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高森郁哉の「ArtとTechの明日が見たい」

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『アバター』プロデューサー、ジョン・ランドー氏にインタビュー(1)

2009年11月 8日

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© 2009 Twentieth Century Fox. All rights reserved.

ジェームズ・キャメロン監督とプロデューサーのジョン・ランドー氏は、1997年に公開され約18億5000万ドルという映画史上最高の世界興収を記録した『タイタニック』を送り出し、また今年最大の話題作にして超大作の3D実写映画『アバター』(12月23日日本公開※)でもタッグを組む“ハリウッド最強の名コンビ”。ランドー氏はさらに、同監督の今後手がける『Battle Angel』(木城ゆきと氏の漫画『銃夢』を原作とする3D映画)と『The Dive』(2人のダイバーによる愛の物語を描く3D映画)でもプロデューサーを務める。
[※当初の12月18日から変更された。17日に予定されていた「3D前夜祭」も中止となっている。]

東京国際映画祭では10月17日夜に『アバター』の27分間の映像を上映する「アバター・スペシャル・プレゼンテーション」が実施され、これに合わせて主要キャストと共に来日したランドー氏。ありがたいことに筆者は、ランドー氏の合同インタビューに参加する機会を得た。

プレゼンテーション開始の数時間前の夕刻、3媒体合同で時間も30分という限られた条件ながら、『アバター』の内容やキャメロン監督、3D映像技術に関して直接質問し、答えてもらうことができた。さらに、先述の『Battle Angel』に関しても少しだけ話を聞かせてもらえた。

以下のインタビュー記事では、他の2媒体の聞き手を便宜上「D誌」「F誌」と表し、筆者による質問は「WV」と記す。なお、他誌の質問とその答えは要約、割愛した部分もある。

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D誌:本作の見どころと物語のメッセージを教えてもらえますか。

ジョン・ランドー氏(以下敬称略):物語のハイライトは、最もヒーローらしくない人物、主人公ジェイク(サム・ワーシントン)が結果的にヒーローになるところ。その行動によって自分だけでなく、世界全体をも救うことになるという部分だと思います。良くできたSFは現実世界のメタファーになっている。私たちの行動がいかに周りの人々や世界に影響を与えるかということを考えてもらいたい。また、他者を外見や肌の色で判断しないでほしい、という願いもあります。ジェイクははじめ危険な場所に入り込み、そこに住む人々が恐ろしい存在なのではないかという先入観を持っていますが、自分の目を見開き、いかに彼らやその世界が美しいかということを理解します。

WV:ジェイクの意識がリンクマシンを通じて最初に「アバター」の中に入ったとき、アバターから見た視点が観客に示されるショットがあります。その後アバターの体と目を通して衛星パンドラを探検し、ナヴィたちに出会うのですが、それはジェイクの体験であると同時に、観客の体験でもあることを予告しているショットのように感じました。

ランドー:この映画でジェイクは「旅」(journey)の役割を果たしています。ジェイクの体験を通じて、私たちはパンドラの世界を体験し、旅することになります。はじめジェイクは、この旅がまったく異なる結果になると想定して出発します。彼は軍に有益な情報を与える任務を引き受けます。しかし、(ナヴィたちと関わりを持ち、彼らを理解して)結果的に軍と戦うことになるのです。

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© 2009 Twentieth Century Fox. All rights reserved.

WV:先に挙げたショットで、アバターの左右の目から見た像がはじめ二重になっていて、それがぴたりと一致して立体像を結ぶ描写などから、ジェイクがアバターに入り込んで冒険や恋愛を体験するというストーリーと、3D映画に観客が没入して体験することが密接につながっている印象を受けました。『アバター』と3Dは素晴らしい組み合わせだと思いますが、キャメロン監督にとって、物語の着想が先にあって後から3Dで製作することに決めたのか、3D映画を最大限に活かす物語として筋を考えたのか、どちらだったのでしょう?

ランドー:ジム・キャメロンが3D映像に最初に携わったのは、ユニバーサルスタジオのテーマパークのアトラクション、『T2 3D』でのことでした。ジムはその結果には満足したのですが、製作過程では嫌になるような体験をしました。撮影に使われたカメラは150キロもするような重いもので、速く動けないカメラに合わせて、スタントマンも通常の半分のスピードで走る必要がありました。しかし、撮影された映像を観るという体験は非常に素晴らしく、将来性を感じさせるものでした。

1999年に私たちがミクロネシアへ休暇で行ったとき、HDカメラを持ってスキューバダイビングに出かけました。水中でのHDカメラ撮影は取り回しが容易で、照明もそれほど多くは必要なく、録画された映像もとても良かった。ジムはこのとき、HDカメラで映画が撮れることに気づいたのです。その旅行の帰路で、彼はHDカメラを横に2台並べて、3D映像を撮影することを考え始めました。

その数ヵ月後、東京を訪れてソニーの技術者と会い、カメラを改造して左右のレンズの距離をせばめ、重量もできるだけ軽くしたいと話しました。ソニーはその要望通りカメラを改造し、大きさも元のままで作ってくれました。映像を記録する部分をカメラ本体部から切り離し、ケーブルでつなげることで、本体の軽量化と小型化を図っていました。そして2台のカメラを型にはめて、実際の人間の目が見ているような状態に設置しました。人間の両目は被写体の距離に応じて視線が交差する角度を変化させますが、このカメラでもそれをコントロールできるようにしたのです。これによって撮影された3D映像が見やすいものになります。

その後ジムは、IMAXのドキュメンタリー作品として『ジェームズ・キャメロンのタイタニックの秘密』(Ghosts of the Abyss)と『エイリアンズ・オブ・ザ・ディープ』(Aliens of the Deep)の2本を3Dで撮りました。この2作を通じて学んだことをもとに、さらにカメラを改良し、『アバター』での撮影に使えるカメラを開発しました。

3Dで映画を作ることについて、ジムはこんなことを言っています。「ステレオ音響がすでにあるのに、敢えてモノラルにする必要があるのか、ということと同じ。通常の2D映画と同じような作業で3D映画が撮れるのであれば、なぜ3Dで作らないのか。しかも、昔の赤と青のフィルターを使ったメガネで見るのではなく、現在の高画質の3D映画ができるなら、それを選ぶのが当然ではないか」と。

(2へ続く)

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プロフィール

フリーランスのライター、翻訳者としての活動を経て、2010年3月、ウェブ・メディア・地域事業を手がける(株)コメディアの代表取締役に。多摩地域情報サイト「たまプレ!」編集長。ウェブ媒体などへの寄稿も映画評を中心に継続している。

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