このサイトは、2011年6月まで http://wiredvision.jp/ で公開されていたWIRED VISIONのコンテンツをアーカイブとして公開しているサイトです。

高森郁哉の「ArtとTechの明日が見たい」

アートと技術、オーディオビジュアル、メディアをめぐる話題をピックアップ

『Disney'sクリスマス・キャロル』とゼメキス監督:次作は『イエロー・サブマリン3D』?

2009年9月 1日

上映会で観た3D映像の印象

Disney%27s%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%9E%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%AD%E3%83%AB.jpg8月25日、新宿ピカデリーにて『Disney’sクリスマス・キャロル』の3D特別フッテージ上映会が行なわれた。日本では11月14日の本作、ディズニーのクリスマスものと聞いて「ああ子供向けか」と思う人もいるかもしれないが、左の画像からもわかるように、これはかなりダークな要素も含む映画だ。ディケンズの原作小説『クリスマス・キャロル』を読んだ人ならご存じの通り、守銭奴で人嫌いの老人スクルージが霊たちの訪問を受け、自分の過去や未来を見せられることで人生の意義と価値を問い直すという物語は、むしろ大人になってからの方が切実に受け止められる。

ロバート・ゼメキス監督はこの古典的名作を、最新のパフォーマンス・キャプチャー技術を使った3D映画として製作。同技術は身体の動作だけでなく表情の微妙な変化をもデジタルデータとしてコンピューターに取り込み、ソフトウェア上でレンダリングしてCDキャラクターを作り上げるもので、実写に限りなく近いリアルな演技(パフォーマンス)とCGアニメの自由なキャラ造形を両立できる。ゼメキス監督がこの技術を最初に使って話題を呼んだ『ポーラー・エクスプレス』(2004年)と、『ベオウルフ/呪われし勇者』(2007年)に続き、第3弾の“パフォーマンス・キャプチャー3D映画”として送り出すのが本作、『Disney’sクリスマス・キャロル』というわけだ。

3Dフッテージ自体は約5分で、その4日前に観た『アバター』の15分の映像に比べると正直物足りなかったが、ジム・キャリー演じるスクルージの鼻やあごが突き出た顔の立体感、19世紀英国ヴィクトリア朝の建築の質感が再現された室内の奥行き、夜空から舞い落ちる雪片が画面から浮き出る感じなど、3D映像の利点を活かした画面構成や演出が確認できた。また、半透明の亡霊が扉を通り抜けて前面に飛び出してくる場面や、スクルージが霊とともに猛スピードで空を飛ぶシーンも、やはり3Dならではの迫力と魅力があった。

パフォーマンス・キャプチャーの最大の特長は、俳優の演技を撮影したデータの上に、CGで創造したキャラクターを自由自在に“トッピング”できることだ。『ポーラー・エクスプレス』では主演のトム・ハンクスが5役を演じたことで話題になったが、今作でもジム・キャリーがスクルージのほか、過去・現在・未来のクリスマスの霊など全7役に挑戦している。スクルージ老人はご覧の通り特殊メイクばりにデフォルメされた容姿だが、上映会にてスチルで披露された青年時代のスクルージはジム・キャリー本人に近い美男子なので、彼の女性ファンもご安心を。

同じくディズニー配給で12月5日公開の『カールじいさんの空飛ぶ家』、12月18日公開の『アバター』と、今年注目の3D映画が相次いで封切られるこの冬、いわば“3D映画冬の陣”の先陣を切る格好となる『Disney’sクリスマス・キャロル』。2D方式も同時に上映されるが、可能であればぜひ3D版を鑑賞して作品の魅力を存分に味わっていただきたい。

ゼメキス監督の今後の作品

芸能業界誌『Variety』は8月19日、ディズニーとゼメキス監督がアニメ映画『イエロー・サブマリン』のリメイク権獲得に向けて交渉中と報じた。1968年に英国で製作された『イエロー・サブマリン』は、ビートルズのメンバー4人のアニメキャラが活躍するファンタジーで、全編にビートルズの楽曲が使用されている(以下の動画は予告編)。

Varietyの記事によると、ゼメキス監督らはこれもやはりパフォーマンス・キャプチャー3D映画として製作する模様で、2012年夏のロンドン五輪に合わせてプレミア上映を目指すという。ディズニーは、ゼメキス監督が1997年に共同設立したCGアニメーションスタジオのImageMovers(『ポーラー・エクスプレス』と『ベオウルフ/呪われし勇者』を制作)を2007年に買収し、ImageMovers Digitalと社名変更している。『イエロー・サブマリン』の3D版リメイクの契約がまとまれば、ImageMovers Digitalとしては『Disney’sクリスマス・キャロル』と『Mars Needs Moms!』(サイモン・ウェルズ監督、2010年公開予定)に続く第3作となりそうだ。

ゼメキス監督はまた、ドキュメンタリー映画『マン・オン・ワイヤー』で日本の映画ファンにも知られるようになった綱渡り師、フィリップ・プティの生涯を描く作品にも取り組んでいる。これはプティが昨年7月のインタビューで明かしたもので、自伝『To Reach the Clouds』(邦訳『マン・オン・ワイヤー』、白揚社)に基づく長編映画になるという。実写かアニメか、あるいは2Dか3Dかといった詳細は不明だが、たとえば世界貿易センターの間を綱渡りするシーンが一人称視点の3D映像で再現されたら、これは相当にスリリングでファンタスティックな映像体験になりそうだ。インタビューのあと順調に進展していれば、こちらの方が『イエロー・サブマリン』リメイクより先に公開となるかもしれない。

[『Disney’sクリスマス・キャロル』作品情報]
原題 A Christmas Carol
原作:チャールズ・ディケンズ『クリスマス・キャロル』
監督/脚本/製作:ロバート・ゼメキス
出演:ジム・キャリー、ゲイリー・オールドマン、コリン・ファースほか
配給:ウォルト・ディズニー・ピクチャーズ・ジャパン
公式サイト:http://www.movies.co.jp/
(c) Disney Enterprises, Inc. All rights reserved.
一部劇場にてディズニーデジタル3D同時公開
2009年11月14日(土)より全国ロードショー

[関連エントリ]
3D映画特集(1):IMAX技術者が語る「ハリポタ」の3D変換技術
PopSciの「不気味の谷ツアー」動画:日本の技術も多数登場

フィードを登録する

前の記事

次の記事

高森郁哉の「ArtとTechの明日が見たい」

プロフィール

フリーランスのライター、翻訳者としての活動を経て、2010年3月、ウェブ・メディア・地域事業を手がける(株)コメディアの代表取締役に。多摩地域情報サイト「たまプレ!」編集長。ウェブ媒体などへの寄稿も映画評を中心に継続している。

過去の記事

月間アーカイブ