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高森郁哉の「ArtとTechの明日が見たい」

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映画『アバター』:ゼロ年代の最高傑作をお見逃しなく

2009年12月20日

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©2009 Twentieth Century Fox. All rights reserved.

公開に先立ち20世紀フォックス映画試写室で2D字幕版を、またTOHOシネマズ六本木で3D(XpanD方式)字幕版を鑑賞できたが、2度目に観たときの方が感動が大きかった。初回で脚本と全体像を把握したことにより2回目では各キャラクターの関係性や背景の描き込みなど細かい部分まで確認できたこと、3Dの方がより没入感があり作品世界を深く体感できたことなど、いくつかの要素が重なったからだが、いずれにせよ、繰り返しの鑑賞に堪えるゴージャスさと緻密さを兼ね備えた10年に1本の傑作であることは間違いない。

22世紀、元海兵で下半身不随のジェイク(サム・ワーシントン)は地球から遠く離れた衛星パンドラに赴き、「アバター・プロジェクト」に参加する。この星の先住民ナヴィと人間のDNAを組み合わせたハイブリッド生体「アバター」(分身)を、リンクマシンを通じて遠隔操作するというもので、アバターに入れば人体に有毒なパンドラの大気でも自由に活動できる。ジェイクに託された任務は、先住民の部族に接触し、信頼を勝ち取って、貴重な超伝導性の鉱物「アンオブタニウム」の採掘に必要な情報を得ること。

ジェイクは、最初に出会った族長の娘ネイティリ(ゾーイ・サルダナ)に導かれ、部族の仲間として認められるため数々の試練を乗り越えるとともに、すべての生命が特殊なネットワークを通じて共生するパンドラの生態系についても学んでいく。その一方で、採鉱のために森林伐採と居住地破壊を強行しようとする企業と海兵隊の姿勢に疑問を抱き、星の運命を決する選択を迫られることになる――。

大筋としては、先住民と開拓民の対立、自然環境を破壊する技術文明への批判、開拓民側のヒーローと先住民側のヒロインの恋という、過去の作品でもたびたび描かれてきたテーマを踏襲している。ハリウッド映画では『ダンス・ウィズ・ウルヴス』やディズニーアニメの『ポカホンタス』(同じ題材の実写版は『ニュー・ワールド』)、日本映画では『もののけ姫』、比較的マイナーな作品では1992年のオーストラリア製アニメ『不思議の森の妖精たち』などとの類似点が認められる(特に最後の『不思議の森~』については、倒木でできた橋を渡る構図や、森林をブルドーザーがなぎ倒す場面など、『アバター』が元ネタにしたと思しき要素がいくつかあるので一見の価値あり)。

ただしジェームズ・キャメロン監督(脚本も兼ねる)の人並み外れた、もはや「神業」とでも言うべきすごさは、そうしたテーマをSFの舞台に置き換える際、主人公が訪れる「新世界」を丸ごと――青い肌と長躯を持つナヴィの種族と彼らが話す言語、バラエティに富む多種多様な動植物、ネットワークでつながった生態系(「ガイア理論」の影響も感じられる)、山のような巨岩が空中に浮かぶ印象的な景観(こちらは『ガリヴァー旅行記』の空飛ぶ島「ラピュータ」が元ネタ)まで――創造してしまった点だ。地球の陸生動物と海洋生物をミックスしたデザインのクリーチャー、言語学者の協力を得て作り出したナヴィの言葉など、既知の科学や文化を基にしながらも、最新のCG技術と巧みな演出が創造物すべてに生命を吹き込み、観客は眼前に息づいているもの、今そこで実際に起きていることを目撃しているような気になる。

そうした臨場感には、3D映像が大いに貢献している。本作の3D版では意外なほど飛び出し効果が控え目で、その代わりに手前の被写体の立体感と背景の奥行き感を両立させた映像が基本となり、しばしば自分が3Dメガネをかけて3D映画を観ていること自体を忘れてしまう。そのくらい自然な映像体験なのだ。とはいえ、冒頭でジェイクが目覚めてカプセルから出たときのパースペクティブを強調した船内のショットなど、3D映像ならではの印象的な構図も用意されている。また、2D版では確認できないことだが、映画の中に出てくるディスプレーの映像や写真も立体的に見える。登場人物たちは3Dメガネをかけていないので、22世紀の世界では「裸眼で3D」が普及しているという未来予測にもなっているわけだ。

『アバター』では「見る」という行為がテーマと密接につながっている点も興味深い。ナヴィ族に特有の表現(の翻訳)として"I see you"(あなたが見える)という台詞が繰り返されるが、これは外見だけでなく心まで見通せるという意味を含む。人を見る、情報を見る、映画を観るなど、「みる」ことは確かに重要だが、その先には相手の「心」が必ず存在し、それが伝わるかどうか、感じ取れるかどうかがさらに大切なのだというメッセージが込められている。外見でなく心を理解し合うことは、「異なる存在たちの共生」というもうひとつの大テーマともつながる。ある印象的なシーンで語られる"I see you."には大勢が感涙することだろう。

ほとんど文句のつけようがない傑作だが、あえて難点を挙げるとすれば、まずアンオブタニウムの扱いだろうか。斥力の特性とキロ2000万ドルの価値を持つ希少な鉱物という説明だが、空中に浮かぶ巨岩にも大量に含まれるはずなのに、人間たちはなぜかこの巨岩群を素通りして、ナヴィ族が死守する聖地(その地下に鉱脈がある)に犠牲を覚悟で攻撃を仕掛ける(道ばたに落ちている札束や宝飾品に目もくれず、武装した警備員が守る銀行に押し入る強盗のようなものだ)。もし巨岩が鉱物を含まず地下鉱脈からの斥力によって浮かんでいるとすれば、この一帯で撃破された機体や人が落下することと矛盾する。この巨岩から滝が途切れなく流れ落ちていること(水源はどこに?)も含め、おそらくは科学的な可能性よりも見た目のインパクトを優先したのだろう。

「エモーション・キャプチャー」と名付けられたモーションキャプチャーの改良技術によって描画されたナヴィとアバター、モデルとCGで描き分けられたアンプ・スーツやビークル、完全にCGで創造されたクリーチャーと背景のジャングルは、そのリアリティーと迫力に圧倒されてしまうが、動物たちが群れになって疾駆するシーンでは遠景のほうのクリーチャーに若干不自然な動きが見受けられた。

字幕翻訳についても、ラボでアバターの説明をしている場面での"remote control"は「リモコンで操る」ではなく「遠隔操作する」としてほしかったし、ジェイクがナヴィの族長に自分の所属を"jarhead clan"と自嘲気味に説明する台詞(ジャーヘッドは「空っぽの頭」を含意する海兵隊員の蔑称で、シガーニー・ウィーバー扮する博士からさんざん馬鹿にされていたことを受けている)が単に「海兵族」と訳されるなど、細かなニュアンスを伝え切れていない部分がいくつかあった。

とまあ、ごくマイナーな欠点はあるにせよ、過去のSF、アドベンチャー、ファンタジー、軍事アクションといったジャンルの映画の集大成であり、3Dをフルに活用した体感型映像の新境地でもある歴史的な作品なので、その壮大なスケール感とリアルな没入感をぜひ多くの人に映画館で体験してほしいと願う。

最後になるが、本作の日本公開は当初、米国を含む各国に合わせて12月18日に予定されていたものの、おそらく20世紀フォックス映画が昨今の日本での洋画不振と、本作のプロモーションの遅れを懸念したのだろう、11月に入ってから急遽、封切りを12月23日に延期した。そして5日遅らせたことで、キャメロン監督の来日が実現し、PRの一環として21日午後3時15分からニコニコ動画での独占インタビュー生放送も予定されている。異例の公開日変更と日本での特別なプロモーションが、興行成績にどう影響するかも注目していきたい。

[公開情報]
『アバター』 原題 Avatar
12月22日(火)3D特別前夜祭(一部劇場を除く)
12月23日(水・祝)TOHOシネマズ日劇他にて全国超拡大ロードショー
公式サイト
20世紀フォックス映画 配給

[関連エントリ]
『アバター』プロデューサー、ジョン・ランドー氏にインタビュー
そして3D映像は“必然”になった--「アバターの日」@川崎IMAX
『Avatar』、映画史を変えるか--24分の3D映像が初披露

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プロフィール

フリーランスのライター、翻訳者としての活動を経て、2010年3月、ウェブ・メディア・地域事業を手がける(株)コメディアの代表取締役に。多摩地域情報サイト「たまプレ!」編集長。ウェブ媒体などへの寄稿も映画評を中心に継続している。

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