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高森郁哉の「ArtとTechの明日が見たい」

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「裸眼で3D」の愉悦:動画対応の3Dフォトフレーム『SDP818』を試す

2009年8月28日

今月、富士フイルムが3Dデジカメ『FinePix REAL 3D W1』と3Dビューワー『FinePix REAL 3D V1』を売り出した。特に後者は予想を上回る予約注文のため発売が2週間ほど延期されたことからも、3D映像関連製品に対する関心の高さがうかがえる。

さて、富士フイルム製のビューワーと同様に、3Dの静止画や動画を裸眼で鑑賞できる3Dフォトフレームがもう1つ存在する。それが今回取り上げる2D/3Dマルチメディア・フォトフレーム『SDP818-TEX』だ。同製品を販売する株式会社テクネより試用機をお借りできたので、写真も添えて紹介していこう。

PB.jpg裸眼で3D映像が見える仕組み

SDP818では、パララックスバリア(parallax barrier)方式の液晶ディスプレーを採用することにより、専用メガネを使用せず裸眼で3Dの画像や動画を鑑賞することが可能になっている(富士フイルムのビューワーも同じ方式)。なお、parallaxとは「視差」のこと。

左の図(テクネのこちらのページより引用)を見るとわかるように、画像表示用のLCDの手前に、バリアを生成するLCDが配置されている。3D表示の際には、視認できない程度に細い縦縞のスリットが生成され、同時に奥のLCDには右目用の画像と左目用の画像が交互に表示される。鑑賞者がバリア越しにLCDを見ると、右目用の画像が右目に、左目用の画像が左目にそれぞれ入り、それらが脳内で合成されることで立体感を認識できる。

付属のメディアファイルを試す

3dPhoto.jpgSDP818にはサンプルデータを収録した2GBのSDカードメモリが付属し、スロットに装填された状態で出荷されるので、開梱してACケーブルを挿し、電源スイッチを入れればすぐに鑑賞できる状態になる。本体に充電池が内蔵されていて、バッテリー駆動時間は約3時間とのこと。

操作は本体前面の右にあるタッチパネルか、リモコンで行う。左目用の画像と右目用の画像が横に並ぶサイドバイサイドのJPGファイルは、2Dモードで表示すると(写真1)のようになる。ここから2D/3D切り替えボタンを押すと、瞬時にパララックスバリアがオンになり、被写体の立体感と背景の奥行きを伴うステレオ画像として表示される(写真2)。

本機に搭載されている8インチのTFT液晶パネル(800×480ピクセル表示)はサムスン電子製で、本体の開発・製造元は中国の3D専門メーカーInlife-handnet社。テクネはこれに自社開発の3D画像制作ソフト3点セットと日本語マニュアルをバンドルして販売している。メニューの言語は英語/中国語/ノルウェー語からの選択で、日本語には未対応だが、英語メニューならごく簡単な英単語しか使われていないのでまず大丈夫だろう。

fish3d.jpg次に動画のサンプルデータを試してみる。水族館で3D撮影されたAVIファイルが1本サンプルとして用意されていて、選択すると軽やかなBGMとともに水槽の中の魚たちが優雅に泳ぎ出す(写真3)。水槽の手前を横切る小型の魚、中ほどに漂うフグ、奥の岩肌などが、はっきりとした距離感を伴って認識でき、しかもこのステレオ映像を裸眼で鑑賞するというのが実に新鮮で開放感のある体験だ。

専用メガネを使わずに3D写真や3D動画を楽しめるのがパララックスバリア方式の一番のメリットだが、この方式ゆえの短所もある。縦縞のスリットで左右の画像を振り分ける仕組みなので、きちんと立体像を結んで見えている状態から少し頭を横にずらすと、奥の画像表示とバリアの位置関係がずれてしまい、立体感が損なわれてしまうのだ(さらにずらすと、また立体的に見えるようになるが)。これがたとえば2時間の映画なら、ちょっと頭を動かすたびに映像が乱れてしまい気が散って映画に集中できないだろうが、数分程度の動画や写真スライドショーを気軽に眺めるぶんにはさして問題にならない。パララックスバリア方式はフォトフレームのサイズでカジュアルに楽しむ3D映像に適しているということだろう。

またSDP818は、2Dの写真や動画を擬似的に3D表示する機能も備える。きちんとステレオ撮影された素材に比べれば立体表現の効果は限られるが、ギミックとしては面白い。

写真と動画の表示のほか、MP3ファイルの音楽を再生する機能もある。本体背面にステレオスピーカーを内蔵するが、音質はそれなりなので、きちんと音楽を聴きたいならイヤホンジャックに外部スピーカーをつなぐといいだろう。

そのほか、時刻とカレンダーを表示するモードがあり、アラームの設定もできる。USB端子も備え、パソコンと接続してSDカードのファイルを編集したり、USBストレージを接続してファイルを読み込んだりできる。

『Minoru 3D』でステレオ撮影したファイルを再生

1ヵ月前に取り上げた3Dウェブカメラ『Minoru 3D webcam』でステレオ撮影した静止画や動画も、簡単な変換作業を経てSDP818で鑑賞することが可能になる。まず、Minoruのモード設定で「2画面モード 左/右」を、出力サイズで「1280x480」をそれぞれ選択(テクネより提供された検証リストによると、他のサイズで撮影するとフォトフレームでは横長に表示されるため、画像/映像編集ソフトで加工する必要がある)。画像の保存形式はJPG、動画はAVIを選ぶ。

BVM.jpg撮影したファイルは、SDP818-TEXに同梱されるビデオ・コンバーター『Blaze Video Magic』で本機再生に必要なMPEG4形式に変換する。直感的に操作できるインターフェース(画像4)のおかげで、ファイルを追加して出力先を指定し、変換を開始するという一連の作業が簡単に行なえる。

変換後の画像はSDカード内の「3D PHOTO」フォルダへ、動画は「3D VIDEO」フォルダへそれぞれ格納すれば準備OK。自宅内や自分を試し撮りした写真と動画が、SDP818で問題なく3D表示された。単純なようだが、自分が映っている3D動画を裸眼で鑑賞するのは何とも不思議な楽しさがあり、フォトフレームの中にいる「小さなもうひとりの自分」を眺めているような気分なのだ。家族や友人を撮影して一緒に眺めたり、被写体の配置や動線を工夫して3Dショートムービーを作ったりするとさらに楽しめそうだ。

YouTubeの3D動画をダウンロードして再生

YouTubeにアップロードされた3D動画を入手して、SDP818で視聴する方法を紹介する。まず下準備として、こちらのブログ(一見するとグーグルの公式ブログっぽいが、実際は無関係なので、インストールは自己責任で)から「YouTube動画をMP4ファイル形式でダウンロードする」ブックマークレットをブラウザに組み込む。説明にあるように、「Get YouTube video」と書かれたリンクをリンクバーにドラッグする(FirefoxとSafari)か、右クリックで「お気に入り」に追加する(Internet ExplorerとOpera)。

次にYouTubeで3D動画を検索。YouTubeの3D機能を利用して投稿する際のタグに"yt3d"が含まれるため、これをキーワードにして検索するとたくさん見つかる。気に入った動画があれば、そのページを開いた状態で先ほどブラウザに追加した「Get YouTube video」をクリックして、ダウンロードを開始する。ただし、おそらく動画作成時のコーデックか何かの条件で、Blaze Video Magicで適切な形式に変換できるものとそうでないものがある。

実際に変換できた中でおすすめは、上の「Hollywood 3d Sampler」と「Hollywood 3d Sampler 2」(これら2本は2Dのハリウッド映画のシーンをソフトウェアで3D変換したもので、「究極映像研究所」のこちらの記事でも紹介されている)、それに『ナットのスペースアドベンチャー3D』の予告編。また、FinePix REAL 3D W1で撮影された花火の動画も、問題なく変換できた。

star_wars_3d.jpgBlaze Video Magicでファイルをコンバートしたら、先ほどのMinoruのファイルと同じように、「3D VIDEO」フォルダに格納する。動画を再生すると、『スター・ウォーズ』などの映像がしっかりとステレオ表示された(写真5)。将来3Dバージョンが劇場公開される見込みの『スター・ウォーズ』シリーズだが、その一部をいち早く自宅で、しかも裸眼で鑑賞できてしまったような、ちょっとお得な気分が味わえた(念のため書いておくと、このサンプル動画はAnother World Inc.という会社の3D変換ソフトのデモ用に制作されたものらしく、ハリウッドのスタジオが製作した正式な3Dバージョンの映像ではない)。

まとめ:課題と期待

以上、画像と映像の3D表示を中心に、SDP818を試用してわかったこと、感じたことを書いてきた。使う前は内心、専用メガネを使わずにどの程度立体視できるのか疑わしく思っていた部分もあったが、実機の画面から出てきた写真や動画は、文句なく立体感や奥行きを楽しめるクオリティーだった。先にも書いたように、長時間の鑑賞には不向きだが、一回に数分か10分、20分程度の使用なら十分に満足できる。3DウェブカムのMinoruで撮影したファイルやYouTubeの動画で楽しみが広がる点も素晴らしい。言い添えておくと、SDP818と同じメーカーから3DHDコンパクトデジカメ『3DHDC-720X』がリリースされる予定で、発売時期と価格は未定ながら、やはりテクネが日本で販売する予定だという。

SDP818-TEXの価格は3万6000円(付属ソフトウエア3点セット共・税込)。ライバルとなるFinePix REAL 3D V1は、現在ネット通販で4万円台半ばから5万円前後で売られており、2~3割ほど割高になる。もちろん富士フイルム製のビューワーには日本語メニューや3Dカメラとの赤外線通信といった利点はあるが、基本的な性能ではそう差がないので、予算や用途に応じて自分に合ったものを選べばよいだろう。

3Dフォトフレームはすでに関心が高まっている製品カテゴリーで、今後さらに他社からも新製品が投入されるようになれば、メーカーや販社は競争が激化して大変だとは思うが、消費者の観点からすると選択肢が増えて価格も下がるだろうから楽しみだ。来年はパナソニックなどから3Dホームシアター製品が発売される見込みだが、裸眼で3D映像を楽しめるパララックスバリア方式の比較的小さなディスプレーも多分共存できるだろう。3Dフォトフレームの市場が拡大して一定のプラットフォームとして認識されるようになれば、映画会社が3D形式の予告編をYouTubeなどで配信する可能性も出てくる。欲を言えば、YouTubeから動画をダウンロードしてファイル変換して、といった作業が少々面倒なので、フォトフレームをパソコンのサブモニターに設定して、YouTubeで動画を再生したらそのままフォトフレーム上で3D表示されるようになれば、使い勝手が大幅に向上するだろうし、そうした方向に製品やウェブサービスが進化していくと面白いと思う。

SDP818-TEX製品ページ

[関連エントリ]
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プロフィール

フリーランスのライター、翻訳者としての活動を経て、2010年3月、ウェブ・メディア・地域事業を手がける(株)コメディアの代表取締役に。多摩地域情報サイト「たまプレ!」編集長。ウェブ媒体などへの寄稿も映画評を中心に継続している。

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