ)はルックスこそまともだが、過剰にエレガントな腕と手の所作はやはりどこか壊れている印象を与え、『マーズ・アタック!』の「火星ガール」のゆらゆらした腕の動きも思い出させた。

CGで描かれた個性的な動物キャラたちもそれぞれに楽しいが、自在に出没し空中を浮遊するチェシャ猫が特に印象的で、ラッコをモデルにしたような空中遊泳の動作も愛らしい。そして、水タバコを吸う賢者のイモ虫「アブソレム」の役どころも重要で、アリスと存在をめぐる対話をし、物語の最後で蝶になって再び現れる。原作ですでに指摘されていた荘子の「胡蝶の夢」(夢から覚めたら、自分が蝶の夢を見ていたのか、蝶が人間になった夢を見ているのか、どちらなのか分からなくなったという話)との共通点を改めて想起させ、英国から中国への交易ルートのくだりも意味深だ(19世紀半ばといえば、アヘン戦争が終わって間もないころ)。そういえば毒々しい色合いの巨大なマッシュルームも出てくる。

3D映像に関しては、撮影は通常のカメラで行われ、ポストプロダクションの段階でソフトウェアを使って3D化したこともあってか、立体感はさほど強調されず、映像の世界に自然に引き込まれる感覚だった。ただしこれは試写室でのドルビー3D方式での上映が関係している可能性もあり、別の方式(ディズニーデジタル3D、XpanD、IMAX 3D)ではまた違った印象になるのかもしれない。極端な飛び出し効果などはないが、うさぎ穴に落ちるシーンや終盤のアリスとジャバウォッキーの戦闘シーンなどはやはり3Dによる臨場感が活きていた。

ディズニー作品ということもあって、子供が見て間違いなく楽しめるユニークなキャラクターたちと分かりやすい成長物語を中心に描きながら、大人の観客にも深く考え込ませるテーマ、問題をはらむ要素をさりげなく配置し、作家性もしっかり刻み込む。バートン監督の手腕もさることながら、カルフォルニア芸術大学時代のクラスメートだったジョン・ラセターという“同志”がピクサー買収に伴い2006年からディズニーで要職についていることも無関係ではないだろう。ディズニーの“改革開放”は着実に進んでいる。ピクサーの一連のアニメ作品と同じく、「大人の視点でも楽しめる作品」という基準を確かに満たし、バートン風味がしっかり詰まった代表作の1つとなった。

[作品情報]
『アリス・イン・ワンダーランド』 原題 Alice in Wonderland
監督:ティム・バートン
出演者:ミア・ワシコウスカ、ジョニー・デップ、ヘレナ・ボナム=カーター、アン・ハサウェイほか
2010年4月17日(土)より全国ロードショー
ディズニー公式サイト

[下はエンドロールで流れるアヴリル・ラヴィーンの『Alice(Underground)』のPV]

[翻訳ニュースの関連記事]
チェシャ猫はどんな顔? 新作映画『不思議の国のアリス』の画像から
新作映画『不思議の国のアリス』、トレーラーと画像

[当ブログの関連記事]
『コララインとボタンの魔女3D』:ストップモーションアニメと3D、新旧映像技術の幸せなマリアージュ
『DESNEY'S クリスマス・キャロル』:ゼメキス監督らしい大人向けファンタジー
『Dr.パルナサスの鏡』レビュー:ギリアム・マジック健在、悲劇乗り越え奇跡のコラボ

フィードを登録する

前の記事

次の記事

高森郁哉の「ArtとTechの明日が見たい」

プロフィール

フリーランスのライター、翻訳者としての活動を経て、2010年3月、ウェブ・メディア・地域事業を手がける(株)コメディアの代表取締役に。多摩地域情報サイト「たまプレ!」編集長。ウェブ媒体などへの寄稿も映画評を中心に継続している。

過去の記事

月間アーカイブ