第13回 プラットフォーム戦略から見たグーグル
2007年11月19日
(これまでの藤元健太郎の「フロントライン・ビズ」はこちら)
■多層プラットフォーム構造を持つグーグル
前回は携帯OSを中心としたプラットフォーム環境Androidについて言及した。ちょうどニューズウィーク誌が「グーグル危機」という特集を組んでいることもあり、この動きをもう少し俯瞰的に見たときにグーグルの戦略の中でどう捉えられるかを何回かに分けて勝手に推測してみたい。
グーグルという企業は有名なページランクの検索アルゴリズムをコアコンピタンスとしてスタートしているが、それがビジネスとして強い競争力を持って実現されるためには実現するインフラとそれをお金にマネタイズする仕組みが必要であった。逆に言えば多くのベンチャーが「このアルゴリズムはどこよりも凄い!」と自慢しても、全体として競争力を持つバリューチェーンができていなければ企業として大きくなることはできない。グーグルは初期の頃は検索エンジンのOEMビジネスという他社のバリューチェーンに依存するモデルであったが、現在の強さはそのバリューチェーンを自ら創り出し、それぞれのプラットフォーム毎にその強さを増していることにある。
グーグルの提供しているビジネスをプラットフォームという視点で分解し、整理してみると図表のように広告からインフラまで6階層のプラットフォーム構造に整理できる。ここでは各プラットフォームレイヤーについて分析してみたい。
A) データセンタープラットフォーム
世界最大のコンピュータリソースとも言われているグーグルの巨大データセンターは数十万台以上のサーバーが複数の拠点に分散されて構成されていると言われている。オーガニックストレージという考え方で、独自に開発した非常に低コストなサーバー群を大量に組み合わせたものである。人間の細胞も毎日たくさん死に、たくさん生まれるように、グーグルのサーバーも毎日何台かは故障するが、毎日新しいものが追加されている。つまり壊れたり故障することを前提にしたこの仕組みは有機的な生物のように体の一部が損傷したとしても生き続けることができる。
データセンターも分散されているため、どこかのセンターに問題があっても(実際一カ所で火災が発生したことがあったそうである)サービスが停止することのない仕組みになっている。そしてこの世界一巨大な分散コンピューティング環境は実験室ではなく、すでに世界中で何億人という利用者を持つサービスである点も重要である。机の上で理論的で画期的なアイデアを持つ研究者や技術者を採用するためにも最高の殺し文句になる。グーグルから「君のアイデアを世界最高のコンピュータシステムで実現してみないか!」と口説かれた時、彼らの多くの心は簡単に落ちてしまうのである。
まさに脅威のプラットフォームであると言えるだろうし、このプラットフォームと同等のものを作ることも容易ではない。実はソフトウェア企業に見えるグーグルはこの独自のハードウェアを大量に積み上げたデータセンターというハードの差別化による参入障壁を持つ企業でもあると言えるだろう。
B)OSプラットフォーム
マイクロソフトもウィンテルというパソコン業界のレイヤー構造の中でOSという絶対的なプラットフォームを築き、その上にオフィスという強力なアプリケーションプラットフォームを持つ構造ではある。グーグルが依存しているプラットフォームはW3Cで規程されたプロトコルであり、それに準拠したWebブラウザの上であればMacOSだろうがLinuxだろうが動くが、現在のパソコン業界の圧倒的なシェアの上ではWindowsが動いているパソコンの上でグーグルを使う人がほとんどであろう。しかし、そのことは逆にパソコンで無ければマイクロソフトの依存することなくグーグルのサービスが利用できるブラウザ環境を中心に提供することで利用者にはパソコンと同等のサービス価値を提供できることになる。今回の携帯OSは今後数の上でも圧倒的に個人の情報アクセス環境として利用されることが予想される携帯端末の世界で、キャリアや端末メーカーの壁を越えてグーグルのサービスを提供するためのプラットフォームである。同様にゲームやカーナビなどあらゆるNonPCデバイスで同様のOSプラットフォームを提供していく可能性はあるだろう。逆に言えばOSレイヤーの動きが遅かったり、グーグルのサービスが快適に利用できる環境が提供されないから自ら提供するという戦略であり、他社がそれを提供してくれるのであれば自ら必ずしも提供する必要の無いレイヤーとも言える。
このことはOSレイヤーの圧倒的な強さが全ての強さになっているマイクロソフトとの違いが明白である。マイクロソフトの場合はNonPC分野のモバイル分野でもWindowsモバイル、ゲームでもXBOXと独自OSにより様々なデバイスでシェアを握ることが最大の戦略であり、OSプラットフォーム命の戦略であるわけだが、グーグルの場合は各レイヤーをそれぞれ強化していくことで価値を最大化するという戦略をとっていることが伺える。
次回はコンテンツより上のプラットフォーム階層について考察してみたい。
藤元健太郎の「フロントライン・ビズ」
過去の記事
- 最終回 総集編:ITが促す社会変革5つのキーワード2008年5月 2日
- 第21回 白熱灯生産中止の衝撃-照明はIT産業になるか2008年4月22日
- 第20回 世界は5つのコンピュータに集約されるのか?-クラウド時代の予言2008年4月 3日
- 第19回 あなたの会社は仕事中にはてブを使えますか?(続編)──ITサービス業界の未来2008年3月 6日
- 第18回 あなたの会社は仕事中にはてブを使えますか?──IT鎖国する大企業2008年2月19日