ワーナー・マイカル・シネマズが3D映画を普及推進--全国8000人規模の『ボルト』試写会も実施
2009年8月 6日
日本でも今年から公開作品数が増えてきた3D映画。製作プロセスが従来の2D作品と異なるのはもちろんだが、映画館側でも専用のデジタル映写機などの対応が必要になる。このデジタル3D上映システムの導入を2005年からいち早く進めてきたのが、大手シネコンのワーナー・マイカル・シネマズだ。今年6月には3D上映システムを従来の25劇場・25スクリーンから全国40劇場・51スクリーンへと倍増させ、国内ではトップシェアを誇る(全体では年内に約180スクリーンが3D対応になる見込み)。
今回は、株式会社ワーナー・マイカル 広報部の久世弘美氏にメールでの取材にご協力いただき、同社の3D上映システム導入と大がかりなPRキャンペーンについてうかがった。また、ディズニーの新作アニメ映画『ボルト』(3D日本語吹替版)の試写会が同社の全国40劇場で一斉に実施された7月31日、ワーナー・マイカル・シネマズ市川妙典(千葉県市川市)を訪ね、マネージャーの中村勇樹氏に3D映画の客足の様子やキャンペーン活動の内容と手応えをうかがった。
久世氏はワーナー・マイカルが3D対応スクリーンを一気に倍増させた理由について、「今夏『モンスターVSエイリアン』を皮切りに、メジャースタジオの3D作品が数多く予定されています。それに合わせて増設しました」と説明する。これに連動させて同社が全国規模で展開したのが、「デジタル3-Dシネマ無料体験上映会」などのキャンペーンだ。上映会では『モンスターVSエイリアン』『ボルト』の予告編とデモ映像を流し、3D映画を観たことがない人を中心にその楽しさを知ってもらった。そのほか、劇場内で立体的に見える「3Dポスター」を展示したり、劇場がある20のショッピングセンターに「3D立体液晶テレビ」を設置する(ウォルトディズニースタジオ モーションピクチャーズ ジャパン、日本BS放送と3社共同)といったプロモーションも実施した。
市川妙典では7番スクリーン(223席)がデジタル3D上映に対応するが、体験上映会のほかにも、6月19日に封切られた『トランスフォーマー/リベンジ』を同スクリーンで上映した3週間にわたり、毎回観客に3Dメガネを配布して上記2作品の3D予告編を観てもらったという。こうした地道なPRの効果もあり、同館で3D版と通常版をそれぞれ上映した『モンスターVSエイリアン』では、観客数比で「9対1以上の差が出た」と中村氏は話す。この比はあくまで一館の話ではあるが、従来は「(3Dの)動員は平均して2Dの2倍」で「『センター・オブ・ジ・アース』3Dでは、全国の動員は2Dの3倍以上と聞いています」(久世氏)というから、3D映画の人気が「モンエリ」で一気に爆発した様子がうかがえる。
8月1日封切りの『ボルト』は、その公開時期に加え、主人公が動物であること(一般的にファミリー層と女性層に受けがいい)、そしてディズニーのブランドから、「モンエリ」以上のヒットが見込まれる。前日の7月31日午後6時過ぎ、市川妙典の試写会の受付(写真1)に次々とやって来る招待客は、母親と小学生ぐらいの子供という組み合わせが多いようだ。同館では約110組の当選枠に対し、1301件の応募があったという。ちなみに、この日試写会を実施した40劇場での招待客数の合計は、じつに約8200人に達する。
先述の「3Dポスター」もロビーに展示されていた(写真2)。写真では分かりづらいが、ワーナー・マイカルのロゴがパターン化されたフレーム部分が特殊加工されていて、確かに立体的に見える。
受付スタッフの方から「Real D」方式の3Dメガネを渡され、試写会場に入る。ところで、ワーナー・マイカル・シネマズではこの試写会も含め、3D上映時のメガネを回収しない(持ち帰りできる)が、残念ながら今のところ劇場での鑑賞以外に使い道はない。資源の無駄のようにも思うが、回収して汚れや破損がないかどうかをチェックし、殺菌消毒して再パックして、というコストに比べると安上がりなのだろう。
上映前、マイクを持った中村氏がスクリーンの前に立ち、手短に作品の内容を紹介する。最初にピクサー製作の短編3Dアニメ『メーターの東京レース』が上映され、続いて『ボルト』本編が始まった。冒頭で子犬のボルトと少女ペニーが出会う場面から、愛らしいボルトの仕草や表情に客席の子供たちが引き込まれ、くすくす笑って喜んでいるのが伝わってくる。ほかにも、ボルトが「おねだり」の表情を猫のミトンズから教わるシーンや、ハムスターのライノが息で曇った運動ボールに指で目と口を描く場面など、「顔芸」的なものが総じて客席の反応が良かった。
終了後に数組の親子に感想をたずねたが、3D映像らしい表現では、ハトが手前に向かって飛んでくる映像が面白かった、というコメントが複数聞かれた。割合としては「初めて3D映画を観た」という人が多かったが、一様に大いに楽しんだようで、親子共に「もっといろんな3D映画を観たい」と話し、母親からは「大人向けの実写映画が出てきたらまた観に来たい」という声もあった。
大人向けの3D映画を望む声は、興行側とも一致している。「アニメーションが多いので、どうしてもお子様向け、ファミリーピクチャーのイメージを抱かれがち」と指摘する久世氏は、「メジャースタジオ制作の3Dアニメは、子供だけでなく大人も十分楽しめると思いますが、やはり今後、実写版で大作・話題作が出てくることを期待します」と述べる。その意味で、12月公開の『AVATAR』(ジェイムズ・キャメロン監督)や、秋公開の邦画『戦慄迷宮3D』(清水崇監督)には大いに期待をかけているという。また中村氏も、「『アリス・イン・ワンダーランド』(ティム・バートン監督)は先日公開された予告編を観て、ますます期待が高まっています」と話し、『スター・ウォーズ』(ジョージ・ルーカス監督)の3Dバージョンなど人気監督作の公開が続けば、大人の観客がもっと3D映画を観に来てくれて、3Dの素晴らしさを感じてもらえるのではないか、と予想している。
ハリウッドのメジャースタジオの3D作品増加に合わせて、上映体制を整えるとともに、普及のための取り組みを積極的に推進してきたワーナー・マイカル・シネマズ。その成果の一端が市川妙典での『モンスターVSエイリアン』の観客動員から見てとれるが、今月の『ボルト』やそれ以降の作品でも好成績をあげられるのかどうか、期待を込めて注目していきたい。また、3D映画が一過的なブームに終わらず、映画興行の主要部門として定着し、観客層が拡大して興収も増えて、さらに多くの資金が3D映画に集まって質の高い作品が続々と製作されて……という好循環になることを願っている。
[関連リンク]
ワーナー・マイカル・シネマズ
『ボルト』作品案内
(YouTubeのBoltMovieチャンネルでは、上の予告編のほか、3分程度の本編クリップ3本、1分のテレビCMバージョンが閲覧できる。)
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